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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生行事の事故案件

転生行事の事故案件 1

作者: ゆるゆる

冬の朝、僕は死んだ。本当は死ぬつもりなんかなかった。ただ、この苦しみから楽になりたかったんだ。


僕は3歳を過ぎた頃から良く風邪を引く様になり、医者からはアレルギー性気管支炎と言われた。免疫力を高めようと水泳に通ったり、食事にも気を使う様になった。それでも親がタバコを吸う環境だからか気管支が弱く、空咳をよくしていた。僕の努力なんて大して役にも立たず結局は喘息になったのだ。喘息になると、気圧の変化、天候の変化、気温の変化、環境の変化にあうと症状が出る。息苦しくなり、深く呼吸しようとすると咳が出たり、呼吸をする時には気管が狭まっているからなのか“ヒューヒュー“と音がし始める。咳をするのも咳をした後一呼吸は息をするのが楽になるからだ。

隣の部屋の兄弟には咳がうるさいと怒鳴られ、親からもまたかと呆れられる始末。仕方ない。春も秋も天候は変わりやすいし冬の気温は咳が出やすくなる。一番夏がマシだけど、一年を通したら短い期間だ。風邪でもないのに咳をして親の気を引こうとしてる、と兄弟には煙たがられる。10歳になった今では、親さえも咳をしてると面倒臭そうに薬飲んで寝ろとだけ言ってさっさと行ってしまう。まぁ、何も言われないよりはマシなんだろうけど、お陰で甘えたくても、甘えられない性格になった。


「ごほっごほっ(あの言葉は結構きたなぁ…)けほっ」


*****


『また咳なのか?明日も仕事で早いのに…。はぁ、まったく…。』


たったそれだけの、多分いつもと変わらない言葉なのに。やっぱり迷惑なんだ。


『何?熱?風邪なの?病院行かなきゃだめ?寝てられないの?仕事休むのも大変なのよ。一人で行けない?困ったわね…。』


面倒かけてごめんね、一人でいけるよ、大丈夫。


*****


思い出したら涙が出てきた。悲しいわけじゃないのに、ごめんなさいって言えなかったから。


*****


夜中に咳が止まらなくて、薬も飲んだのに突然の吐き気で部屋からトイレまでの廊下で吐いた事があった。

みんなが起きる前に何とか綺麗にしないとって、慌てて吐き気が治らないまま雑巾で拭いてたけど、お母さんが起きてきて、何してるの?って聞かれた時も


「ごめんなさい、トイレに間に合わなくて吐いちゃった…。今、綺麗にしてるとこ。」


怒られると思ってお母さんの顔も見れなかった。


『ハァ〜。仕方ないわね、そこ綺麗にしたら雑巾も流しで洗う前に、ゴミはゴミ箱に入れてね、そのまま流しで洗うと排水管が詰まっちゃうから。』


あぁ、また呆れられちゃった。トイレまで我慢できればよかったのに。


*****


その時の惨めな気持ちがまた、涙を流させる。


僕はリビングのソファで毛布にくるまって、座ったまま何とか寝ようとしてた。横になると呼吸がし辛いから体を起こして上を向いてる。これが一番呼吸がしやすいんだ。でも寝れない。眠いんだけど、うとうとしかできない。


もう嫌だなぁ、一番楽な姿勢になっても息をするのが苦しい…。酸素が欲しい、もっともっと酸素をちょうだい。もう、苦しいの嫌なんだよ、酸素が欲しいよ、空気をちょうだい。いっぱいいっぱい吸ってるのに何でだよ!もう苦しいの嫌なんだ!誰か助けてよ!


ヒュー、ヒュー、ヒュー、ヒュー…


苦しい、苦しい、苦しい、苦しい…


そうだ、喉を大きく開ければ酸素がいっぱい入ってくる。そうすればもう苦しくない。なんで気付かなかったんだろう、早く喉を広くしなきゃ、カッターナイフがいいかな?あぁだめだ、これじゃあ、大きく広がらないや、もっと大きいのは、包丁だ。これなら大きく広げられる!呼吸ができる様になる!



