表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Welcome to the deep abyss  作者: ペン先曲助
20/20

第十九話

 多くのモンスターを追い抜かし、とりあえずは街に帰還した。

 モンスターがどうしても街に近いので、Dizzy、Faker、オボロが街の防衛に当たり、俺とカザキでラララに報告しに向かう。

 街の防衛には、ボス攻略には参加していなかった部隊も加わっており、まさにプレイヤー全体で戦うという居合いが感じられた。

 最初に大鎌を売ってくれた鍛冶屋、実は世話になっていた雑貨屋。

 街の至る所で、NPCが騒ぎ立てていた。

 

 「これ、ヤバそうだよな」


 「かなりヤバそうですね」


 街の住民は錯乱している。

 明らかに過剰反応だ。

 モンスターはいまのところは数が多いだけで対処できない程では無い。

 それに、このゲームの設定ではNPCが外に出ることは出来ないので、門の外の様子を知ることは出来ないだろう。

 それなのに、なぜ。

 

 「神・・・サマ・・・」


 今の声は・・・?

 NPCが発した音を、俺は聞き逃さなかった。

 視線の先、呟いた者は両手を合わせて願った後、路地の裏の方に歩いて行く。


 「カザキ、ごめん。ラララのところには一人で行ってくれ。俺はちょっとここらの住人に話を聞いてくる!」


 「クレンさん!あー・・・」


 


 さっきの声の主はどこだ?

 探せ。探せ!

 俺は路地をくまなく探す。

 なぜ、「神様」と呟いた者を追いかけるのか。

 それはその姿と呟いた時の表情にあった。

 黒の修道女姿で、祈ったときには笑みが見えた。

 周りのNPCとは一線を画すような行動だ。

 焦りながらだったり、不安そうな顔をしながら祈るなら、俺だって追うようなことはしなかった。

 だが、あろうことか笑みを浮かべていた。

 皆が絶望しきるこの街で、彼女だけが。

 



 見つけた。

 路地裏の暗闇の中、彼女は歩いていた。


 「すいません。少しお話良いですか?」

 

 あれだけここら辺の路地を走り回ったんだ。

 きっと、気づかれていただろう。

 

 「嫌だ、と言ったら?」


 振り向いたその子は、意味深な笑みを浮かべながらそう言った。

 少女。

 全身は、黒かった。

 いや、正確に言えば全体が黒いというわけでは無い。

 どこが黒かったかと言えば、髪、目、爪だろう。

 肌は陶器のようにとても白く、艶やかだった。

 白かったけれども、なぜかどうしても黒の方に目がいってしまう。

 とにかく、初見の印象は黒だった。

 

 「その割には、話に応じてくれそうじゃ無いか」


 あっちの笑顔に対して、俺はあくまで真面目に、真剣な表情で言った。

 彼女は笑みを浮かべたままこちらを真っ黒い目で捉えている。

 

 「いいよ。話は聞くし質問にも答える。でも、一つ先に言っておきたい。こんなことになるなんて思わなかったんだ」


 その顔に未だに浮かばせる笑みとは対照的に、声色は悲しみを帯びていた。

 不思議な感じだ。

 

 「言動と表情が一致してないように見えるんだが?」


 「あぁ、これね。今になって気づいたよ。全部」


 何の話だ?

 さっぱり伝わってこないぞ?


