3 駄目駄目末っ子王女の家庭は、父親のせいで複雑です!
王家の変わった家族の関係のお話です。何故サララが王女らしくない王女になったのかがわかります。諸悪の根源は国王である父親です!
噂を否定して反論すれば更に悪く言われる。無視が一番。王女らしく堂々としていればいずれ噂はなくなる。そう兄や姉達に言われ、サララはグッと堪えて何も言わなかったし、反論もしなかった。
ただ彼女は男女身分関係なくフレンドリーに人と話すため、元々高位貴族からは、はしたなくて淑女らしくない王女、というレッテルを貼られていた。それが更に例の男好き、婚約者キラーというとんでもない噂が定着してしまったのだ。
さすがのサララも次第に不貞腐れて、悪ぶるようになっていった。どうせ何をどうしたって悪く言われるのだから。
サララの母方の祖母は平民だった。彼女は子爵家の侍女をしている時に主のお手付きとなり、妊娠と同時に屋敷を追い出された。しかし、その後美しく成長した彼女の娘は、父親である子爵にその存在を知られ、政略結婚に利用するために、無理矢理に引き取られてしまった。そして娘は社交界へデビューさせられたのだ。
するとその娘は美しさだけでなく、父親が考えていたより遥かに優れた娘で、なんと国王の目にとまってしまった。
国王は政治的な能力は高い人物だったのだが、人としては女好きの駄目駄目男だったのだ。
そんな駄目夫の手綱を上手に握っていたのが、彼の従兄妹で、同じ元国王の血を引く正妃だった。彼女はとにかく優秀でしっかり者だった。
世の為人の為女性の為、国王がやたらと女性に手を付けないように、彼女は夫を厳しく監視し、本人に気付かれないように上手に女性関係をコントロールをしていた。
そして二人目の子であるミルフェーヌを生んだ翌年、王妃は夫がまた若い子爵令嬢に目を付けたという情報を影から入手した。それを聞い時も、王妃は慌てる事も、腹をたてる事もなく、すぐにその令嬢を徹底的に調べさせた。
すると元平民だというその彼女は、平民の頃も貴族になってからも評判がとても良い娘だった。容姿だけではなく心根も美しく、数年で淑女としての最低限のマナーを身に付けた事を考えても、彼女の優秀さと真面目な人柄が忍ばれた。
しかしそれに反して、彼女の父親である子爵は大分評判悪い男だった。こんな子爵と縁を結んでは、後々王家にとってどんな災厄をもたらすかわかったものではない。と王妃は思ったが、みすみすこのような有望な人材を手放すのは惜しいと思った。
それにこのまま放っておけば、彼女はあの愚かで残酷な父親の手駒として利用され、碌でもない人生を送る羽目になるだろう。それは気の毒だと王妃は思った。
王妃はこっそりと、子爵令嬢を数人のカモフラージュの令嬢と共に王宮に呼び、ティーパーティーを催した。
子爵令嬢は何故自分が王宮に呼ばれたのかが全くわからず、最初のうち酷く怯えていた。しかし、王妃と側妃、そしてまだ幼い四人の王子王女に歓迎され、もしかしたら自分は王子達の子守りとして王宮に召し上げて頂けるのではないか、と思った。
子爵家にいるのが苦痛でしかなかった令嬢は、微かな希望を抱いた。しかし、そうではなかった。
国王陛下の愛妾。思いがけない申し出に令嬢は茫然自失となった。貴族となって日の浅い彼女にとって、結婚とは一夫一婦が当然の感覚だったのだ。
もちろん平民でも愛人を持つ裕福な家もあるが、愛人になるような女性は軽蔑されるべき女性と見なされていた。彼女の母も父無し子を生んだとして蔑まれる事もあったが、不可抗力であった事は一目瞭然だったので、それ程酷い扱いは受けなかったのだ。
母親は実家の商売を手伝いながら彼女を育てくれた。母親の夢は娘の花嫁衣装を見る事だった。自分は着る事が出来なかったから。
だから娘は母の為にも、普通の結婚をしたいと思っていたのだ。それなのに愛妾とは。
彼女があまりにも落ち込んだ様子だったので、王妃は更に厳しい彼女の現実を突きつけた。