そう。僕は自分の喉に包丁を刺した。刺すまで変に落ち着いてたと思う。だって、刺すだけじゃ奥まで無理だと思うから床に包丁の肢の部分をつけて、包丁に喉を押し付けた。痛くて直ぐ包丁は離したけど、遅かった。

きっと僕は正気じゃなかったんだ、思いっきり刺した包丁で結局痛みと呼吸が出来なくて窒息した。死因はもう如何でもいい。死んじゃったんだから。




そして、目が覚めたら、僕は藁人形になっていた。

なっていたは可笑しいかな。憑依していた、か?憑依なのかもわからない。だって意識はあるけど自分の体っていう感覚はないし、もちろん動かせない。もう息が苦しくないのが幸せだ。でも、呼吸が必要とも思えない体だけど…。何だろう、なんか閉じ込められてる感じが近いのかな?あぁ、でも、苦しくないって幸せだなぁ…。


《……よ……》


ん?何か聞こえたかな?気のせいか?


《…の…よ》


なんか聞こえる。


《そこの魂よ、聞こえるか?》


あ、聞こえた。僕に言ってるんだよね?


《そうじゃ、そこの魂よ。幼くして世を離れた魂よ。哀れにも長き人生を放棄せざるを得ないとは、誠に悲しい事じゃ。故に幼き魂に幸せが訪れるよう、転生し家族と幸せな人生を……?如何いう事じゃ?何故にそこの藁人形に入って……………》

《神様、神様…。あの時神様がくしゃみして飛んで行っちゃった魂が、このこですよ。どうします?神様の鼻水が一緒に付いてたから、魂が鼻水でこの藁人形にしっかりくっついやいましたよ。神様の鼻水は超強力接着剤みたいなものですから、剥がせませんよ?》


なんか、すごい事が聞こえた。神様の鼻水って超強力接着剤なんだ。何だか面白い、ふふふっ。


《おほん!…幼き魂よ、其方には申し訳ない事をした…。本来ならば、子の誕生を待ち望んでいる家族のもとに転生させる予定だったのじゃが、まさか、あそこでくしゃみがのぅ。なので其方には特別に印を付けておくから、藁人形の生を全うし早々に此方に戻ってくるのじゃぞ、其方だとわかる様に印はつけた、この次はお詫びも兼ねて良い人生を送れるようにするでな。ではな。》


何だか一方的に話して行っちゃったなぁ。それにしても藁人形か、何に使われるのかな?田んぼのカカシとか?あとは、何だろ、思いつかないな。そのうちわかるかな。どうせ動くことも何もできないし、藁人形の一生ってよくわからないけど、苦しくなければ何でもいいかな。はぁ、夜みたいだし、寝よ寝よ。


▷▷▷


《神様、良かったんですか?あんな安請け合いして。それに()()()()()()()いつ、ここに来れるかわかりませんよ?》

《…仕方あるまい。あの幼き魂にも希望は必要じゃ、まさかあんな事になるとは、魂につけた印が少しばかり加護の役割をしてくれるじゃろう…。》

《その加護のせいで、藁人形でいる期間が長引かないといいですね……。》

《!何じゃと⁉︎》


▷▷▷


僕は次の朝、久しぶりにゆっくり寝られたおかげかスッキリした気分で目が覚めた。魂だけなのに不思議だ。でも、そういう事もあるのかもしれない。あの神様が言ってたように、藁人形じゃなくて、人に生まれたいな。早めに藁人形生が終わるといいけど。それにしても周りにもたくさん藁人形があるみたいだ。じーっと他の藁人形を見ていたら、形が段々はっきり見える様になってきた。それと一緒に部屋の中もはっきりしてきた。

自分達藁人形は箱の中、棚に置かれていて隣には紙の束、椅子と机とカーテンがあって窓はないみたいだ。何だろう、占いの館みたいな変なランプがたくさんある。うーん、人がいないからよくわかんないや。あ、でも、人が来たかな?これでやっとなんかわかるかも。


「さぁ、此方へ。お話をお伺いしましょう。」

「…」

「ここは周りから離れていますし、話が漏れない様に注意してますからご安心を。ひひひ。」


何だか声が怖い。占い師さんてこんな感じなのかな?


「それで、どなたを呪いたいので?」


え?の、呪い?呪いって言った?怖いよ、何で呪うの?

あ!もしかして僕って、呪いの藁人形に入っちゃったの⁉︎嘘でしょ⁉︎ヤダよ! 神様のばかぁ〜!!!!

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