 「俺にもわかるように説明してくれ。まず、なぜ路地裏前で髪に祈っていたときに笑っていたんだ?そういうせって・・・」


 そこで俺は言うのを止めてしまった。

 設定・・・が果たしてNPCに通じるか。

 この世界ではこの言葉はタブーでは無いのか。

 ・・・。

 ダメだろう。


 「なぜ笑っていたかって言うと、そもそもこの混乱、イベントは私が起こしたものだからだ」


 あっさりと述べた。

 声色は悲しげだというのに。


 「じゃあ、なんでそんな悲しそうにしているんだ?」

 

 「私は元々、普通の家庭に生まれた普通の人間だったんだよ。でも、いつの間にか儀式をやらされていたんだ。本当に、ついさっき貴方が見たって言う神に祈っているときに思い出したんだ。普通の家庭のことを。もっとわかりやすく言えば、洗脳されたんだ。きっと。確証は無いけれど。そして、計画を達成した私は"達成できた"という嬉しさと"この街を滅ぼしてしまうかも知れない"という不安を持っている。だからかな、私が言動と表情が一致しないのは」

 

 NPCとは思えない返答の仕方だな。

 こんな自分のことを理解し、話すNPCなど他には見ないぞ。

 それよりも今は・・・。

 洗脳。

 この話が本当であることを前提に推測すると・・・。

 

 ・・・!


 わからない。

 これが合っているかどうかは。

 だが、これなら一通りのつじつまが合うのでは無いか。

 ただ。

 結論を出す前に、聞いておけることは聞いておこう。

 

 「誰から洗脳されたのかはわかるか?」


 「いいえ」


 もう一つ。


 「これから君はどうするんだ?」


 「わからないわ。私の使命はここで終わりなのだから」


 それは、やっぱりそういうことか。

 俺は、この子をどうしようか考えていた。

 NPCとは言え、利用されていただけなのだ、やつらに。


 「きゃッ!」


 考えているときに、目を外してしまった。

 その一瞬。

 壁の影に、黒の渦が出来ていた。

 それは、草原の上にあったものよりは小さくはあれど、酷似している。

 そこから出てきた腕に、彼女は乱雑に捕まれている。

 助けようと動こうとするが、その様子はあまりに一瞬だった。

 俺が一歩踏み出した頃には、その少女も渦も、何も無かったかのように路地裏は静寂に満ちていた。

 

 


 これは俺の仮説で、なかなかぶっ飛んだ内容だ。

 あくまで予想なので、あまり本気で受け取らないでほしい。

 まず、この世界のゲームマスターは、開発した会社の運営とは異なるかも知れない。

 こちらが外の世界の状況を知ることは出来ないのでどうしようも無いが、これから述べる内容を鑑みて、このような結論に至った。

 カザキと別れた後、修道女の格好をした少女に話しかけた。

 街中がパニックでありながら、彼女は笑みを浮かべていたからだ。

 話を聞いてみたところ、自分は誰かに洗脳されていると言った。 

 彼女は元は普通の家庭の普通の人間だったらしい。

 だが、そのせいで、毎日儀式をさせられたと。

 この話を聞いて俺は、元のNPCの設定を上書きされたのでは無いかと思った。

 そもそもこのイベントをやるつもりだったのなら最初から普通の人間という設定は捨てて、適当なカルト教団に入れておけば良い。

 でも、そうしなかったのは運営にとっても想定外のこと、つまりこのゲームが何者かに乗っ取られている可能性があり、このイベントが急遽始まったのでは無いかと言うことだ。

 こういうことはこれからも続く可能性がある。

 念のため、掲示板にNPCの聞き込み調査を書き込んでおいてほしい。

 あと、もうそっちに行っても意味ないと思うから門の外のモンスター狩りを手伝っておく。

 


 「・・・ふう」


 文字を打つのも、これだけ多いとなると疲れるな。

 路地裏。

 あの不可解なことが起きてからは数分は警戒をしていた。

 だが、自分にはあれがこない

 とりあえず、自分の考えをラララにメッセージとして送り、門のほうに向かう。

 きっと、今から行ってもカザキとすれ違いになるだけだろう。

 それなら、俺も戦闘に加わって、今の内に敵の数を減らしておこう。

 それに、あの渦から敵が来そうなのはほぼ確定だしな。



 

 「加勢に来た」


 まぁ、いらないだろうけどな。

 

 そんなことを思っていた俺に反して、帰ってきた言葉は予想外のものだった。

 

