宇宙人
宇宙人という言葉がある。第一義には、地球外生命の総称(地球人は含まないようだ)であるが、第二義として、常識外れの行動を行う人、何を考えているかを分からない人を比喩的に指したものであるそうだ。この第二義的な意味の「宇宙人」について、つい二人の人物を思い浮かべてみてしまった。二人共に常人には理解が出来ないような人物である。
一人目は鳩山由紀夫氏。ご存知日本国の元内閣総理大臣である。由来はよく分からないが、どうやら鳩山氏本人がUFOを信じており、オカルト雑誌に頻繁に寄稿していたからかもしれない。2009(平成21)年、時の日本は政権交代に沸いた。自由民主党が1955(昭和30)年以来、細川・羽田内閣の野党転落時にさえ明け渡した事のない衆議院第一党の座を初めて明け渡したのである。国民は今度こそ「日本が変わる!」と期待した。バブル崩壊以後、数々の構造改革が失敗に終わり、官僚による支配に辟易していた。そこで国民は「霞ヶ関政治の打破・政治主導」を掲げた民主党に熱狂した。今度こそ世の中は変わると。こうして鳩山由紀夫氏は宇宙人と揶揄されながらも大きな期待を背負って第93代内閣総理大臣に就任したのである。
が、その政策はことごとく失敗に終わった。いくら脱官僚を掲げても、実際未熟な政権が官僚無しの政治を行うのは難しかったのである。彼は己の才能を過信し、選挙で勝ちさえすれば自分の思い通りになると誤解したのだ。例として、温室効果ガスを25%削減を掲げて周囲を驚かせた。こんな桁外れな目標実現出来る訳がない。彼は原発推進によって帳尻をあわせようとしたが、結局辞任後に発生した福島第一原発事故により目標は撤回された。もう一つ辞任の決定打になったのが、普天間基地の辺野古移設の撤回である。これが実現すれば、政治主導だけでなく、長年の懸案であった対米従属からの脱却についても大きな成果になるはずであった。しかし、これには民主党政権誕生以前の複雑な外交関係を見直す必要があり、選挙結果による民意や個人の能力を越えるものであった。結局これといった代案もなく、一時は徳之島への変更もチラつかせながらも、周囲の反対で実現せず、辺野古へと戻された。ここに来て、国民は鳩山氏及び民主党政権に大いに失望した。大言壮語をしておいて結局は自民党政権と何も変わらないでは無いかと。鳩山氏はルーピー(頭の狂った人)と揶揄され、一年持たずに退陣。その2年半後に民主党政権は崩壊した。その後も鳩山氏は政府の反対を押し切って、クリミアを訪問して、ロシアの主張を肯定したり、人工地震、国策捜査などの陰謀論を展開したり、益々常軌を逸した言動を取るようになっていった。人々は更に侮蔑を込めて彼を「宇宙人」と呼ぶようになっていった。鳩山氏本人は決して愚かな人間ではなく、東大出身のまさにサラブレッドであったが、頭の良さと政治力は必ずしも一致しないのである。むしろインテリであればあるほど周囲との軋轢が広がることもある。宇宙人の思考は地球人には決して理解されないのだ。
今一人は、先日北海道日本ハムファイターズの監督に就任した新庄剛志氏である。彼は現役時代からその破天荒なプレー、パフォーマンスから「宇宙人」と言われた。おそらく名付け親は故・野村克也氏だろうが、とにかく彼の言動はとかく注目を浴びた。敬遠球をサヨナラヒットさせたり、オールスターでホームスチールを試みたり、スパイダーマンのコスプレで登場したり…中でも最大のサプライズはシーズン序盤での引退宣言であろう。2006(平成18)年4月のヒーローインタビューで突如今シーズン限りの引退表明を行い、周囲を驚かせた(球団関係者も一部しか知らなかった)。異例のシーズン序盤での引退表明は、少しでもファンに球場まで足を運んで欲しかったからだ。当時のパ・リーグは不人気であり、存続の危機にあった。だから、事前に引退宣言を行って、少しでも名残惜しいファンに球場に来てもらいたかったのだそうだ。新庄氏は更に自身が一度も達成出来ていなかったリーグ優勝・日本一を目指していた。彼は勝ってこそのパフォーマンスだと考えていたのだ。そして見事にセ・リーグ王者の中日を破り、日本一を達成した。最後に歓喜の胴上げを味わいながら、彼は「ホントに、このマンガみたいなストーリー。出来過ぎでしょ」と語った。
そんな彼がこのほど日ハムの監督に就任した。彼は自らをビッグ・ボスと称し、更には「優勝を目指さない」とまたもや驚きの会見を行った。この発言には賛否あろうが、彼にも考えがあった。「優勝という高い目標を持ちすぎると選手はうまくいかないと僕は思う」というように彼は監督はモチベーターだと考えているのだ。かつての恩師故・野村克也氏は新庄は何も考えてないようで、極めて緻密な思考をしていると言っていた。事実、連日の報道を見る限り、日ハムのチームの雰囲気は明らかに変わり始めている。果たして、この日ハムの奇策は吉か凶か____。来年が楽しみでならない。
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宇宙人にも様々な種類がいる。周囲に迷惑をかける人、周囲を湧かせる人……
鳩山氏と新庄氏の違いは行動の緻密さにあろう。前者はパフォーマンスだけを重視して失敗し、後者は結果も求めて成功した。常識から外れた行いをしても結果で人の目は大きく変わるのだ。今回は二人の宇宙人を取り上げたが、人間は他人と異なる人を批判しがちだ。誰もが自分の枠に他人をはめようとする。でも、本来人間はもっと多種多様であるはずだ。周囲に迷惑をかけるような事は駄目だが、破天荒な生き方もいいと思う。「自分らしく」生きることは難しいけど、不可能では無いと思う。やれる事はやった方がいい。