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Welcome to the deep abyss  作者: ペン先曲助
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第三話

 単純作業というものは非常に苦手である。

 苦手というよりも嫌いだと言った方が正しいかも知れない。

 基本的に集中力は続く方であり特に飽き性というわけでも無かったが、単純作業は楽しく出来るものでは無く苦行であった。

 はずなのに。

 核を突き刺すという単純な作業であるスライム狩り。

 これが存外とても楽しいのだ。

 片っ端からスライムを刈り尽くしていくが経験値はおいしくない。

 20匹ほど倒してジョブレベルがやっと一つ上がっただけである。

 これが他のプレイヤーがいない理由だなと思いつつも俺はここから離れることが出来なかった。

 プレイヤーがいるところに出たら大鎌の俺は白い目をされるだけであろう。

 本当に最悪の場合は、トラブルなどが起きかねない。

 体をくるりと回転し沸いたそばのスライムの核を突き刺す。

 まだ楽しいはず・・・。




 あれからどのくらい経ったのだろうか。

 スライム狩りに飽きた頃にはレベルは3になり、時間は13:00を過ぎていた。

 

 「お昼食べなきゃな・・・」


 祖父に怒られたくないので名残惜しいがログアウトすることにする。

 ウィンドウを開き設定ボタンを開く。

 そこから下にスクロールし、ログアウトのボタンを押す。

 だけであるが出来ない。

 そもそもログアウトのボタンが存在しなかった。

 いろいろなボタンを押し、何度もメニュー画面に飛んでみるが一向に出ることは無い。

 先ほどメニューを見たときには浮かれていて気がつかなかったがこれは致命的なバグである。

 すぐに運営へ連絡しようとするが運営への連絡用ページが赤くなっていて連絡することが出来ない。

 明らかにおかしい。

 βテストもしたはずなのにこんなミスを起こすだろうか。

 ましてや運営に連絡することすら出来ないなどあり得るのだろうか。

 打開策は・・・・・・

 



 無かった。

 「結局は運営が直してくれる」という淡い期待を持ってこの広大な緑の大地を進む。

 正直に言えば、俺は完全にこの件について楽観視しているだろう。

 何度も思うがこのミスはあり得ないことなのだ。

 だがそれでも、あれだけ真剣に打開策を考えてはいたが、この状況は結構嫌いでは無かった。

 現実世界というのは、ひどくつまらないものであると俺は決めつけてしまっている。

 多分、冷めているのだ。

 現実には色が無く。

 こっちには色がある。

 これがすべてだろう。

 要するに、こちらの世界に長く居れることは、俺にとって都合が良かった。

 俺はこの世界では好奇心に操られ、身勝手に行動し、十分に楽しむ。

 それでいいじゃないか。




 そろそろ次の狩り場についたらしい。

 場所は何の変哲も無く先ほどと変わらない美しい草原だが、スライムのところと違って2パーティほどオオカミやイノシシなどと戦っている。

 奇異の目にさらされるのも嫌なのでその中に入ることはせず、気づかれないような場所まで行き戦闘を観察することにしよう。

 

 「あ・・・」


 しばらくすれば、オオカミと戦っていたパーティの一人が周りとの連携を誤ったのか、一身にヘイトを受け死んでしまった。

 予想通りプレイヤーも死ねばポリゴンになるのか。

 大体の攻撃パターンを把握した俺は一人気づかれない場所で戦闘を行うことにした。

____________________


メドウ・ウルフ Lv.1 獣属

メドウ・ウルフ Lv.1 獣属

____________________

 

 最初に出迎えてくれたのは中型くらいの二匹のオオカミたちであった。

 目が合うや否や、全力で地を蹴り襲ってきたので回避が間に合わず、パリィに専念する。

 左肩に噛みつこうとしてくるオオカミは、顎を大鎌の柄の部分で小突き軌道を逸らすことが出来たが、もう一体の攻撃は防げなかった。

 右足にオオカミの牙が食い込む。

 痛みはあったが、あくまで冷静にすぐさま右足を蹴り上げることで振り払う。

 

 「ふぅ・・・」

 