 「ほんま助かるわ~!」


 「俺たちだけじゃ、捌ききれねぇ!」


 ずっと戦っていたであろうDizzy達と、合流したであろうXepherの部隊が懸命に戦っている。

 この草原には、他の部隊、ボス攻略にいなかった部隊も戦ってくれていたはずだ。

 それなのに今では、その部隊も数を減らしている。


 「他のやつらはどこにいったんだ?」


 「集中力が切れそうやったから休憩してるだけや」


 なるほど。

 事故になる前に撤退させてくれた訳か。

 Dizzy達も疲労がひどいはずだ。

 疲労が少ない俺が少しでも片付けよう。


____________________


メドウウルフ Lv.6 獣属

メドウウルフ Lv.6 獣属

ウィンドバード Lv.6 獣属

ランドボア Lv.6 獣属

・・・

・・・

____________________


 「まじか・・・」

 

 そのさっきの言葉を前言撤回したくなるような敵の数。

 敵のカーソルが自分の視界にしっかり映らないほど、重なり合っている。

 多すぎる。

 このままでは削りきれないかも知れない。

 夜になったら魔獣化して、より厄介になる・・・。

 考えてる暇は無いな。

 やるしかない。


 


 単体では脅威では無い。

 問題なのは数だ。

 俺は大鎌を使う都合上、攻撃範囲が広いので味方と距離をとらなくてはならない。

 その結果、囲まれてしまうのだ。

 

 「辛いなぁ・・・」


 前方の敵を横薙ぎした後、すぐに左右に目をやる。

 同時に狼が飛びかかってくるのが見えたので、大きく股を開き姿勢を低くする。

 飛びかかってきた狼はお互いぶつかることこそ無かったが、空中で交錯し合い2匹が重なり合ったところを切り上げる。

 まだ被弾するわけにはいかない。

 後ろからの攻撃を、目の見えない3年間で培った空間把握能力で察知し、切り上げた勢いのまま後ろを振り向きつつ切り裂く。

 こっちにはリーチがある分、あまり大きな回避行動をとることは無いが、攻撃頻度が少ない分、やはりイレギュラーに対応しにくい。

 

 「近づかれる前に、全部やろうか」


 今見える敵は、少なくともノーダメで勝とう。

 



 「応援遅れた!すまない!!」


 待望の声が聞こえた。

 きっと、先ほど撤退したパーティ達だろう。

 休憩を終えて、帰ってきてくれたのだ。

 

 「ありがとう!こいつらのパーティと代わってくr」


 「いや、いい!!」


 俺の指示を、Dizzyは拒む。

 

 「ここでワイらが下がれば、敵を倒すペースは遅くなる。そうなったら夜までもつれこむで!」


 確かにそうだ。

 だが、今のDizzyの状態は正直危ない。


 「危険だと思ったらすぐに下がれよ!」

 

 オボロは安定しているから大丈夫だが、Dizzyは明らかに集中力を欠いている。

 被弾もしているし、休憩を取った方が良いのは明白だ。

 相手の攻撃がたいしたことないので感嘆に立ち直せているが、普段よりも動きが鈍っている。

 そういえばFakerはどこにいった? 

 俺とカザキがDizzy達と別れたときには確かに居たはずだが。


 「Fakerはどこいったんだ?」


 迫り来るランドボアの攻撃を避けながらDizzyに聞く。

 

 「あいつも休憩行ったはずやからすぐ来るはずだけど・・・ッ」

 

 応援が来たのは良いがこのままだとジリ貧だ。

 こちらが先に潰れる可能性が高そうだ。

 



 

 『お待たせしました~。これより、イベントを開始しまーす!』

 