たとえこの妾の話を断ってどこかの貴族の正妻になれたとしても、それは政略結婚であり、かなり問題のある人物か、親子ほど年の差のある人物の後妻であろうと。父親は娘の幸せではなく、自分の利益の為に結婚させるのだから。
それに比べ、国王の愛妾になる方がまだましではないだろうかと。実家の爵位の地位で名称が代わるだけで、側室とそう待遇は変わらないし、却って外交や社交などの仕事もせず、割と自由がきくので、好きな事も出来ると。
「お花を育てたり、本を読んだり、絵をかいたり、料理をしたり。普通の貴族の奥方ではなかなかそんな事はできませんわよ」
と、王妃が微笑んだ。令嬢は驚いた。何故私の好きな事を知っているのかしらと。そして、第二夫人と呼ばれている側妃が彼女の耳元でこう囁いた。
「望まない旦那様のお相手も、普通の奥方と違って三分の一で済むのですよ」
夫人達のそれらの言葉に、令嬢の心は大きく揺れたのだった。
こうして子爵令嬢は国王の愛妾となった。父親は王室と繋がれると大喜びしたが、今まで犯していた犯罪の証拠を王室の影によって掴まれ、それを隠蔽してやる代わりにと隠居を迫られた。
そして、跡を継いだ息子も、王室と一切の関わりを断つ旨の誓いを立てさせられたので、彼らはなんのメリットも得られなかった。
王宮の生活は彼女が想像していたものより、ずっと幸せなものだった。王妃の計らいで、国王のポケットマネーから母親へ仕送りをする事ができたし、生んだ娘と母親を会わせる事もできた。
それに、五人の王子や王女達をみんなで助け合いながらの子育ては、とても楽しいものだった。
王妃は『母上様』、側妃は『お母様』、そして愛妾である彼女は『ママ』と呼ばれ、子育ては三人で行い、乳母や侍女や執事、影の者達とも緻密な連絡を取り合い、情報は皆で共有した。
これによって、複雑な家庭環境にも拘わらず、三人の母親達も五人の子供達も皆仲が良かった。子供達は皆個性が強く、喧嘩が絶えなかったので、一見すると不仲のように見えてしまうのだが・・・
ただし父親である国王だけは、蚊帳の外で実情を把握していないため、激しいバトルを繰り広げる子供達を目の当たりにするたびに、勝手に自己嫌悪に陥っていた。
とは言え、この王宮の実態は一部の信頼のある者達だけの秘匿とされ、多くの者達はその実情を知らなかった。それ故に貴族達は、国王一家の暮らしを好き勝手に想像し、いい加減で悪意のある噂を垂れ流した。
愛妾はその若さと美貌、そして豊満な身体で国王陛下を誘惑し、陥落させた。
元平民でありながら国王の側にあがるとはなんという悍ましい情婦だろう。そんな者が離宮ではなく正殿にご一緒に住むとは、王妃様はなんてお気の毒なんだろうと。
そしてこれらの噂の一番の被害者がサララ王女だった。
母親は王宮で開かれるティーパーティーのような小ぢんまりとした集まりくらいにしか参加せず、公の場にはほとんど出なかったので、貴族達と接する機会はあまりなかった。
しかし、サララは王女として、他の兄弟同様に表舞台に出なくてはならなかったので、母親の分まで醜い貴族達の妬み嫉みなどの悪意に晒される事になったのだ。
もちろん王妃や側妃、兄弟達も末の妹を出来る限り守ろうとしたが、年がら年中側についててやるわけにはいかない。
こんな環境で育ったので、サララは世間一般で言う普通の王女様のような、おっとりと上品な淑女にはなれなかったのだ。
もちろん、美しい母親ではなくて唯一父親の方に似てしまった事で、コンプレックスの塊になってしまった一番上の姉。
病弱のせいで不自由な生活を強いられ、それ故に気まぐれで怠け者だという、間違った評価を受けている二番目の姉。
こんな風にサララだけでなく、駄目駄目シスターズの三姉妹は、皆がそれぞれ辛い思いをしていたのだが・・・
読んで下さってありがとうございます。
次章で終わりとなりますので、最後まで読んで頂けると嬉しいです。




