第十八話
現在、探索を中止して始まりの街セグメールに戻ってきている。
俺にカザキ、Xepherのパーティだけでなく、ラララやDizzy、久しぶりに見たサエコさんたちもいる。
いわゆる、最前線達がセグメールの教会に集まっていた。
というのも、エルガド付近のミッドボスを倒すということよりも先に、やらなければいけないことが出来てしまったのだ。
きっかけは、ガイから送られてきたメッセージだった。
「クレンさんのあの技、初めて見ましたけど・・・」
「ああ。15レベになって習得してたんだけど、隙が大きいのと攻撃方向がまっすぐしか無いから使いどころが無くてな。まぁその分、威力高いから満足してるけど」
あの黒蛇を倒した直後、こんな話をしていたような気がする。
お互いに顔を見合い、武器を前に出しコツンとぶつける。
そんな、勝利を噛みしめているときだった。
ピロロンとメッセージ音が静かな森の中に鳴り響く。
「・・・ガイからだ」
珍しい。
錬金やら装備の製作やらで忙しくないのだろうか。
「私たちの装備が出来たんですかね?」
カザキが珍しく声のトーンを上げ、そう言った。
そういえば頼んでいたな。
2日ほど前のことなので忘れていた。
だが。
新しい装備が来ることを考えると俺も心が躍る。
今の装備に満足していないわけでは無いが、例えば3匹の群れで行動するプレザント・グラスホッパーを今は3発で倒せる(カザキの援護一回入れば2撃)が、新しい武器が入れば2発で倒せるのか、とか誰もが考えることだろう。
いや、少し俺もゲーマーになってきたか?
少しウキウキしながら『なんだ?』ととぼけるように返信を打つと、爆速で返事が返ってくる。
『セグメールがおかしい気がする。町中の人達がそわそわしてるんだ。話を聞いてみると、街の周りの生物が活性化してきているらしい。それで、NPCの人達は戦える人達をかり出そうとか、俺たちプレイヤーに頼もうとしてる。何か大規模なイベントとか聞いてないか?』
カザキと顔を見合わせ、確認してみるがわからない。
『聞いていない。とりあえず、俺の知り合いに話をして、一端そっちに向かう。』
『頼む』
こうして、俺はラララに話を通し、最前線組で集まったというわけだ。
「街の様子を見た限り、みんな慌てていましたね。この様子だと近々街襲撃イベントがあっても不思議ではないと思います」
主祭壇にいるラララが先陣を切って話し始める。
あそこはもう定位置なんだな。
「ワイもララの言うとおりそう思うな。セグメール周辺を少しうろついたんやがモンスターは確かに多かったで」
Dizzyのその意見には俺も同意だ。
見るだけ見に行ったが、敵の数は多く、活性化しているからかやけに獰猛だった。
というか、いつの間にララなんて呼ぶ仲になったんだあいつらは。
オボロもFakerもいないようだし。
「クレンさん、Xepherさんどう思います?」
ラララからの問いかけに対し、近くに居た俺たちはうんうんと頷きながら答えた。
「俺はあると思う」
「俺もだ」
ラララは考え込むように数秒下を見つめた。
その後、考えても出てこなかったのかごまかし気味の笑顔を見せながら俺たちに指示を出した。
「考えましたが、今特別出来ることは無さそうですね。街を壊されるのは怖いので、とりあえず街の防衛をして、実力が飛び抜けているクレンさんやDizzyさん達は遊撃部隊として周りを探索してきてほしいです」
「了解」
ここの敵を何発で倒せるようになったか、自分の成長が楽しみだった。
「それと・・・」
教会から出て行こうとする面々を引き留めるように、ララは言葉を続ける。
「掲示板によると、本日セグメール近隣の草原のフィールドボス"グランドウルフ"に挑んだ6パーティが全滅したようです・・・」
もとより、会議と呼べるものではなかった。
それ故、駄弁っている者も多く居た。
それでも、ラララの言葉を聞いた途端に、静寂は訪れた。
扉は全て閉じきっているはずなのに、冷たい風が背中をなでたような気がした。
背筋に寒気だ伝う。
雰囲気が、重くなる。
「そいつらの分まで、だろ?」
