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Welcome to the deep abyss  作者: ペン先曲助
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第十六話

 3日ほど、特に何の目的もなく街の中、外を探索しマップの把握やモンスター狩りに費やした。

 その結果、俺のレベルは15になり、第二の街、エルフと人間が共存する街であこのエルガドは、この世界の舞台の割と中心に位置していることがわかった。





 門は東西南北ある。

 その中で東は今まで見てきたのに似た草原であった。

 出てくる敵もあまり変わることはなく、全体的にレベルが上がっているだけで苦戦することはなさそうだ。

 ただ、レアモンスターなのかわからないが、ライオンのような獰猛で素早く、攻撃力が高いモンスター"レオブランシュ"が稀に沸いてくるのが厄介だ。

 それの夜に出てくる個体は特に獰猛で、周りの他のモンスターを無差別に襲い、そのモンスターが魔法を使う場合、その魔法を自分の能力で使えてしまう。

 見かけたら逃げるか、早く仕留めるかの二択になりがちだが、幸いと言うべきか、ここに出現する魔法を使うモブはシャドウバードくらいなので(見かけていないだけかも知れないが)慣れてしまえば、魔法を使えるようになった状態のライオンも倒すことが出来る。

 また、これはメタ読みになるのだが、この草原のフィールドボスがいるのならそれは、このライオンを大きくしたようなものになると思う。

 理由はごく単純で、セグメールの草原での代表的な敵は"メドウウルフ"や"ダークウルフ"などの狼でありそれが"グランドウルフ"のような大きなボスとなったからだ。

 単純な考えだが、間違っている気もしない。

 まぁ、どのような魔法を使ってくるのかはわからないが。

 

 



 西は森林だった。

 セグメールからエルガドへの道で戦った蜘蛛などの虫が主に現れた。

 俺は虫を苦手だと思ったことはあまりなかったが、正直このマップはきつい。

 ここはゲームの世界であり、出てくるモンスターというのは大抵は巨大なものだ。

 3体以上の群れで愉快に跳びはねる巨大なバッタ"プレザント・グラスホッパー"。

 巨大な鎌をもつカマキリ"リッパー・マンティス"。

 ここに出てくる虫も例外ではなく巨大であり、デカい虫は色々とグロテスクに感じて背筋が少しゾッとしてしまう。

 また、虫では無いが一番厄介なのは稀に出てくる蛇のモンスター、"シュトルム・サーペント"だ。

 こいつはかなり強い風属性の魔法を使ってくる4メートルほどの蛇で、隙がほぼなく、対処しづらい。

 索敵能力が高く、夜だと奇襲を受けることもある。

 俺とカザキで協力してやっと倒せるモンスターなので、沸いてくるモンスターの中では現状トップクラスで強いと思う。

 


 

 南はセグメールの方角なので、来た道である。

 出現するモンスターは今まで戦ってきた奴らばっかりだ。




 北は西と変わらず森林だが、未だに攻略することが出来ないようになっている。

 どこかのボスを倒さない限り先に進めないように結界が張られているのだ。

 遠目で見た感じの感想なのだが、植生が違うように感じられる。

 手前にある木がケヤキのような木に対して、奥の方を見てみればウバメガシのような鬱蒼とした木であるように見える。

 地質学者の父の書斎に入り、図鑑を意味も無く読んだり、あれこれと質問していたことを思い出す。

 ウバメガシは塩に強く、海沿いに生える木だった。

 つまり、北の森の先には海がある可能性が高いと言うことだ。

 

 「海もとてつもなく綺麗なんだろうなぁ」


 行きたい!という思いは強いものの、3日も探索をして疲れたので今日は別のことをしようと思う。

 


 

 得られたもの。

 それは何も情報だけでは無い。

 膨大な疲労の蓄積と引き換えに、モンスターの素材が多く手に入っているのだ。

 今日はそれをガイに見てもらい、装備を作って貰おうと思う。

 

 「今回門が多くあるわけだが、やっぱり次の街に行くためには多くのミッドボスを倒さないといけないのか?」


 「βの時はそもそもミッドボスいなかったのでわからないです」


 「そういえばそうだったな」


 「東のフィールドボスをあのライオンの強化版だと考えるなら、西は蛇の強化版ですかね?」


 「ありそうだな。考えたくも無いけど」


 「ですねぇ~」

 

