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はじまりのもり2


「なんか・・・・・・ごめん」


 その声に反応するかのように、口を大きく開け、その奥を赤くさせだす芋虫蛇君。

 ごめんって言ったじゃん!


「もうやだそれ!」


 くそ! 何かこの現状を打破できるようなものは・・・・・・だめだ! 乾パンしか思いつかねえ!

 後は用途不明の黒いキューブのみだけど・・・・・・とりあえずぶつけてみるか!

 あっちもなんか赤いのぶつけようとしてくるし、これは正当防衛だよね! 決して動物虐待ではない!


「おらぁ!」


 バックパックから取り出した黒いキューブを振りかぶって、芋虫蛇君にぶん投げる。角を向けて! これは痛いぞ!

 ハハハァッ! 正当防衛だからぁ! 仕方なくだからぁ!

 決して怖がらせられた恨みとかそんなもんは入ってないからぁ! のーもあ動物虐待!


 思いっきり振りかぶった甲斐があったのか、キューブの角が芋虫蛇君の身体にあたり、くの字に身体をのけぞらせる。うわあ、痛そう。

 しかし、倒れることはなかった。

 緩慢とした動作で首を振ると、キッとした顔(そう見えるような見えないような)でこちらを見てきた。

 額には青筋が立っているようにも見える。


 え? もしかして怒ってます?


 緩慢とした動作のままこちらににじり寄りながら、口を大きく開ける芋虫蛇君。あわわわわ。


「まって。落ち着こう。俺が悪かった。そうか。角か。角が良くなかったか。確かに角は痛かったよな。それは謝る。でも最初にやばいのかましたのはそっちじゃん? ほら、それ考えたらおあいこじゃん? 落ち着こう。話せばわかる」


 ――轟音。

 顔の横スレスレを通りすぎた火球は、後ろでけたたましい音を発しながら弾けた。

 頬が熱い。焦げたみたい。


 俺の必死の訴えもむなしく、芋虫蛇君はすでに二発目の装填に入っている。


 あんなの直撃したらシャレにならん。俺がキューブの角あてただけなのにつり合いとれてなさすぎじゃない? 芋虫蛇君の沸点どうなってんだよ。ツンデレ超えてツンツン超えてツンドラ超えてドラドラだよ。俺もう何言ってんだろうね。わけがわからないよ。

 とにかく――


「たぁすけて~! ドラエモォォォォォォンン!」

 逃げるしかないでしょう!


 急いで回り込んで盾にした木に衝撃が走り、パラパラと焦げ付かせた木片が飛びちる。


 威力上がってない? え、キレたら攻撃力上がるとかありなの? 感情で威力変わるとか主人公かボスにしか許されない特権だろ!


 もう一度、木に衝撃が走る。幻の三発目。あいつどれだけ連発できんねん。スタミナすごいな。

 普通こういうのって限りがあるものじゃないの? ほら魔力的な問題で。


 木の陰から覗き見てみると欠片もそんな気配がない芋虫蛇君は四発目の装填に入っていた。


 反射的に木に隠れ、身を縮める。そしてそれと共に轟音が響く。

 このままじゃ埒があかない。忘れそうだったけど、二号君が伸びているうちに早く逃げないと! 攻撃力二倍はやばい!


 次だ。次の攻撃をやり過ごしたら、装填の間に逃げよう。


 そして身を丸くしていると、聞き慣れてきた轟音が聞こえた。今だ!


