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Welcome to the deep abyss  作者: ペン先曲助
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第二話

 ファンファーレが鳴り響いた後、閉じられた瞳に光が当たったのを感じて目を開く。

 

 「ぁ・・・」


 この世界に来てからの第一声はなんとも間抜けな声であった。

 だがそれも仕方の無いことと言えるだろう。

 目の前に広がる光景はただただ美しかったのだ。

 赤くも白くも輝く太陽光が様々な建物のガラスに反射して、宝石のように街を照らす。

 見渡せば西洋を思わせるレンガのようなもので出来た家が建ち並び、その周りをせわしなく人々が歩いている。

 まるで一つの王国のような街だった。

 そして、その街の中央の広場に俺は今立っている。

 感動、興奮、期待。

 先ほどの目が見えたときには訪れなかった感情が一気に押し寄せ、本当に目が見えるようになったんだと教えてくれる。

 始まりの街、セグメール。

 その町の空は全プレイヤーを祝福するように晴れ晴れとしていた。


 

 街の探索がてら、メニューウィンドウを表示する。

 街を知りながらこのゲームのことについても知ろうという、効率的な技である。

 現実世界風に言うならば「歩きウィンドウ」をしながら大通りの横の小道に入る。

 ウィンドウの左上には9:36の表示。

 現実世界とリンクしているのだろう。

 中央には装備変更、アーツ取得、ポーチ、マップ、フレンド、クエスト、掲示板、スクリーンショット&録画、設定のボタンが存在した。

 それぞれ開いていくと

 ・「装備変更」は装備の他にもジョブを入れ替えることも出来る

 ・「アーツ取得」は、「アーツ」という自分のMPを消費して打つ必殺技のようなものを、ジョブのレベルアップ時にもらえるポイントを振り分け取得できる

 ・「ポーチ」は普通にアイテムを表示してくれる

 ・「マップ」は自分がいる場所から半径1メートルほどの地図をウィンドウに表示してくれる

 ・「フレンド」はフレンドになった相手とパーティを組んだり、クランを組める

 ・「クエスト」は現在受けているクエストの一覧を見れる

 ・「掲示板」は様々な板が立てられていてプレイヤー間での雑談や、有益な情報を得ることが出来る

 ・「スクリーンショット&録画」はボタンを押せば、自分の目に映ったものを保存でき、それを掲示板に載せることが出来る

 ・「設定」は痛覚や嗅覚などの感覚設定を行うことが出来る

 というものであった。

 気になったので掲示板を見てみるとすでに様々な板が立てられている。

 βテストをやった人がいるので色々と情報が書いてあるのだろう。

 だがそれを見れば何かネタバレを喰らうような気がして、結局閉じてしまう。

 ここまでの作業に疲れたので首を回し、街の様子を眺める方へ集中する。

 ふとガラスを見てみればそこには大人びた黒髪の目が大きな美形の男がいた。

 これを俺だと認識するのに少し時間がかかったが、また慣れるだろう。

 


 

 ある程度街を探索すると、街の外を見てみたいと思った。

 これほどまでに綺麗な世界なら、この街の外はどうだろうか。 

 まだ現実で目が見えていた15の頃の俺は、景色などを見てもただ漠然と「綺麗だな」と思うだけでここまで興味をもつことはオーロラ以外には無かった。

 18になり精神が成長したとは言え、現実での景色ならこれほどまでに見たいとは思わなかっただろう。

 先ほどの感動を超えるものがあるのか。

 きっとこの世界での景色はあのとき見れなかったオーロラと同じくらい、この街と同じくらい、もしくはそれ以上のものを見せてくれるかも知れない。

 だが、期待して、行動を起こしても良いのか。

 好奇心は身を滅ぼすぞ。

 冷静になり、好奇心というものに抗うべきかどうかを考える。

 この世界では今のところソロだ。

 誰に迷惑をかけることも無い。

 そしてこれはゲームだ。

 最悪死んでも生き返れるさ。

 思考は単純な方へ、自分の進みたい方へ自然と寄っていった。

 そろそろ過去の自分と決別するときが来たのかも知れない。

 その第一歩として、せめてこの世界では好奇心に対して素直になろう。

 決意し、駆けだした。


 


