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Welcome to the deep abyss  作者: ペン先曲助
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第十五話

 真っ暗だ。

 目を開けても、その先に何も映ることはない。

 闇、暗黒。

 自分がどこに居るのかもわからず、ただ孤独な気分を味わうだけ。

 

 「カザ・・・キは・・・?」


 とりあえず、思い当たる人の名前を呼ぶ。

 魔法使いのような、銀髪の少女。

 名前を呼んでもそんな人は出てこず、深い暗闇だけが俺を包んでいる。

 ガイ、Dizzy、Faker、ここまで知り合った人々。

 もうどこにも居ないはずの、父や母、弟の名前までも呼ぶ。

 だが、何も返ってこない。

 1時間ほどこの暗闇を彷徨い、考える。

 いや、考えれば考えるほど怖くなる。

 俺は知らないうちに死んでしまったのではないか。

 全員から忘れ去られてしまったのではないか。

 嫌な考えばかり浮かんできて、考えることを止めた。

 

 考えることを止めれば、苦ではなくなっていた。

 全身を包んでくれるこの闇は相応の冷たさを感じるがそれも心地良い。

 だんだんと、自分の身体は心ごとどこかに沈んでいくのを感じた。

 これよりももっと深い場所。

 ・・・深淵へ。

 

 「・・・!!」


 沈み行く途中、胸が焼けるように熱くなる。

 思い出すのはこの世界に来て出会った人、亡くなった自分の家族。

 頭に映る景色は、その誰もが口を動かし、何か言っている様子だった。

 

 ・・・わからんな。何言ってるか、全然わかんねぇ。


 再び、闇に溶け込もうとしたときに、やっと声が聞こえる。


 「生きることを忘れてはならん。君は、清い心を持っているはずだろう」


 その一言で、この状況はまずいと理解した俺は焦燥に駆られながら意識を覚醒させた。




 「夢・・・だよな・・・」


 簡素なベッドの上で上半身を起き上がらせる。

 周りを見渡せば、暗いが木製のテーブル、椅子、何かしらのインテリアが確認でき、視力があること、ここが泊まった宿であることがわかる。


 「よかったぁぁ・・・」


 普段出さないような安堵の声を漏らし、胸に手を当てる。

 

 あの声に助けられたな・・・。


 夢の中での声はきっと、確証は無いが万年樹のもののように感じた。

 あのときの祈りが通じたのか助けていただいたので、しっかりと感謝をしておく。


 ・・・万年樹様。ありがとうございます。

 

 ウィンドウを開いて時間を確認すればちょうど0時だった。

 1月1日。

 悪夢により新年を最悪のスタートで迎えた。

 

 

 

 しばらくベッドの上で心を落ち着かせ、悪夢の感覚を冷ますために大きく伸びをする。

 完全に目が冴えきっているので、二度寝をすることは考えてはいない。

 ベッドの横のランタンをつけ、とりあえず立ち、今から何をしようかと考えているとふとピロロンと音がする。

 ウィンドウを開けばカザキからメッセージが届いていた。




 「ずっと起きてたのか?」


 「なかなか眠れなかったんですよ」


 カザキと俺は宿屋の前で集合し、しゃべりながら目的地を目指して歩く。

 もっとも、ソレが現れるまで何時間か空くので、暇つぶしも考えなければならないが。


 「体の疲れはとれたのか?」


 「う~ん。まぁ、寝転がってたので取れたと思います」


 中途半端な回答。

 ボス戦での疲れで俺はすぐ寝てしまったわけだが、カザキはそうではないらしい。


 「私、人が死ぬところを初めて見たんですよね。だから、その。万年樹の前でも考えたんですけど、命って大事なものなのに簡単に壊れちゃうんだなって。他の人が行きたくて戦ってるのに自分は死ぬために戦っているのが馬鹿らしく感じちゃって。色々考えてて、寝れなかったです」


 言い終わってから、「新年早々暗い話しちゃいましたね」と少し笑顔で付け加えたカザキを見て、

俺も考えさせられた。


 「そうだな。昨日死んでしまった人の分まで生きよう」


 俺が一緒に戦っていた人達。

 俺と連携をとっていた名も無き兵士達の分も生きないとな。



 

