第十四話
彼女の作り方を教えてほしいです。
「お疲れ様でした」
ほんの数分前の激闘に疲れ、呆然と立ち尽くしていた俺に後ろから声がかかる。
振り返れば、黒いローブの魔法使い、カザキがいた。
戦闘中にも確認したがお互い向かい合って顔を見ると生きているのを感じ少し安心する。
ぼーっとしていた俺がカザキによって現実に引き戻されれば、周りでは獲得したアイテムやら経験値やらで盛り上がっていて騒がしい。
「お疲れ」
俺がそう言うと白髪の魔法使いは杖を自分の前に出してくる。
何事かと思ったが、この場面ですることは一つだろう。
俺も自分の大鎌を前に出し、お互いにカツンと合わせる。
冒険者なりのグータッチを交わし、再び周りを見渡す。
そこでここには歓喜の感情以外も存在することを知る。
泣き崩れる者。
声にならない嗚咽を上げる者。
ただただ呆然とする者。
歓喜と悲嘆が交わるこの場はカオスそのもので、なぜかその様子を客観的に見てしまう。
俺は、先ほどの騒がしさは感じられず、その光景を見てまた呆然としてしまう。
「・・・死者は何人出たんだ・・・?」
「・・・わかりません」
俺と完璧な入れ替わりをした名も無い戦士は、もうここに姿は無かった。
他にもこの作戦中に会話をしたヤツ、俺とカザキの仲について聞いてきたおちゃらけたヤツの姿も見えない。
興奮が冷め止んだのか、ここ一帯はまた静寂を見せた。
訪れた静寂を破る者は居ない。
ここにいる人間の数が少ないことを皆気づいてしまったのだ。
「ーーーごめんなさい!!!!」
突然、悲鳴に似た、悲痛な叫び声が俺の後ろで弾ける。
その声は幼く、半ば裏返り、泣き叫ぶかのようなものだった。
声の主は途中まで皆を率いて勇敢に戦った《ナイト》ラララだった。
「ララ・・・」
横の女性プリーストになだめられるが、それを振り払いなおも謝り倒す。
「僕がしっかり指示を出せていれば!!!こんなことにはならなかった!!!相手の魔法にもっと早く気づけていれば!!!もっとはや皆の焦りを指摘できていれば!!!もっと早く・・・」
「止めてくれ」
遮ったのはアタッカ-部隊のリーダーの一人、Xepherだった。
「俺もβテスターでアンタのことは知ってる。アンタの指示は間違っちゃいなかったよ。変更されたのはしょうがないんだ。対処のしようはない」
「でも・・・」
大剣使いの男は手を震わせながら、自分にも言い聞かせるように言う。
「ぐちぐち言ってんじゃねぇ!! 俺はまだ戦う。アンタもだ!! 次のボス攻略のリーダーもララ、アンタがやるんだ。んで、今日死んでいったヤツの分まで戦う。俺たちは、いろんな意思を背負ってるんだ!!」
ラララは小さく頷き、いきなり雄叫びを上げた。
その後、前を向き、涙の跡が残るがすっきりとした顔でこう言い放つ。
「もう誰も死なせません」
周りで泣いていたプレイヤーもいつしか泣き止む。
仲間が死んだ。
この現実を受け入れることが出来るだろうか。
できるだろう。
なぜなら皆、戦士の顔をしていたからだ。
今日散っていった者のため、それも背負ってゲームクリアのために戦う。
俺も拳に力が入る。
そこにカザキの手が触れる。
「クレンさん。これは自分が背負うものでは無く、みんなで背負うものです」
背負うことの重さを認識したが、カザキによってその重みは少し軽くなったような気がした。
その後、ラララがもう一度石碑に触れ転移装置を作動させたことにより、セグメールに戻れるようになった。
その転移装置は広場の噴水の前にもあるらしく、フィールドボスの場所が登録されたため、いつでもいけるようになったらしい。
また、石碑にはもう一つ効果があって、またフィールドボスと戦うことも出来るそうだ。
しかも結界が無く、逃げ出すことも出来る。
そうなったら30分経てばそのフィールドボスエリアから消えるのだが、クーリング時間があるので連続で戦うことは出来ない。
一回戦った後にまた戦うことが出来るのは8時間後とのことだ。
「いやぁ、自然を感じますね~」
現在は午後の5時13分。
カザキと二人静かな森の道を歩く。
昼にボス攻略を開始してから撃破まで3時間かかり、その他もろもろをしていればこのくらいの時間になった。
時間が時間だからか、夜になると敵が強くなるので皆一度セグメールの方に帰った。
だが、俺たちは好奇心には勝てず、森の中を進むことにしたのだ。