 門の目の前。

 俺の両手には今、大きな鎌が握られている。

 どうやら俺にもまだ情けやロマンというものがあるらしい。

 街の中を走り抜け、門から飛び出し冒険に出る・・・という直前に武具屋が見えてしまったのだ。

 そこの武具屋には様々なものが売っており、俺が選んだジョブの《ウォリアー》はほとんどの近接武器が扱えるので大いに悩んだ。

 だが、店のNPCの後ろに飾ってあるこの大鎌を見つけてしまったのだ。

 なぜそれを店頭に出さないのか聞いてみると、どうやら鎌は攻撃力は高いが扱いが難しいらしく、どうしても売れ残ってしまうらしい。

 俺よりも早くにログインしたプレイヤーはこの大鎌に見向きもせず、他の武器ばかりを買っていったとのことだ。

 それを聞いていたたまれなくなったのか、はたまたロマンに負けたのか、俺はこの大鎌を購入してしまった。

 ネタバレも気にせず、メニューウィンドウから「βテスターによる武器ランキング」という掲示板を見てみれば、案の定最下位であった。

 理由は単純に小回りがきかないのと、パーティで攻略するときに攻撃の範囲が大きい大鎌は連携が取りにくいからであった。

 槍と大剣の中間の立ち位置であったが、槍と比べれば取り回しづらく、大剣と比べれば刃の表面積が小さいので防御しにくいなどがあった。

 また、切っ先の部分が曲がっているため「初心者は絶対に使うな」だとか「邪魔」だとか散々なことを書かれていた。

 ここは「どうせ俺はソロだから関係ない」と強がっておこう。

 少し、いや大分悲しいが心を入れ替え、門を出て戦闘をしてみようと思う。


 

 壮大で、美しかった。

 青々とした空に、一面に広がる草原。

 まるで有名な画家が描いた一枚の絵のような黄金比の景色を見て、大きく深呼吸をする。

 肺の中に自然の匂いを取り込み、吐き出す。 

 ここから第二の人生が始まると言っても過言では無い。

 好奇心を解放し、現実で出来ないことをここでたくさん体験する。

 その第一歩として戦闘をする。

 今までの人生でアクションゲームなどしたことは無いが序盤の敵だ、なんとかなるはず。

 だが、油断してはいけない。

 感覚設定で痛覚やその他諸々を百パーセントにしているので出来るだけ攻撃を食らいたくは無い。

 死んでしまうのは尚更だ。

 死なないように慎重に立ち回ろう。

 


____________________


グリーン・ジェル Lv.1 スライム属

____________________


 眼前には知識の一欠片も感じさせることの無い、粘液性の土と草原の草が混ざったような、腰元くらいの大きさのスライムがいる。

 もちろんだが俺はスライムとは戦ったことが無い。

 RPGで最初に戦う敵筆頭のスライムだが、現実にいない分、動物型のモンスターに比べて戦いづらいように思える。

 幸いにもまだ気づかれていないため、とりあえずは大きく飛び出し背後から奇襲を仕掛けようと試みる。

 だが、どちらが正面でどちらが背後なのだろう。

 1分ほど悩んだ末に、考えるのを放棄した。

 

 ある程度距離が離れているので、「アーツ」を使用してみようと思う。

 

 アーツ・・・いわゆる必殺技のようなものでMPを消費し発動する。威力が高く、スピードも速いが使いすぎればMP切れを起こし体がだるくなってしまう。そしてその使い方は・・・。

 

 「アーツの発動条件の構えを取って、意識するだけ・・・」


 下段に構えた鎌が紫色に光るのと同時に自分の体が何者かに押される。

 これはシステムの後押しであると理解し、それに身を任せるようにし地面を足で蹴る。

 現実ではあり得ないほどの疾走感を纏い、わずか一歩でスライムを攻撃範囲に捕らえた。

 すると握っていた大鎌は自我が宿ったように動き出し、俺は下段から一気に切り上げる形で鎌を振り上げる。

 初期アーツ「アクセルスレイン」。

 自分の中ではすさまじい一撃を放ったはずであったが致命傷を与えたという手応えは無い。

 スライムは切り裂かれている、だがHPを見てみればグリーンであり一切減ってはいない。

 どういうことだ?スライムは防御がとてつもなく高いのか?

 様々な思考を巡らせつつ相手を観察していると、切り裂かれた二つが再び融合しようとする中、断面に核のようなものを発見する。

 俺はすぐさま鎌を振り下ろしスライムの核に鎌の先端を突き刺した。

 結構な力を入れ、ガリガリといいつつも核は無事破壊され、スライムはドロドロに溶け出す。

 HPが減り、全損するとドロドロの液体と固体の間のようなものは青いポリゴンになり、爆散した。

 

 「なるほど・・・」

 

 死ぬとそうなるのか・・・

 俺が死んだときもこんな風になってしまうのだろうか。 


 「それはとても現実味が無くて、嫌だな」


 この世界での死はいずれ体験するだろう。

 だが、今じゃ無い。

 感覚設定を100%にしているので自分から死ににいくという愚かな行為はいたくないのだ。

 

 「怖いね」


 誰に言うのでも無くひとりでにそう呟くと、スライム狩りに戻ることにした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 目が見えない主人公が、VRを通して見えるようになる。仮想空間ならではできる面白い発想だと思いました。 [一言] これからも頑張ってください。
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