 いつぶりかに聞いた、ゲームマスターの声。

 その声は相変わらず気分が悪くなるほど明るく、明らかに今の戦場に場違いだ。

 あれからどれくらい時間がたったのかわからない。

 経った時間が短いのか、長いのかもわからないくらいずっと戦っていた。

 応援に来てくれたパーティも善戦してくれて、なんとか持ちこたえている状況だ。


 『では、説明を開始しまーす!』

 

 「Dizzy下がれ!」

 

 「ガハッ」


 脳天気な声が脳内で流れる中でも戦闘は続いている。

 このままではDizzyが持たない。


 『皆は多分、草原での渦は知ってるよね?あれが今回の討伐対象です。あれを倒さない限りモンスターは永遠に沸き続けるのでご注意くださーい。今回のイベントを達成したときには、相応の報酬をプレゼントする予定ですので~、頑張ってくださーい!あ、あと特大ヒント。"招かれざるものたち"というのは雰囲気でわかりますよ~』

 

 長く、そして絶望を感じる説明だった。

 その間にもDizzyも俺も、ここにいる全員が街を守るために応戦していた。

 千鳥足で、攻撃を避けることが出来ず、がむしゃらに剣を振るい、ポーションで無理矢理継戦している様子は、まさに死の間際。

 倒しても倒しても、それでもあふれ出てくるモンスターを見ると嫌なことが頭をよぎる。

 誰も渦にたどり着くことが出来ない。

 もしかしたら、クリア不可能なのでは無いか・・・と。


 「お待たせーい!!」


 突如として、場違いな明るい声が聞こえる。

 まさか。


 「ごめん!!遅れた!!」


 振り向けば、Fakerがいる。

 それも、大勢の舞台を連れて。

 

 「ここは、私たちが抑えるからね~!」


 後ろにはサエコさんの遠距離部隊が見える。

 Xepherの部隊、ラララの部隊、そしてカザキもいる。

 

 「ここは、僕たちの部隊が抑えます!!今戦っている部隊は一旦休憩!その後、Dizzyさん、オボロさん、クレンさん、Fakerさん、カザキさんで渦の方に向かってください!!死なないように慎重に立ち回ってください!!いざとなったらXepherさんの部隊もそっちに向かって貰いますので、そのつもりで!!」


 声を張り上げ、ラララはそう伝える。

 Dizzyも、その言葉に頷き、長い前線から身を引いた。

 オボロは汗一つ無く、淡々とDizzyに続いて、戦闘から離れた。

 俺も同様に離れ、カザキの方へ向かう。

 

 「勝手に一人で行くからピンチになるんですよ」


 やや、すね気味に、なおもだるそうに言うカザキ。


 「しょうが無いだろ。あれだけ攻められてたら危なかったって。それより、その装備・・・」


 言い訳中に気づいた。

 カザキの装備が前のものとは違う。

 黒を基調としているのは変わらないが、所々に白のひし形の石がアクセントとしてつけられていて、少しゴージャスになったように感じる。


 「どうです?似合いますかぁ?」


 見せびらかすように、そして"童貞"の俺を馬鹿にするようにほらほら、ほらほらと言わんばかりに見せびらかしてくる。


 「うるさい。まぁ、でも、良いんじゃ無いか?」


 「ハハ、ありがとうございます」


 とりあえず、褒めた。

 実際に似合ってはいたのだが、面と向かって言うのはどこか恥ずかしい感じもする。

 仕方が無いことだ。

 15歳から3年間人を避け続け部屋にこもっていた俺が、対人スキル、それも女性に対してなど素直に言葉を紡ぐことさえ難しいのだ。

 年下っぽい女の子に舐められるのは屈辱ではあったが。


 「クレンさんの装備も貰ってきましたよ」


 カザキはウィンドウを動かし、いかにも重そうに大鎌をオブジェクト化する。

 それは全体的に黒く、刃の部分が淡く赤色に染まっていた。

 新しい武器というのは、それだけでどこかテンションが上がるものだ。

 俺はそれを握り、思う。

 この武器さえあれば、渦でも何でも倒せるな、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