Hounds from the darkness
これは俺がやっと街から出て、最前線に追いつこうとする物語だ。
世間(この世界の中の)では、最前線のメンバーが最初のボスを倒したって情報が持ち上げられている。
それを聞いて、さすがの俺も火がついちまったのさ。
最初は手っ取り早くスライムを倒してレベルアップ。
空を飛ぶ鳥や、狼も順調にクリア。
・・・おっと、"一人で"、とは言ってないぜ。
もちろん、怖いからパーティは組んださ。
正直言って、これまでの戦闘は楽勝だった。
運動神経はもとより良い方だったし、剣道をやっていたから太刀はどこかしっくりきたんだ。
スタートダッシュを切ってないだけで、最前線の組に追いつける気さえした。
レベルを上げ続ける毎日。
自分も、こんな世界からの脱出に少しは貢献したかった。
家族がいる世界に帰りたい。
辛かった部活の練習も、ここでの日々よりは安心できた。
戦闘は楽勝でも、精神はちっとも落ち着いては居なかった。
毎日泣き出しそうになりながら頑張った。
宿に帰っては、弱音を吐きそうになった。
弱音を吐かないように、宿に帰らなくなった。
眠気を飛ばすように、戦闘するようになった。
戦闘してから、レベルが上がった。
レベルが上がり、成長した気分になった。
でもそれは所詮、ニセ物だった。
そんな生活を3日か4日ほど続けた。
自暴自棄になったといっても過言では無い。
エルガドという第二の街に行けるようになってからはそっちでもレベル上げをしたし、そっちでも蛇にあったとき以外は苦戦しながらもなんとか勝てた。
俺はふと、自分の実力が試したくなった。
この世界で出会った俺の他の仲間達も、腕試しがしたくなっていた。
そこで、掲示板で募集をかけた。
第一のボス、グランドウルフをまずはボコしませんか、と。
結果は、集まった。
6パーティ、フルレイド。
正直、どんな敵が来ても負けないと思った。
今思えば、本当に勝てたのだと思う。
・・・本来のボスが相手だったのならば。
俺たちは、草原に着いた。
青々としていて、広い。
決戦の場所として、文句が無いような場所だ。
まぁそれは、そこに先客がいなければの話だったのだが。
その人は、いや、そいつは・・・モザイクだった。
そのときは、遠くから見ていただけだから、何かバグかもしれないと思った。
手には言葉では言い表せない何かがある。
無理矢理に言葉にするならば、"闇"という言葉が一番近いのだろうか。
俺たちが見たものは、きっと、誰一人見たことが無いだろうものだったからだ。
ともかく、その時点で何かおかしなことをしようとしているのには気づいていた。
だから近づいた。
少しずつ近づいた。
なるべく気配を消して、足音を消して。
36人での移動だから、そんなことをしても意味ないと言うのに。
そのモザイクは、呪文のような言葉を呟いていた。
「早く出たいよねぇ。早く出たいよねぇ。でも、ダメなんだ」
そんなことを言いながら、左手で空間を掴んだ。
何を言っているかわからないと思う。
だが、確実に空間を掴んだんだ。
やがて、それは引っ張られて、そこには穴が空いた。
その穴に左手を突っ込んだまま、右手で今度は時間を掴む。
周りは停止し、その中ではモザイクだけが、動くことが出来た。
俺たちは、指先一つ動かせなかった。
そのモザイクが右手の穴と左手の穴をくっつけて時空の歪みを作り出したときに、俺たちは動けるようになった。
・・・こいつはヤバい。
そう思った俺たちは、こいつを仕留めにかかったんだ。
ここで倒さなければヤバい。
確実にヤバい。
20メートルほど先の獲物めがけてダッシュする。
そのモザイクは、俺たちが襲ってくるのを一瞥し、それでも関係まいと事を進めた。
いや、俺たちが5メートルほどに迫ったとき、あろうことか笑いながらモザイクは呟いた。
「運が悪かったねぇ。君たち」
そして俺たちは一瞬でボコボコにされた。
何が起きたかわからない。
ただ、みんな死んでいない。
体のどこかしらが折れて行動ができない状態であった。
力の差は歴然だった。
自分の度量がちっぽけなものに感じた。
この勝負の諦めは、もうついていた。
「本当はこんなことしないけど。餌になりにきちゃったんだもんねぇ」
・・・あぁ、負けた。
だが、生きることを諦めてはいない。
ここから逃げだそうと、なんとか匍匐前進のようにうつ伏せになりながら、遅々としてだが着実とその時空の穴から逆方向へと進む。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
後ろから、同じパーティだった男の声がした。
少し頭を動かし横目で後ろを確認すると、男が捕まり、時空の穴に投げ込まれていた。
ばきばき。
ぐちゃぐちゃ。
ばくばく。
おもちゃのように、壊される。
赤ちゃんがたべるように、汚らしく。
大人のように、食欲旺盛に。
俺は恐怖で今にもちびりそうだった。
恐ろしかった。
あの穴の中に何が居るのか。
何に"食われた"のか。
後ろで気を失っている奴ら、動けない奴らは次々に食われていった。
食われるたびに、おおよそ人間の体からでるような音では無い音が鳴り響いていた。
それでも、後ろは振り向かなかった。
ただ、生き残りたかった・・・。
折れまくった体での逃亡は無謀だった。
俺はあっさりとモザイクに捕まり、穴の前に差し出された。
・・・あぁ、もう最後なんだ。
「もっと時間かかると思ったけど、思わぬ収穫だったな。このまま行けば、3時間後には始めれるかな」
アハハとわざとらしく、それでも心底楽しそうに笑うコイツの正体にやっと気がついた。
・・・こいつはゲームマスターだ。
それを伝える手段はすでに無かった。
俺はただ、深い暗闇の中に放り投げられ、その中で見たんだ。
とても大きな、巨大で凶悪な犬を。
人間を嬉々として食す、犬のような化け物を。
―――とある勇敢な者の末路