「だな。神秘的だ」
ゲームの中の世界でありながら、元の世界を超えるのでは無いかという美しさ。
少しの傾斜を上っていけば、空から注ぐ赤い光が葉に遮られながらも、まだらになって足下を照らす。
上を向けば緑、横を見ても緑。
自分が視力を失う前は木に対して何か思うようなことも無かった。
それも今改めて見てみれば、雄大な自然を感じ、まさに自然の中で生きているのだと言うことを再認識させられる。
俺がこの世界に来て見たかったのは、まさにこのような風景だ。
美しいだけで無く、どこか考えさせられるような情景。
それがどれほど素晴らしいものか。
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スパイク・スパイダー Lv.9 魔獣属
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神秘的な場所故忘れていたが、ここもモンスターが出現する。
出現するモンスターは森と言うことで、やはり虫が多いのだろうか。
そしてさすがに普通の虫というわけでは無く、大きい。
コイツに至っては8本の足の先に尖った金属のようなものがついている。
「支援よろしく」
「わかりました~」
なんとものんきな返事だ。
初めて見るモンスターは様子見から。
ケツが膨らんだのを見て、そこに目を置いておく。
糸が吐き出されるのを見て、それを躱しながら急接近。
俺が振るった鎌は8本の足によって受け流されてしまったが、レベル差により、ダメージを与えれてはいる。
またもやケツが膨らむ。
距離が離れると相手をからみとる糸を吐いてくるようだ。
「でも、それは悪手だ」
一度見た時にためてから吐き出す時間は大体把握していた。
俺は紫の閃光を大鎌に集め、アクセルスレインを発動させ、一刀両断した。
「え、支援も何もいらないじゃないですか」
カザキが後ろから不服そうに言う。
「まあまあ。あんな簡単に死ぬとは思わなかったんだよ」
フィールドボス戦に向けての無理なレベル上げ。
それを行った結果、ボスを倒したあとの俺のレベルは13、カザキは12だった。
ここでの蜘蛛とのレベル差は結構あり、簡単に倒せてしまう。
「どうだか。次出てきたときは私にやらせてくださいね」
そう言ってカザキは俺の前を歩く。
魔法使いが前衛の俺より前に出てどうするんだ・・・と思ったがその心配は無く、次の街に着くまでの間、カザキが全てを燃やし尽くした。
夜、19時00過ぎ。
「すご・・・」
「え・・・」
お互いに感嘆の声しか上がらない。
いや、カザキは感嘆と疑問が混じったような声だったが。
生い茂った森は円形に切り開かれ、中央にそびえる巨木に沿って街が広がっている。
まん丸い月が夜空を静かに青く照らし、それとは対照的に街は活気を帯びた輝きを見せる。
あたかもファンタジーのような光景で、この景色に数秒間見とれる。
「わたし、スクショしましたよ・・・」
「俺もだ・・・けど、さっきの疑問みたいな反応は何なんだ?」
俺の訝しげな表情を一瞥し、カザキは変わらず景色を見ながら答えた。
「βの時と街の外見が全然違うんですよね。丸っこく切り開かれているのは同じなんですけどこんなに街が発展していなかったと言うか・・・」
「村みたいな感じか?」
「それです」
俺のなんとなくの想像は当たっていたようだ。
静かな森で静かな村。
自然と一体化していて、先住民族らしき人が住まう場所。
そんな場所を想像していたが良い意味でこの街には裏切られた。
第二の街、エルガド。
街中に入れば、そこは人とエルフが共存する街だった。
外から見てもわかったが、中に入ってみると一段と自然に囲まれていることがわかる。
家は全て木造でできていて、光源でさえも木につるされたランタンでできている。
木以外でできているものは、通路、塀、ガラスぐらいなものだった。
俺とカザキは街の中心部、広場を目指す。
真っ先にすべきこと、それはそこにある転移装置に触れることで、ここの場所を登録し、全てのプレイヤーがここエルガドに来れるようにすることだ。
周りの風景や自然の雰囲気を楽しみながら、一直線に転移装置前まで歩いた。
「おぉ・・・」
「・・・」
俺は再び感嘆の声。
カザキに至っては言葉すら出ない様子だ。
