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幕間 過去の日常。兄貴との依頼

 メレケス兄貴と依頼を受けるようになって数週間。

 俺は兄貴と依頼をこなしに森まできていた。



「ほら。そっちに行ったよ!」


 兄貴の声に釣られ、そちらを見る。

 そこにはまるで大きな毛玉のような見た目をした塊が、こちらに向かって転がってくるところだった。


「ツッチー、壁作って!」


 俺の足元できりっとした顔で毛玉を見ていた俺の声に応えるかのように、地面に頭を打ち付けた。

 すると、ツッチーの前に地面から土が盛り上がり、大人の男二人分くらいの大きな壁ができた。


「ぴきぃぃぃ!」


 ――衝突音。

 車は急には止まれない。同じように、毛玉も急には止まれない。

 慣性の法則に従って毛玉は回転した勢いそのままに土の壁にぶつかると、ぐるぐると目を回してその場に倒れた。


「素晴らしいね」


 そんな声を発しながら兄貴は、キューブを毛玉に放る。

 毛玉は光と共にキューブに吸い込まれていった。


「これでモフモフの捕獲は完了だね」


 ニコニコとしたいつもの笑顔で、俺にそう微笑みかける。


「はい! やりましたね!」


 俺はそう言ってブイサインを右手で作って兄貴に見せた。

 ツッチーもその場でくるくる回りながら楽しそうにしている。

 

 今回の成功の立役者であるツッチーを抱えると、俺は胸に抱きしめてなでなでした。


「ツッチー、ありがとうなぁ」

「ぴーい」


 嬉しそうな声を出すラブリーなツッチー。かわいすぎる。

 

「あはは。仲が良いね」


 そう言う兄貴の背後から、一匹の白い芋虫蛇がこちらへ向かってきた。ホワイティだ。

 ホワイティは無言で俺の足元まで来ると、ガジガジと脛を噛んできた。普通に痛い。


 俺は片手でツッチーを持ち直し、ホワイティを反対の手で抱えた。

 するとホワイティは俺の手を伝って頭に行き、とぐろを巻いて休みだした。

 バランスを取るのが難しい・・・・・・・。


 その様子を温かく見守っていた兄貴は一つ手を叩いて言った。


「それじゃ次に向かおうか。次は黒キノコの採取だね。難しい依頼だけど頑張ろう」


「黒キノコって難しい依頼なんですか? その辺に生えてそうな名前ですけど・・・・・・」


 頭の重みにふらつきながら言う。こらホワイティ。揺れるからって頭を齧るんじゃありません。


「黒キノコはね。別名、森の宝石とまで言われている高級キノコの事さ。香りが最高に良くってね。パスタなんかに合わせるともう最高の味わいだよ」


「へえ! それは食べてみたいですね!」


「はは。そうだよね。ただ美味しすぎるせいで採られ過ぎちゃってね。あまり流通しないんだ。だから価格も高騰して森の宝石なんて名前にもなったし、見つけるのは至難の業だよ」


「うへぇ。なるほど。そんな理由が・・・・・・」


 兄貴が言うくらいだし、本当に難しい依頼なのだろう。

 しかし、黒キノコか。香りも良くてパスタにも合う。ぜひ食べてみたいなあ。


「まあ、難しくても大丈夫さ。なにせ僕には秘策があるからね」

 

「秘策!?」


「ああ」


 自信ありげに微笑む兄貴。そんな顔をするなんて珍しい。

 兄貴がこんなに自信満々だなんて、相当期待しても良さそうだな!


 しっかりとした足取りで森の奥の方へと向かう兄貴。

 俺はそれに遅れを取らないように速足で兄貴の横まで行った。


「秘策ってなんですか?」


「ふふ。それは見てからのお楽しみさ」


 あくまで自信のある姿勢は崩さない兄貴。流石だ。

 この人に着いて行ったら俺はなんでもできそうな気がする。全能感万歳。


「楽しみです! 流石兄貴! 難しい依頼でも簡単に秘策を用意してくれるし最高です! やっぱり兄貴と一緒に依頼を受けたら完璧ですね! 黒キノコなんて秒で見つけられそうな気がしてきました! 森の宝石乱獲しましょう! 大船に乗ったつもりでいます! 今夜は森の宝石パーティーですね! やったぜ!」


「・・・・・・ちょっとダメな気がしてきたよ」


「兄貴!?」


 兄貴賛美が過ぎたせいで食傷気味の兄貴と楽しく話をしていると、兄貴は唐突に森の真ん中で止まった。


「ここらへんでいいかな」


 そう言うと、兄貴は赤いラインの入ったキューブを一つ取り出し、俺に見せる。


「さあ、秘策を見せてあげよう」


 ゴクリ。

 俺は唾を飲み込むと、キューブを軽く放る兄貴に視線が釘付けになる。

 何を見ることができるのだろう。

 期待に溢れた俺の視界の先で、キューブから放たれた光が形を作っていった。

 光が収まりそこにいたのは、一匹の大きな豚だった。


「へ?」


 思わず変な声が出る。


「見たかい! これが秘策さ! 彼女の名はブゥブの雌のシャーロット。仲良くしてあげて欲しい」


 え、豚ですが。

 秘策って豚ですか兄貴?

 ええ・・・・・・いや! いやいや! 兄貴の秘策だ! きっとこの豚にも何かきっと特別な力があるはずだ! 兄貴を信じろ!

 

 俺は力の入った目でシャーロットを見る。

 パチンとウインクを返してきた。

 無駄に艶めかしい。なんだこいつ。豚のくせに腹立つ。

 いやいや! だめだだめだ! 兄貴を信じるって決めたろ!


「何かっ! 何か特別な力があるんですよね! ね! 兄貴!」


「あ、ああ」


「良かった! 教えてください!」


 俺が発する謎の圧に少しだけ押された兄貴だったが、咳払いを一つして俺に説明を始めた。


「ブゥブは鼻が良くてね。黒キノコの発する匂いがブゥブの雄が出すフェロモンに似ているみたいなんだ。この時期は発情期だからフェロモンを嗅ぎ分けられるブゥブの雌が最高の黒キノコハンターになるんだよ」


「へー!」


 あれ? でも、それってなんか俺も聞いたことあるぞ。えっとトリュフ探しで何か動物が似たような事してたような・・・・・・あ、豚だわ。


「ん? どうかしたかい?」 


「あ、いえ! なんでもないんです! そう。なんでも・・・・・・あはは」


 結局、俺の中でただの豚認定されたシャーロットと共に黒キノコ、もといトリュフ狩りに勤しむのであった。


 その後、黒キノコの依頼は無事に終わった。・・・・・・探し初めてから六時間後に。

 案の定、シャーロット(豚)は黒キノコ(トリュフ)が大好きで、シャーロットのつまみ食いがなければもう三時間は早く終わっていたかもしれない。

 まあ兄貴といっぱい話せたからいっか。楽しかったし、こんな日が続けばいいな。


 兄貴と打ち上げで行った酒場からの帰り道。

 夜空に浮かぶ綺麗な星を見上げながら、そんな事を考えていた。

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