Xepherは大声でそう言った。
俺はボス戦で死んでいった戦士達の顔を思い出す。
・・・俺たちが弱気になってどうするんだ。
不安と、助けてやれなかったことでやるせない気持ちを抱えていた俺たちは自分たちの顔を取り戻す。
笑顔は無い。
ここにいるメンバーは真剣なまなざしだ。
その目には闘志が宿っている。
すごい兄貴だ。
つくづく俺の中でXepherという男の株が上がっていく。
一言で、自分たちのマイナスな感情をプラスに変えてくれる。
頼りになりすぎる兄貴分だ。
「ええ。このイベントを乗り切って、次のボスを犠牲者ゼロで勝ちきりましょう!!」
ラララも高々と声を上げた。
会議と言うほど話し込んでいない会議もどきが終わってからの帰り道。
俺はカザキとラララと教会に残り、話していた。
「クレンさんが情報貰った相手って誰ですか?」
「んーと、俺の装備を作ってくれているヤツだな」
「え!?」
急に驚きを見せるラララ。
何かおかしいところでもあったのだろうか。
「おかしいと思ったんですよね。クレンさんとカザキさんの装備、NPCが製作したものには見えないですから。そうか、もう職人がいたんですね」
そんなことを言うラララの装備も、NPCが作ったようには見えなかった。
「ララさんの装備も、プレイヤーに作って貰ったものじゃないんですか?」
俺が思ったことを、カザキが口に出して質問した。
「よく気づきましたね。これは最近、恐怖で街から外に出ることができないプレイヤーに声をかけて、職人になって貰ってるんですよ。今はまだレベルが低くて、分担作業でなんとか装備一つ作れるくらいですが、これから発展させて工房なども作っていく予定です」
少し興奮気味に夢を語るラララに対して、ちゃんと少年な部分もあるんだなと感じた。
いつも戦局を冷静に見て指示を出しているラララを見ると、到底年下だとは思えなかったがかわいい部分もあったみたいだ。
「クレンさん、その人と話す機会を作れませんか?」
「ああ。わかった。連絡入れとく」
もしガイがその工房に入れと言われたらどうするか。
まぁ、その辺のことは俺が考えることでは無いだろう。
セグメール周辺の捜査・・・とは言ったものの特段変わったところは無かった。
グリーンジェルにメドウウルフ、ウィンドバードにランドボア。
気性が荒く攻撃性は高かったが、レベルは一律1~5で特段強い個体も居なかった。
敵が弱いということは嬉しいことではあるのだが、期待外れ・・・というのが正直な感想だ。
「・・・というか」
後ろにいるメンバーを見て言う。
「なんで会議に参加してないお前らが居るんだ?」
視線の先にはFakerとオボロ。
「私難しいことわかんないからね!会議にいっても意味ないんだよな!」
「・・・」
さも当然かのように言い放つFakerと同じく当然かのように黙っているオボロ。
オボロは本当にいつもしゃべらないんだな。
「まぁ良いじゃ無いですか。人が増える分には」
横からカザキがあきれたように言う。
確かに冷静に考えればそうだな。
Fakerはこんなんでも戦闘では頼りになるし、オボロはつかめないが今一番強いプレイヤーだろう。
俺ももっと強くならないとな。
オボロの動きを見ると次元が違うような気がしてやる気が出る。
自分があの次元に到達するにはどれくらいの鍛錬が必要か。
想像もしたくは無いが、この世界で生き続ける限り戦闘技術は修練される。
追いつくことは、可能だ。
それにしても敵が多い。
沸くスピードがどうとかではなく、もうすでに大勢が沸いている状態だ。
それも何かから逃げているようにも感じられる。
ほとんどが一撃で倒せるので、倒すのに苦労はしないが、引っかかる。
この先に一体何が居るのか。
このさきのどこに居るのか。
何体居るのか、どれくらい強いのか。
なぜ、すぐにも進行してこないのか。
そもそも、イベントが始まっているのかどうかさえ曖昧な現状だ。
運営は告知をするだろうか。
デスゲームにして、楽しむようなそぶりを見せているあの運営が。
・・・。
考えても無駄なんだろう。
この先に一定のヒントはあるはずだ。