 脱兎のごとく駆けだそうとした時、嫌な音が耳に届いた。


 ――メキメキメキッ。


 めきめき? 後ろを見るとあろうことか、俺の身体をすっぽり覆うほどもあった木がゆっくりと倒れていくではないか。

 その先は――芋虫蛇くん二号のがいるところだった。


 ゆっくりと音を立てながら倒れていく木。

 呆然としたように見つめる芋虫蛇君に、慌てたような顔をして逃げ出そうとするもなかなか身体が動いていない芋虫蛇君二号。

 ぺっちゃんこルート一直線だ。


 ふへへ。ざまあ。俺を襲おうとするから悪いのだ。因果応報だな。悔い改めよ。


 最初はゆっくりと、次第に早く。木は加速しながら芋虫蛇君二号に落ちていく。

 芋虫蛇君二号はすべてを受け入れたかのように身体の力を抜いたように見えた。

 それを慌てた様子で見る芋虫蛇君。さっきまでの激怒な雰囲気はどこへやら、狼狽という言葉が非常に似合う様だ。

 芋虫蛇二号君の目に涙が光ったように見えた。


 その光景を見た瞬間、なぜか俺の身体は動き出してしまっていた。


 ビーチフラッグの選手のように駆けだした俺は、その勢いのまま、スライディングして芋虫蛇君二号を腕の中にガッツリキャッチ。

 お尻の下で小石をガリガリと削りながら、滑るように木の下から脱出する。


 直後、これまでの火球など比ではないくらいの轟音。

 衝撃でお尻が浮いた気がする。

 間一髪だった。

 背後で倒れた木を見て、俺はそれにもたれかかり一息つく。


 腕の中の芋虫蛇君二号はきょとんした顔をして辺りを見渡した。

 そして自分が何者かに抱えられていることに気づくと、恐る恐る俺の顔を見上げてきた。


「二号君。怖かったね。もう大丈夫だよ」


 なるべくやさしい声音で笑顔で言ってみた。

 敵意ないよー、怖くないよー。だから火球だけは本当にやめて。


 芋虫蛇君二号は俺の顔をぽけーっと眺めた後、ハッ気づいたように顔を伏せる。

 そしてまた上目遣いでもするようにして、こちらを見上げてきた。

 こころなしか頬を染めている気がする。気のせいか。気のせいだよな。


 その様を未だに呆然とした顔で見つめていた芋虫蛇くんが我を取り戻したように頭を振る。

 そして、もう何度目かの光景だ。

 俺に向かって口を大きく開け、その奥を赤熱に染め上げた。


 ああ。なぜ俺は助けてしまったのか。さすがに死んだな。俺。

 追いかけまわされて、攻撃もされて。いや、二号君は攻撃はしていないか。まあお友達の元祖芋虫蛇君には嫌というほど攻撃をされたが。

 最後にはそんな相手を助けた挙句に、一方的に熱殺。やってらんねえぜ。ちくしょう。


 俺は先ほどの芋虫蛇君二号のように身体の力を抜いて、木にもたれかかったまま全身の力を抜いた。

 元祖芋虫蛇君の口の奥が一段と赤く染まる。


 ああ。死んだらお家のベッドの上に戻っててくれたら嬉しいなあ。

 さすがにここまでスピード感ありすぎて、よくわからんのよ。

 そしてよくわからないまま死にそうだけど、起きて夢だったなら何も言うことはないから。

 楽しい夢だったで済ませよう。


 そう思った時だった。

 腕の中から二号君が身体をねじるようにして飛び出す。


 え、ちょっとちょっと! せっかく助けた命なんだから粗末に扱っちゃダメでしょ!


 慌てて手を伸ばすも、もう遅い。

 さっきまでの緩慢な動作はなんだったのか。

 素早い身のこなしで大地に降り立ち、俺と元祖芋虫蛇君の間に降り立つと、威嚇するかのように吠えた。・・・・・・きゃいん。子犬みたいな鳴き声だった。かわいい。

 目の前の光景とのギャップに笑いそうになるが、本人(人ではないが)が真面目なので流石に笑いをこらえる。


 それに驚いたのは俺だけじゃなかったらしい。

 焦るような顔をしたのは、元祖芋虫蛇君だ。

 しかし、最早止まれないらしい。口の中の赤さが最高潮に達したかのように輝いた後、火球が放たれた。

 ――それとほぼ同時に、芋虫蛇君二号が地面に頭を打ち付ける。


 地面が波のように蠢くと、元祖芋虫蛇君と二号君の間に土の壁ができた。


「は?」


 轟音。そして衝撃で弾けたように細かい土片が飛び散る。

 土壁は火球と相殺されたように崩れた。

 パラパラと細かい土が俺の顔に当たるが、火の球より全然マシだ。

 なんだこの魔術対戦。俺置いてけぼりでファンタジー始めないでもらえます?

 俺の物語の主人公は俺だ。

 なんで、へたりこみながらモンスター同士の魔術対戦を見守らなきゃいかんのだ。しかも特等席(命の危険あり)で。


 そんな俺の思いなど露知らず、先ほどまでの泣き顔から一変、キリっとした表情で元祖芋虫蛇君を睨む芋虫蛇君二号。


 それにオロオロしだしたのは元祖芋虫蛇君だ。

 二号君の心変わりが理解できないのか、真意を探るように細い声をだしている。

 これもまた子犬みたいだ。くぅーんみたいな。きゃわいい。

 それに鋭い声で返す二号君。きゃいんきゃいん言っている。


 なんだこのいきなりの癒しワールド。ほんわかしてしまうわ。

 

 しばらくそんなお遊戯会みたいな光景を見守っていると、話がついたみたいだった。

 元祖芋虫蛇君が折れたのか、乾パンの缶に近づき、器用に口で缶を開け、乾パンを食べだした。

 やりました! みたいな顔で見てくる二号君。

 どことなく瞳がキラキラしている気がする。褒めて欲しいのかな。


「あ、あー。ありがとう。どうやらおかげで助かったみたいだ」


 困惑しながらもそう声をかける。

 嬉しそうに身体をくねらせると、その後、いきなり俺のバックの中に顔を突っ込み、何かを探り始める。


「ちょっ、もう乾パンはないぞ」


 なんならカバン開けたままスライディングしたから中身なんて全部外だ。

 木の向こうに転がってる謎のキューブと水筒と救急箱くらいしかもう俺の持ち物ないぞ。

 そう。乾パンはあそこでむしゃってらっしゃる君の友達のが最後だ。

 ついでにあれ返してくれるように言ってくれないかな? 割と俺の生命線なんだよね。


 そんな俺の声をシカトしながら、カバンを漁っていた顔を上げる。

 そして、俺と目を合わせると、ハテナ? みたいな擬音がつきそうな感じで首を傾げた。

 いやハテナじゃなくて。

 ごはんがないなら攻撃するぞ、とか言わないよね? 頼むよ?