 ガイに会いに行く道中、俺とカザキは手に入れた情報の中でお互いに気になっていることを話し合っていた。

 あの初日の出を見た後の俺たちのやる気はすごいもので、探索をして寝る、探索して寝るの繰り返しを狂ったように行っていた。

 そのため、パーティを組んでいたのにもかかわらず、あまり情報をお互いで整理できていなかったのだ。

 

 何度も何度も狭い路地を通り、俺がセグメールにいたときに泊まっていた宿に着く。

 

 「なんだあれは?」


 宿の前に長蛇の列が並んでいた。

 装備を持っているプレイヤーから、何も持っていないようなNPCまで、様々が並んでいる。

 その列は本当に長く、人が多すぎて俺たちが宿に入ることはほとんど不可能に近い。

 まるでアイドルの握手会のようだ。

 ・・・行ったことは無いが。

 とりあえず、何のイベントがあってこのようになっているか並んでいる人に尋ねてみる。


 「すいません。これって何の行列ですかね?」


 列の末尾に並ぶ一般NPCらしき女性に話しかける。

 

 「知らないの? ここに鍛冶屋と錬金術両方やっているナイスガイって言う変わった名前の人が居てね。その人にポーションや装備を作ってもらってるのよ」


 俺は唖然とした。

 嘘だろ、と。

 俺たちがいない間に何が起きたのか今すぐにガイに問いただしたい。

 だが、この列の中、図々しくガイに会いに行くことは小心者の俺にとっては無理だ。

 

 「大人しく並びますか」


 横で気だるげに言うカザキにつられ、俺もどことなく活気を奪われ並んだ。

 

 


 1時間が経ち、ようやくガイと会うことが出来た。

 一応並んでいるときにメッセージを送ってみたりしたが、気づいていないようだ。

 それはそれとして、後ろから観察していると、ポーションや日常品を作るのは一瞬であったが、装備を作るのには時間がかかっていることがわかった。

 俺たちも装備の製作を頼みにきたのだが、俺たちの素材は現状最前線のものだ。

 かなり時間がかかるだろう。

 今日は頼むだけ頼んで、ガイの手伝いでもしようか。

 

 「よぉ。ガイ」


 「お久しぶりです、ガイさん」


 「おぉ。おぉ! クレンにカザキちゃん。ボス攻略お疲れ様!!」


 俺たちの挨拶に大げさで応える。

 相変わらず元気なヤツだ。

 

 「お前達が来たってことは、装備の新調か?」


 「そのつもりなんだけどな。とりあえず、これらの素材を見てくれ」


 俺はグランドウルフの素材や、3日間での探索の素材を広げる。

 それらは自分が思っていたよりも多く、金床の上に乗り切らなかった。


 「多過ぎだろ!?」


 「すまん。これで装備の新調頼みたいんだが、多分時間かかるよな」



 「そうだな。まずは素材の整理からだし。今日は他にも客が並んでるからな」


 ふとカザキが思いついたように言う。


 「今日は探索を休憩する予定ですので、よかったらお仕事手伝いますけど」


 俺が言おうとしていたことだが、カザキもその気持ちでいたようだ。

 

 


 非常に疲れた。

 ガイの手伝いの感想はこれに尽きる。

 俺たちが手伝ったことは主に依頼者の素材の整理と、MPポーションをガイに渡すことだった。

 これらは端から見ればそこまでの労働に感じないと思うのだが、その実、素材の多さに圧倒されながら必要なものとそれ以外を分け、いらなかったものは依頼主に返すという作業は、俺たちコミュ障二人組にとって少々きついものがあった。

 また、ガイは常にMPを使っている状態なので、いつ魔力切れの状態になるのかわからない。

 各ポーションにはクールタイムが存在するので同じポーションを飲めないはずだが、ガイは独自のMPポーションを開発しているらしく、3種類のポーションによってクールタイムのカバーをしていた。

 それ故、渡す俺たちも慌てふためいた。

 そして何より、この男には休憩が存在しないのだ。

 なので俺たちは3時間ほどの労働で体力のほとんどを使い尽くしていた。


 「お疲れさん!」


 へばっている俺たちに、ガイは瓶を差し出す。

 

 「何だ?これ」


 冷たッ!