 大通り、広場に出てみれば運営の仕業だろうか、クリスマスの時と同様に飾り付けがしてあった。

 ところどころに門松、鏡餅が置かれていて、何か懐かしい気持ちになる。

 転移装置は神社の鳥居のような形に変わっていて、しめ縄などが飾り付けられていた。

 色々と変わっている街を見ながら、まだ時間があるので自然と足は万年樹の方に進んでいく。

 



 到着すればそこには、たくさんのプレイヤーで埋め尽くされていた。

 木を見てみれば何の変化も無い。

 ではなぜこんなに集まっているのか。


 「よぉ。お前らも来たのか」


 それは、今声をかけてきたボス攻略アタッカー隊のリーダーの一人、Xepherが教えてくれた。

 

 「これは弔いだ。昨日死んでいったヤツらのな。まぁ、もう祈りみたいなのはしちまったけどよ」


 「なんで俺たちを誘ってくれなかったんだ?」


 「ああ、そりゃ、お前達カップルの邪魔をするなってDizzy達が・・・」


 「そういうのじゃないですから。止めてください」


 カザキが顔色一つ変えず訂正する。

 俺がその元凶を探そうと周りを見れば、ラララが酒のようなものを飲まされていたり、DizzyとFakerが酒の飲み比べをしていたり、サエコさんは女性達とおしゃべりしていたり、みんな各々楽しんでいた。

 その様子を見ると何か一言言う気すら失せ、自分たちも静かに祈りを捧げ、その場に参加することにした。


 


 何時間か経ち、俺たちは目的地まで移動することにした。

 大半の奴らが酒に飲まれて帰って行き、最後まで残ったラララとXepherに挨拶をしてその場を去った。

 現在午前4時。

 夜の闇が少し明るくなってきたのを見て足を早める。

 カザキはよく眠れなかったし、今さっきいろいろな人と絡んできたので疲れ切っていたが、なんとか俺のペースで歩いていた。

 無事、東の門にたどり着き、そこから広がる景色を呆然と眺める。

 少しずつ夜が明ける。

 草原の向こうの地平線から光が広がっていき、やがてその本体である赤が顔を出す。

 疲れ切った俺たちの体にエネルギーを送るように、そして、再び閉じそうになっていたまぶたを焦がすように。

 美しい太陽は夜明けの灯火となっていた。

 そう、カザキからきたメッセージは初日の出を見ようというものだった。

 

 「綺麗・・・ですね・・・」


 「あぁ・・・


 カザキは何を思ったか泣き出している。

 俺もなんとなくだが、いや、正確にはわからないがなぜ泣いたのかわかった気がする。

 彼女はきっと、現実に戻りたいのだと思う。

 どのような理由でかはわからないが、現実を嫌っていることは言動で察することが出来る。

 だが、この美しい景色を見て現実を思ってしまったのだろう。


 「クレンさん・・・。現実を嫌う私に言う価値はないと思いますけど・・・。私、この景色を・・・現実でも見たいです」


 この世界に来てから、美しい景色を数多く見てきた。

 でもそれらは、どれもファンタジーで現実とはかけ離れているからこそ、現実を嫌っていた俺たちにとってより綺麗に見えていた。

 今この目の前にある太陽は現実と寸分違わず同じだ。

 これがデータなんて信じられないくらいに。

 だから俺も、現実で見たいと思った。

 無性に、カザキと二人で。


 「ああ。一緒に、二人で見に行こう」


 言ってから気づく。

 これはかなり恥ずかしいことを言ってしまったと。

 何かと口をパクパクさせて弁明を図ろうとしたが、相手からの反応が無い。


 「寝て・・・るな・・・」


 太陽に照らされて白く輝く髪とその横顔は、いつ見ても絵になるほど美しい。

 眠れなかった小さな魔法使いは、太陽の温かさを感じ、熟睡したのだ。

 俺はソレを起こそうともしない。

 ここは門の先、街の外でモンスターも沸くわけだが今だけは空気を読んでくれているようだ。

 俺は4時間後カザキが起きるまで周りを警戒しつつ、この太陽が上っていくのを見続けていた。

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