4 駄目駄目末っ子王女は、二人の姉には敵わない!
これで完結します。
アンドロイドの小説アプリで小説を書き、それをこの「小説家になろう」にコピペして投稿しているのですが、最終章に、1章から全章を貼付けるという失策をしてしまいました。削除しましたが、驚いた方もいらっしやると思います。
申し訳ありません。これからはもっと余裕を持って、落ち着いて作業をしたいと思います。
男というものは女よりも精神的な成長が遅いという。ローリィーがサララ王女の置かれた状況を本当の意味で把握したのは、彼女が婚約者キラーだなどという、流言飛語が飛び交うようになってからだった。
ローリィーは自分の弱さ、愚かさに絶望した。そしてサララに申し訳なくて、その後悔の気持ちに苛まれた。
その上、サララと会えなくなってから、ローリィーは初めて自分が彼女の事を好きだったのだ、という事に気が付いた。しかし全てはもう遅過ぎたのだ。
失意のどん底に落ちたローリィーが再び以前のような情けない少年に戻りかけた時、兄のオーリィーは弟にこう言った。
「後悔ならいつでも出来る。しかし、今やるべきことはなんなんだ?
大切な人を守りたいんだろう? それなら何をすべきなんだ? まずはそれを考えろ。
人からどう思わるかなんて気にするな。たとえ他人からどう思われても、好きな相手に嫌われたとしても、その人のためになる事をしろ」
と。
ローリィーはサララ王女の兄である王太子マクシミリアンと、第二王子のベンジャミンに面会を求め、自分の罪を告白した。そして、サララ王女の為に何か自分にさせて欲しいと願い出た。
すると、ローリィーは王子達にこう言われたのだ。
「意図的にサララを貶めようとしている高位貴族がいる。その家はいわく付きで、叩けばいくらでも埃が出てきそうだったから、以前から私達は証拠集めをしていた。その家を潰せば、きっと妹の名誉も挽回出来ると思う。後数ヶ月はかかると思うが、それまでは少し我慢をしていてくれ。
そして出来れば、今は妹を陰から見守っていて欲しい。もちろん影を付けてはいるが、何かあった時に表に姿を現す事は出来ない。だから咄嗟の場合は、君に護衛達と共に妹の盾になってもらいたいのだ。それが出来るかね?」
と。そしてローリィーはこう答えたのだ。
「身命を賭してもサララ様をお守りします」
と。
それからというもの、ローリィーは人が変わったように勉学や剣術の鍛錬に励み、苦手な社交にも積極的に参加して、友人や知人を増やしていった。そして、学生から得られる情報を出来るだけ収集し、兄のオーリィーや二人の王子達に提供した。
そして、そうこうしているうちに、ローリィーはあのマリエ=ハギンズ子爵令嬢とサムエル=エンブリー侯爵子息との関係を知ったのだ。
あのサムエルがマリエに、王女の事を見下すように話すのを物陰で聞いた時、身体中の血が煮え滾るほどの怒りが湧いた。
しかし、その時はそれをどうにかぐっと腹の中に抑え込み、それからずっと彼らの動向を注視していた。特にサララ王女と接触を図るのなら女性の方だろうと、マリエを見張っていたのだが、その予想が的中したのだった。
既にエンブリー侯爵家の悪事の証拠は全て揃ったと聞いていたので、今回ローリィーは躊躇わずにすぐに動き、マリエを確保したのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
くだらない婚約解消騒動に巻き込まれたサララは、王宮に戻ってきた後夕食もとらずに、自分の部屋の中に閉じこもった。
外出していない限り、家族全員が揃って食事をとることが王家のルールだったが、サララは今日はとてもみんなの顔を見て食事をする気になれなかった。特に母親とは顔を合わせたくなかった。
あんな子爵の馬鹿娘にまで見下された自分が情けなかった。王女である自分が何故こうも人から蔑ろにされなければならないのだ。
ママは母上様から父上様を奪った情婦なんかじゃない。むしろ父上様から半ば無理矢理に愛妾にさせられたのだ。それに、ママは母上様やお母様にちゃんと認められ、望まれて王宮に入ったのだ。
それなのに、何故あんな事を言われなくてはいけないの?