 俺の思いが通じたのか、周りをきょろきょろと見渡すと、俺の身体を伝って、木の裏側に行った。

そしてすぐに戻ってきた。

 その口には、謎の黒いキューブが咥えられていた。


「え、なに? それ食べるの? やめといた方がいいよ。多分おなか壊すから。」


 それに首を振るような仕草をすると、ズイっと俺にキューブを押し付けてくる。

 いや俺も食べれないから・・・・・・というか今もしかして意思疎通できた?

 衝撃の事実を知らされた思いをしながら、キューブを受け取る。


 そして俺が受け取ったキューブにコツンと頭を当てた。

 すると、キューブが近未来的な機械音を上げながら、正方形だった形が縦に延び、長方形のような姿に変わった。

 中には周りを走る青いラインと同じような青い球のようなものがあり、二号君は自らそれに触れた。


 その瞬間――驚くべきことが起きた。

 一瞬のうちに青い球に飲み込まれるようにして、二号君の姿がかき消えたのだ。


「え? え? え?」


 狼狽する俺。

 いやだってそうだろう。

 瞬間移動? インベントリ?

 なになに? 何が起きたの?

 ちょっと開幕からそうだけど、説明足りてなさすぎじゃない?


 キューブの周りを走っていた青いラインは二号君が消えたと同時に、赤いラインに変わった。

 そして、また機械音をさせながら、キューブは正方形の物体に戻った。

 思わず木の後ろを見ると、そこに転がっているキューブは青いラインのまま。

 明らかに二号君が何かしたキューブとは違う。

 

 頭が混乱する。

 何が起きてる?


 ハッと思い出したように元祖芋虫蛇君を見る。

 彼もちょうど乾パンを食べ終わったところのようで、缶から頭を上げた。俺の乾パン・・・・・・。

 いや、そんなことは置いておこう。俺の命の危険再びだ。

 俺の身体に戦慄が走る。先ほど守ってくれた二号君は謎に消えてしまった。つまり俺を守ってくれる存在はもういない。

 嫌な汗が背中に流れる。


 なるべく友好的な笑顔で元祖芋虫蛇君を見ると、彼はハアとため息でついたかのように頭を下げた。

 そしてさっき投げたせいで近くに転がっていたキューブに近寄ると、二号君と同じように起動させ、その姿を消した。

 残されたのは青いラインが赤いラインに変わったキューブと、状況を呑み込めていない俺が一人。


「え? 本当になんなん? これ」


 その問いに答える者は、当たり前だが誰もいなかった。


 しばらく魂が抜けていたように呆けていたが、頭を振って意識を覚醒させる。


 状況はよくわからん。よくわからんが、このままじゃ悪戯に時間が過ぎて、ほかの理由でゲームオーバーになりそうだ。


 とりあえず助かったのは助かった。もうけもんだ。

 さっさと当初の目的を果たそう。


 えーっと・・・・・・生活の拠点だったっけな。乾パンも無くなったから食料も探さないと。なんかいろいろありすぎて疲れたけど、やらないことにはしょうがない。・・・・・・動くか。

 ダメ元で乾パンの缶を見てみる。・・・・・・空だ。まあそうだよなあ。

 手元にある赤い線の走ったキューブを見る。

 赤い以外は他の青い線の入ったキューブとの違いは全く分からない。俺の知らない何かしらのギミックがあることは間違いないんだけど・・・・・・まあ考えても仕方がないか。


 俺は散らばった荷物を集めると、赤いキューブ二つもキチンとカバンの中に入れて、また森の中を歩き始めた。


 今となっては不気味な森だ。

 木々が生い茂って周りは暗いし、謎生物が出てくることもわかってしまった。慎重に進み始める。


 しかし、意外なことに問題は拍子抜けするほど早く解決した。

 歩き始めて数分もしないうちに、道を見つけたのだ。


 それは舗装されたコンクリとかそういうものではないが、ちゃんと地面が整えられていた。

 轍もあったし、明らかに人の手が加えられている。

 

 道とは線であり、それは点と点を繋いでいる。

 つまり、どっちに進んでも乗り物を作り出したような文明人と出会うことができるってことだ! ひゃっほい!


 まだどれくらい時間がかかるかわからないし、この先の人が良い人とは限らないが、あてもなく歩く羽目になるよりは気分は百倍良い。


 安堵のため息をつくと、俺は歩き出す。


 走りまくったせいで、足は怠くて重いし、もう転げまわりすぎて汚れだらけだし、汗もやばい。コンディションは控えめに言って最悪だ。

 どっちに進めば良いかもわからない。完全にあてずっぽうで進むことになる。

 でも、進む。それで良い。何か起きたらそれから対処すればいい。何か起きる前からビビッて動かないなんて、その方が嫌だ。


 木々が途切れたおかげで久しぶりに出てきてくれた太陽が道を照らす。

 俺はそんな明るい道を、胸を張って歩き始めた。

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