様々なモンスターが逃げゆく中、俺たちは川の流れに逆らうように、切り裂いて切り裂いて燃やして、進んでいった。
指示はいらない。
ただ目の前の敵を倒して活路を切り開いていくだけだ。
果てしない戦闘。
名前だけたいそうなものだが、実際は半ば無双ゲームと化していた。
なんといってもこちらには手練れしか居ない。
この程度のレベルのモンスターに苦戦する人などここには居ない。
というわけで、果てしない戦闘あらためただの無双ゲームは終わり、件の草原に到着した。
「これは・・・?」
グランドウルフの石碑の場所。
その上空には、この青空の中不自然すぎる闇が渦巻いていた。
俺の言葉に応える者は居ない。
地面に映る自分の影が小刻みに震えている。
それが自分の震えだと気づいたのは、取り乱していた心を落ち着かせ深く深呼吸した後に、自分のことを俯瞰できたときだった。
一人も行動を起こそうとすることが出来ない。
そう、ここにいる全員が困惑し、そして、原因不明の恐怖感に襲われていたのだ。
あの渦に、確実に何かをされている。
あの渦には関わってはいけないと、人間の本能が言っている。
そしてこの感覚は、前にも受けたことがあるような・・・。
「・・・!」
万年樹様の言葉。
胸に残る焼けるような熱。
みんなの顔。
・・・・・・。
俺は、生きる。
恐怖には屈しない。
パチン!
と両頬をたたく。
その音で何かから解放されたように、皆ヘラヘラと動き始める。
「なんやあのプレッシャーていうのか、なんちゅうの?」
Dizzyも珍しく動揺を隠せないようだった。
言葉で表せないような感覚を味わい、戸惑っている様子だ。
「わかんな~い」
一方、さっきまで止まって動けないようだったFakerは、解放されてみればヘラヘラしていた。
こいつは頭が馬鹿すぎて、感覚も馬鹿になのかも知れない。
「・・・」
相変わらず、オボロは何も言わない。
顔色一つ変わってはいなかった。
「何なんでしょう。さっきのは」
俺の横の小さな、一段と小さく見える魔法使いが俺の方を見ながら言う。
その瞳はまっすぐと俺を見ている。
美しい碧眼の中にはさっきまでの恐怖と、それについての好奇心が見えたような気がした。
答えを待っているような、気がした。
「まぁ、考えても仕方ないだろうと思うな。ただ、これを見たんなら獣たちが慌てて街の方に逃げるのもわかる」
カザキの期待に応え、とりあえず現状をまとめてみた。
「問題はこれが化けるかどうかやな」
Dizzyが苦笑いをしながら言う。
「どういうことだ?」
「ゲームに出てくる渦って言うのは、その中からモンスターが出てきたりするものなんですよ、クレンさん」
俺の問いに素早くカザキが答えた。
なるほど。
ここから新たなモンスターが出てくるとなれば・・・。
厳しいな。
見たことの無いモンスターがモブくらいの実力、強くてもエルガドの西森林の蛇くらいなら頑張れる気がするが、それ以上強いやつがくるとしたら・・・。
楽しみだ。
「今できることはラララへの報告と帰還だな。また帰ってから会議になりそうだ」
上空に浮かぶ異質な渦をスクリーンショットし、ラララに報告を兼ねて送りつける。
その直後、一時撤退の命令が下されたので帰ることにした。
帰りも、なるべくモンスターの数は減らしていこう。
帰り道も、何か怪しいものが無いか、他に渦は無いか探したが無かった。
少しでもモンスターを減らしておくために近くに居る敵を倒しながら帰る。
ちょうどメドウウルフの首をかっ裂いた時に、カザキから質問される。
「あのとき、渦を見た時に動けたのはどうしてですか?」
「あー。一回経験したことがあるんだよな、夢で」
「夢!?」
気だるそうな魔女はどこに行ったのか。
カザキはあきれながら驚く。
「尚更どういうことですか?」
さらなる追求に俺はなんと答えたら言いのかいまいちわからなかったので、自分の経験した夢の話から全て話した。
「帰ったら一旦エルガドに行って、みんなでお参りしましょう」
正確にはお参りではなく祈祷だと思うのだが・・・。
まぁ、何も言わないでおこう。