 思わず、体がピクッと動いてしまう。

 いくら正月で少し冷えるとは言っても、これだけ働けば体は燃えるように熱い。

 その手にキンキンに冷えた瓶が握られたのだ。

 多少の反応は仕方が無いだろう。

 俺はまじまじと瓶の中身を見つめる。

 カザキも何かわからないようで、瓶の底から液体を覗いていた。

 

 「まぁ、飲んでみたらわかるさ」


 促されるままに瓶の蓋を開ける。

 プシュッといういい音が鳴り、俺は驚いた。

 恐る恐る口をつけ、一口飲んでみる。

 口の中で弾ける泡、さらに口内を過ぎ、喉に来ても止まないその泡の爆発は、圧倒的なのどごしを与えると共に、快適な清涼感を生み出していた。

 止まらない。

 瓶についた口が離れない。

 その勢いのまま瓶の中身を空にし、「おい、これ」と口にしようとした瞬間に轟音が飛び出してしまう。

 

 「「ゲェ!」」


 聞こえたソレは、一人分の音ではなく、となりの魔法使いも放っていた。

 驚きのあまり二人で見合っていると、ガイが大声で笑い出した。


 「アハハハハハハハハ!! お前ら、兄妹みたいだな!!!」


 向き合ってい唖然としている俺たちを指さして笑うガイに対して、殺意がわいたのは俺だけでは無かったはずだ。




 「それで、なんで炭酸水がこの世界にあるんだ?」


 ガイの笑いが収まってから、俺はガイに尋ねる。

 

 「いろんな種類のポーションがあっただろ?あれの副産物だ」


 これ売り出したら儲かるぞ、と危うく言いそうになったが、これ以上客が増えても俺たちは困るので言わないことにした。


 


 「おい、これって」


 ガイの部屋に集まり、装備の相談や素材の整理をしている時だった。

 あるものを取り出して、ガイは興奮気味に質問をしてくる。

 

 「これ、ボスのドロップ品だよな?」


 ガイが取り出したのは俺自身も忘れていた代物だった。

 グランドウルフのドロップ品である大鎌。

 なぜか装備できずにずっと放置していた武器だ。

 

 「これはなぜか装備できなくてな。困ってたんだ」


 俺がそう言うと、カザキは「そうだったんですか?」と言わんばかりにこちらを見つめてくる。

 その間にも、ガイはこのドロップ品の鑑定をしていて、その結果はすぐに訪れた。

 

 「これ、一回加工しないとまともに使えないらしいぞ」


 どうやら、モンスタードロップの武器は一度加工してからでないと使えない設定らしい。

 

 「良かったら、この大鎌を加工した後に色々と素材を盛り込んで強化するが、いいか?」

 

 それはもちろん。

 

 「頼む」


 二つ返事でOKだった。




 カザキの素材の整理も終了し、次に作る武器の構想を練ったところで今日はお開きになった。

 外に出てみればすっかり夜になっていて、星空が綺麗に映る。

 このゲームの地盤だけでなく、空まで作り物だと思うと、最近の技術はすごいんだなと何か「綺麗」という言葉の他に「技術」の面でも感動が生まれる。


 「星空が見たいです。現実でも」


 ぽつりと呟くカザキを見て、俺は何か言おうとしたが結局言えなかった。

 彼女にも、現実で何かがあるのだろう。

 あまり詮索しすぎてもいけない。

 それでも、ただ一つだけ、言いたいことがあった。


 「俺も見たいよ」


 これをどんな顔で言ったのかはわからない。


 「私たちやっぱりどこか似てますね」

 

 だが、カザキは俺の顔を見て笑いながらこう言ったのだ。

 俺の一言で笑えたなら、それでいい。

 夜道を歩きながら、今日ガイに言われたことを思い出す。

 

 ・・・案外、俺もカザキのことを兄妹だと思っているかも知れないな。

 

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