まさかとは思っていたが、転移装置すら木造でできているなんてな。
細い木の枝が何本も交わり、重なり合ってできたそれはドーム状になっていてその中から転移することが出来る。
その中に立ち、登録しようとするとかすかに檜のような香りがした。
ここは、好かれそうだな・・・。
人をはじめ、生き物は皆自然を愛している。
それ故、ここが大人気になるだろうという予想をしつつ登録した。
「さて、これからどうする?」
現在19時半頃。
今日はボス戦で疲れたのでご飯を食べて寝ようと思えば寝れるのだが、何かそれだけでは時間がもったいないような気がする。
「ご飯食べるところとか宿とか探しつつ、この街を探索するのはどうですか?」
カザキは好奇心に火がついたのか、ややテンション高めで提案してくる。
「いくか」
時間を有効活用したいと思っていた俺は、その提案をのみ、二人で探索を開始した。
街の角の落ち着くようなレストランで山菜と肉を食べ、その近くの宿を二部屋とった。
レストランと宿は、まだ転移装置を登録してからあまり時間が経っていないこともあってかなり空いていた。
だがそれらが終わり大通りを歩いてみれば、大勢のプレイヤーであふれかえっている。
通り過ぎるプレイヤーと思われる人々は皆目を輝かせており、俺たちと同じような反応をする。
俺たちはそれを横目に、引き続き街を歩く。
鍛冶屋、武具屋、道具屋などの必需品を売っている場所。
湖、美しい花畑などの観光地。
それらをおおかた見て回り、最後に巨木の元に訪れる。
「でかいな・・・」
「はい・・・」
ジャイアントセコイアに似ているような木で、体感では高さ100メートルを超えているように感じた。
一番上が見えないほど大きなこの木は、様々なものを感じさせてくれる。
感動、驚きなどの感情はもちろん、自然の力強さ、そして、生命の力強さを感じた。
「クレンさんとの旅で、少しずつだけど変わってきました。でも、この木は格別です。直接生きろッて言われた感じがします」
横で魔女帽子のつばを上げながら見上げる少女の顔は少し柔らかくなっていた。
カザキはブラッディリリー戦の後で俺にこう言った。
ーーーこの世界で死ねるなら本望なので。
あのとき、それこそ現実を毛嫌い、心底だるそうな顔で自分の命の価値を捨てていた彼女が、少しではあるが表情を変えてくれているというのは嬉しい。
それが自分のおかげであっても、他のおかげであっても、好奇心や興味、あらゆる感情をうまくコントロールして生きることに希望を持ってくれれば俺はそれで良い。
カザキの横顔を見ながらなんとも善人ぶったことを考えていると、横から声がかかる。
「旅の者かな?」
見れば優しい顔をした男性のエルフが立っていた。
髪は長く黄緑の色をしており、よくよく見れば白い毛もある。
顔はしわらしいしわは無いが青年とはかけ離れていて、むしろ年老いたイメージを持つ。
「そうですね。まだ始めたばかりですけど」
俺がそう答えれば、そのエルフの男性はこの巨木に目をやりこう尋ねてくる。
「この木を見て何を思ったのか聞いても良いかい?」
「生命の力強さを感じました。僕らは旅を始めたばかりですが、この巨木を見て生きることの大切さ、命の尊さを再確認できたように思います」
さっき俺とカザキが話していたことを素直に述べる。
男性はうんうんと頷き、この木のルーツを語ってくれた。
「この木は万年樹と言ってな。その名の通り1万年以上ここにある巨木なんだ。この木の生命力はとどまることを知らず、周りの生命を活性化させてくれる。この街の雰囲気は明るいだろう?これはこの木の力なんじゃないかと、街の人は全員思っとる。この街の象徴であり、守り神みたいなものだな」
しみじみと感謝するように語るその姿は、巨木と合わせて絵に描いたような美しさと儚さがある。
このゲームの設定なんだろうな、という野暮なことは言わない。
俺は今ここで生きている。
そしてこの木から学んだこともある。
俺たちはこのエルフのNPCとなんら変わりないのだ。
横目でカザキを見れば、眠そうにしている。
ボス戦も行ったし疲れもあるからな。
ーーー俺たちが何かあったときは助けてください。もう、好奇心に脅されて命を投げ出すようなことはしません。
午後10時、男性のエルフに感謝をし、なんとなく木にお祈りしてからカザキと宿に帰った。