やっぱり、罰が当たったのかな。ミルフェーヌお姉様に婚約破棄しろなんて言ったから。でもあんなの本気じゃなかった。お姉様とオーリィー様が愛し合っている事なんて、一目瞭然なんだから。ただそれが羨ましくて少し妬んだだけだ。
あっ、そうか。妬んであんな酷い事を言った私は、いつも私に嫌味を言う連中と同じってことか・・・
あの後、ミルフェーヌお姉様にはちゃんと謝罪した。しかし、謝ったらすむ事じゃなかった。ミルフェーヌお姉様とオーリィー様がどんなにお互いを大切にし、励まし合い、努力なさっていたのかを、自分が一番良く知っていた筈なのに。
激しい後悔や、惨めさ、申し訳なさという色々な感情が入り混じった涙が、サララの瞳から溢れて止まらなかった。
その時、部屋のドアをノックする音がした。無視しようと思っていたら、返事もしないのにドアが開き、姉二人が食事の乗ったワゴンを押して中に入って来た。
「いや、勝手に入ってこないで!」
サララは枕に顔を埋めてそう声を荒げたが、姉達が願いを聞いてくれる訳が無いという事はわかっていた。
「我がイオーリア王家の決まり、その一」
「食事は家族揃ってとるべし。そのニ」
「毎日の報告・連絡・相談は欠かさない。その三」
「問題は一人で抱え込まず、家族揃って解決すべし。何故ならそれが一番合理的で無駄が無い」
メラニーとミルフェーヌが交互に、我が家の絶対の掟を唱えた。そして、ベッドの上のサララの頭と足元に腰を下ろした。
「嫌な思いをしたわね。ローリィー様からお聞きしたわ」
「でも、ちゃんと浮気相手の名前を聞き出すなんて、さすがだわ、サララ」
「そうそう。冷静によく対処出来て偉いわ。さすが私達の妹ね」
「ううん。私、本当はカッとなって殴りかかったの。それをローリィー様が止めて下さっただけ」
「ママを悪く言われたのでしょう? 仕方ないわ。私でも殴っていたかもしれないわ」
「まあ、ミルフェがたとえ殴っても、せいぜい猫パンチくらいでしょうけれど」
「あら、猫パンチって、鰐も追い払える威力があるのよ」
「まさか! もし本当に逃げたとしたら、ただ驚いただけでしょ」
姉達のいつもと変わらないやり取りにサララもクスクスと笑った。
「そうそう。サララには笑顔が一番似合うわ。我が家のアイドルなんだから」
二人の姉に頭を優しく撫でられて、サララもようやく泣きやんだ。
「今からサララの騎士五人組が、我が家のお姫様に仇なす連中をどうやって懲らしめるか、談議を始めるみたいよ。だから、私達はここでゆっくりと食事を取りながら、その報告を楽しみに待っていましょう」
と、ミルフェーヌが言った。
「五人って? まさか父上様もメンバーに入っていらっしゃるの?」
五人の騎士といって思い浮かぶのは、二人の兄と姉達の婚約者二人、あとは父親しかいないが、普段は父親を家族のメンバーとして認識していないのだが。
すると、父親に誰よりも顔立ちが似ているために、誰よりも父親を毛嫌いしているメラニーがとんでもない、という顔をした。
「まさか! あの方がいらしても何の役にもたちませんわ。貴女の騎士と言ったら、あの方しかいないでしょう」
「あの人?」
「もう、許してあげなさいよ。過ちはだれにでもあるのだから。まあ、貴女が二度と彼と口をきくのも嫌だっていうのなら、卒業したら辺境騎士団へでも行って頂くように、マクシミリアンお兄様にお願いしてみるけれど」
『ミルフェーヌお姉様ったら、先日の復讐なのだろうか、とんでもない事を言い出したわ。辺境騎士団なんかに入れられたら、本当にもう会えなくなってしまうじゃないの! いくら前より強くなったと言っても、あの方は泣き虫で、私が側にいてあげないと駄目なのに!』
「お姉様ったら、なんて酷い事を仰るの? ご自分の義弟になる方なのに」
「えっ? 誰もローリィー様だなんて言っていないわよ。ああ、貴女の騎士様って、ローリィー様の事だったのね。知らなかったわ。ねぇ、メラニーお姉様」
「本当ね、ミルフェ」
墓穴を掘り、サララは顔を真っ赤にして、また枕に顔を埋めたのだった。
その後結局、エンブリー侯爵は背任と横領、そして脱税の確固たる証拠が出てきて、財務大臣を免職され、投獄された。
侯爵家は子爵家に格下げとなった。その上後継となった嫡男のサムエルは、多数の女性と関係を持っていたために、あちらこちらの家から慰謝料を請求をされ、その金策に追われる事になった。
そしてその母である元侯爵夫人は、今まである事ない事ばら撒いていた嘘が、全てブーメランのように彼女の元に返ってきて、嘘つき女だとして信用を失くし、社交界から抹殺された。
また、件の子爵令嬢、マリエ=ハギンズはサララ王女に対する不敬罪で投獄され、学園を退学処分になった。ただ、まだ年端も行かぬ少女だという事で間もなく親元に帰されて、再教育をなされるように命じられた。
もちろんアルフレッド=ネーピア伯爵家のご子息とは破談になったが、本人の希望が叶ったのだからなによりだったろう。しかも運命の相手であるサムエルとは同等の子爵家になったのだから、二人を邪魔をする者は誰もいないだろう。そもそも、互いに他所の家とはもうどことも縁は結べないだろうし。
「めでたしめでたし・・・」
そう言って黒い笑みを浮かべたのは王太子であった。大切な妹達をずっと蔑ろにされてきたマクシミリアンは、彼らへの報復をずっと狙って、コツコツと準備をしてきたのであった。
貴族達はこのスキャンダルで大きな教訓を得た。
王家は国王を除き、婚約者を含めて皆とても仲睦まじい。故に、王家のメンバーを誰一人として、けして蔑ろにしてはいけないと。
一連の汚職事件が解決した後、サララ王女の後ろには、学生をしつつも彼女の護衛と認められたローリィーが、絶えず張り付くようになった。彼女に男子生徒が気安く声をかけようものなら、エメラルドグリーンの鋭い瞳で睨みつけられた。
ローリィーはサララ王女の十四歳の誕生日に、彼女に跪いてこう言った。
「今の俺では、貴女の防波堤どころか、波消しブロックにもなれないかもしれません。それでもいざとなれば貴女の前に立ち、身命を賭して貴女を守る覚悟だけはあります。
そして、俺には兄達と違って爵位はありせんが、これから精進を続け、必ず自らの力で爵位をもぎ取ってみせます。ですから、俺の婚約者になってくださいませんか」
するとサララ王女は、昔と変わらぬ薔薇のような華やかな笑顔で、嬉しそうに頷いたのだった。
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