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だれかどこかのものがたり  作者: けとる
1/1

旅に出た理由 プロローグ

xの月 ▽の日


夕暮れ時に立ち寄った酒場で、一人の女性に出会った。


「となり、いいかしら」


気さくな娘だ、と私は思った。


「いいよ、別に、一人に拘るわけじゃない」


「ふーん」


彼女は席に座ると、店員に手早く注文を伝える。


「ビール、あとタコの炒めものちょーだい」


冒険者だろうか?


出で立ちから、そう推察する。


「ねぇ、このあたりで仕事を探しているのだけど、できれば日雇いで、その日のうちにお金が貰えるような」


そう話しかけられた。


話しかけられたのだとわかるのに少し時間を要したのは、彼女の問いかけが、いささか急だったからである。


「私はこの店の店員じゃあないよ、仕事の売り込みなら他でやってくれ」


彼女は、私の答えが想定していた類のものとは違ったのか、一瞬きょとんとしてから、


「ちがうちがう、えーっと、ほら、同業かと思って」


そう言って、私の荷物を指差した。


なるほど、冒険者同士の情報交換を期待しての同席であったか。


たしかに、自分の荷物を見れば、私を冒険者と思うのも頷ける。


「すまなんだ、私は冒険者ではない」


彼女は意外そうな顔をする。


「旅用の装備に、ダンジョンの入場許可札までつけてるのに?」


「旅用の装備に、ダンジョンの入場許可札までつけてるのにだ」


「ビールとタコ炒めお待ちっ! オリーブはサービスよ!」


彼女はありがとうと店員につげ、オリーブの塩漬けを口に放り込む。


「じゃ、なんのひとなのかな」


コップを両手ですくうようにしながら、彼女は私に聞いてくる。


「物語の蒐集を、趣味でやっている・・・まぁ、世捨て人のようなものさ」


「へぇ・・・面白そう」


興味を持たれたことに、少し驚いた。


「ダンジョンにも潜るの?」


「ああ、ダンジョンは・・・物語と関わることが多いからね、遺跡や祭壇なんかが出てくる話も多いし、やっぱり現地で調査すると、話の裏付けや新たな発見があって・・・」


少し気恥ずかしさを感じながらそう説明する。


実際に潜る際は護衛として冒険者を雇う事もあるのだが、今は新しい物語を探している最中だ。彼女を雇うという話にはならなかった。


「残念、タイミングが悪かったってことね」


「すまないね、お金が必要なのかい?」


「そうなのよ、旅の資金が少し心もとなくなってきて」


やれやれ、といったふうにしながら、彼女がタコをつまみつつビールを飲む。


つまみを頼むところをみると、それほど急を要しているわけでもなさそうだが・・・。


私は少し考えてから、ひとつ提案をしてみることにした。


「なら、なにかあなたが知っている物語を教えてくれないか? それに代価を支払わせてくれ」


彼女は、何か思い出そうとしているように指を動かしてから、残念そうに首をふった。


「ううん、私の知っている話はどれも有名なものだし」


「迷惑でなければ、あなた自身の話でもいい、物語ってくれるのなら」


「ものがたる・・・? ものがたる・・・なるほどね、ちょっと思い出してみようかしら」


そうして彼女は、うつらうつらと思い出し始めたのであった。


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