 危ない。

 スライムと違い連携を取ってくるのもあるが、単体でもそこそこ強いだろう。

 先ほど攻撃を見たが、実際に見ると少し早く見えるな。

 このモンスターには核というのは無さそうだし、先ほどのスピードを見るとアーツを出す隙すら作れなさそうだ。

 俺のHPを見てみると意外にもダメージを受けていない。

 足を蹴り上げただけで振り払えたのを見る限りあまり顎が丈夫では無く、攻撃力は低いように思われた。

 まだチュートリアルのようなものか。

 スライム戦は攻撃を正確に当てる練習だとすると、今回は本格的な戦闘での立ち回りや、一体多の練習なのだろう。

 スライム戦で大体この武器のクセはわかったつもりだ。

 今から一発も攻撃を受けず、完全に勝利しよう。




 オオカミの飛びつきを躱しつつ鎌で切りつけ、もう一体の噛みつきに対してはその勢いのまま回転しパリィする。

 この理想的な立ち回りを成功することが出来たのはちょうどオオカミを8組、つまり16体倒したときだった。


 「2匹同時は辛いな・・・。よくやったほうだ」


 あのパーティは俺が見に行ったときにはすでに一体倒していたのか。

 当初は一発も攻撃を受けずに倒すことは簡単だと思っていたが、終わってみれば1時間で出来るようになった自分を褒めるようになるほど考えは変わっていた。

 スライムの時に少し調子に乗っていたのだろうか。

 この世界は甘くないぞと言うことを知らされたようだった。

 少し休憩しようと草原に寝転ぶ。

 ここら辺のオオカミはあらかた狩ってしまったので次に沸くまでにまだ時間がかかるだろう。

 ウィンドウをいじり、時間やステータス、戦利品、そしてログアウトボタンの確認をする。

 集中、熱中してると時が経つのって早いんだな・・・

 現在が16:32分であることや自分のレベルが気づけば5であること、戦利品の多さに驚きつつ顔をほころばせるが、一番気になるログアウトボタンの復活は無かった。

 運営も未だに声明を出しておらず、掲示板を見ればプレイヤーの不満が爆発していた。

 

 「いやいや、無いだろう」


 中にはログアウト不可のデスゲームが始まるのではと言っている人もいるので、冗談らしく笑い否定する。

 早く家に帰せよ、など様々なプレイヤーの反応を見るが当の俺自身は何も感じていなかった。

 強いて言うならば、祖父を安心させたい。

 俺は大丈夫だぞ、とじいちゃんのおかげで少しは元気になれたような気がするよ、とこの世界を見つけてくれた祖父に感謝を伝えたいと思った。

 


 

 俺は警戒を怠っていたのだろうか。

 それはないだろう。

 俺は完全にここら一帯に注意していた。

 いつ敵が沸いても良いように適度に周りを見渡し、その都度鎌を持っていた。

 だが結果はどうだ。

 今俺は囲まれているじゃないか。

____________________


ウィンドバード Lv.2 鳥獣属

ウィンドバード Lv.2 鳥獣属

ランド・ボア Lv.3 獣属

____________________


 はじめに沸いたイノシシに気を取られていたのは確かだが、そもそも空中を注意していなかったのだ。

 先ほどこの世界は甘くないと言うことを学んだじゃないか。

 イノシシの突進を避けるが、その隙を狙って鳥が前足でひっかくように攻撃してくる。

 鳥は臆病なのか、一発入れて逃げるというヒット&アウェイの体制をとっている。

 ・・・隙は無いな。

 逃げることを考えたが、イノシシのスピードは俺よりも遙かに速く、鳥は飛んでいるので言うまでも無い。

 せめて足掻いてみるか。

 再度イノシシの突進を躱し、その後に鳥が襲ってくるであろう場所に鎌を振り上げた。

 見てからでは遅いので勘ではあったが、一体に命中し地面に落ちる。

 まずは数を減らしていこう。

 そう方針を決めた矢先に予想外の攻撃を喰らう。

 

 「な・・・!?」


 なぜ!?

 

 俺が打ち落とした一体に追撃を加えようとしたとき、てっきり空中にいると思っていたもう一体がくちばしで俺の肩を貫いた。

 一体が打ち落とされたことがトリガーになって起こる行動パターンの変更。

 これが頭に入っていなかった。

 

 「クソ・・・!」


 吐き捨てるように呟いた先には、突進してくるイノシシの姿があった。

 ウィンドバードの突進によりバランスを崩した俺に避ける手段は無い。

 ああ・・・

 今からきっと俺は死ぬんだろう。

 死を受け入れようとはするが、体はそれを拒むようにわずかに震えている。

 いいじゃないか、遅かれ速かれ死ぬことになる。

 それが今になるだけだ。

 目を閉じ、今回の失敗を胸にすべてを受け入れる。

 瞬間、5時の鐘と共に俺はポリゴンに包まれた。




 再び目を開ければ見覚えのある場所に立っていた。

 情報によると死んだら教会にリスポーンするはずであったが・・・

 デスペナルティによる体のだるさは無く、イノシシの突進を受けた痛みも無い。

 俺は死んではいなかったのか・・・?

 周りを見渡せば転移してくるプレイヤーが多く、少しもしないうちに広場はプレイヤーによって埋め尽くされる。

 強制テレポートか・・・

 自分の置かれている状況を整理する。

 イノシシの突進を喰らいそうになっていたところを全プレイヤー強制テレポートによってギリギリ助けられたわけだ。

 こんなところに大勢のプレイヤーを呼び出すとなると運営の謝罪であろう。

 なんとなく見上げた空には今朝のようなさんさんと輝く太陽は無く、闇に包まれ赤黒く焼けたような夕焼けが顔を隠そうとしていた。

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