1 駄目駄目末っ子王女、婚約解消騒動に巻き込まれました!
【 愛する人の本命が現れるまで、私は婚約破棄をせずに、彼の防波堤になりましょう! 】
https://ncode.syosetu.com/n6279gu/
というお話の登場人物である、駄目駄目シスターズの末っ子の王女のお話です。
こちらはほのぼのというより、少しシリアスな話です。
読んで頂けると嬉しいです。
「お願いです。どうかアルフレッド=ネーピア様と付き合って下さい!」
サララ王女が学び舎の裏手のベンチで、のんびりと一人で食後のお茶をしていると、突然見知らぬ女性徒から声をかけられた。
「はい?」
「了承して頂けて嬉しいです」
ピンク頭の愛らしい顔をした女の子が嬉しそうに微笑んだ。しかし、サララは単に言われた意味がわからず聞き返しただけだ。
「ちょっと待って。了承もなにもあなたの言っている意味がわからないわ。大体あなたは誰?」
そもそもいきなり断りも無く王女に向かって喋りかけてくるその神経が信じられない。一応建前的には学園内は、王侯貴族だろうが庶民だろうが皆平等だ。しかし、普通、王族に対して名乗りも許されないうちに、一方的で喋りかけるのは無礼だろう。
この少女が常識知らずの馬鹿なのか、それとも王女を見下しているのかは知らないが。
「あっ、名前を名乗るのを忘れてました。すみません。私は一年F組のマリエ=ハギンズです。サララ様は私をご存知ないのですか?」
マリエは小首を曲げて意外そうな顔をしたが、何故A組の自分が、遠く離れたお馬鹿組の生徒などを知っていると思うのかが、サララはよくわからなかった。
「知るわけないでしょ。
それに、ネーピア様と付き合えって、どういう意味かしら?」
一応アルフレッド=ネーピアの名前と顔くらいは知っている。
面倒だが、さっさと用件を聞いて終わりにしたい。
「アルフレッド様は私の婚約者なんです。でも、私、この学園に入学して運命の相手を見つけてしまったんです。ですから婚約解消して頂きたいのですが、子爵家のうちからでは伯爵家との婚約解消を言い出せません。それに、私の浮気がばれてアルフレッド様から破棄されたら、私は父に叱られてしまいます。だから、解消の原因はアルフレッド様の浮気だという事にしたいのです」
「・・・・・・・」
「わかって頂けたでしょうか? サララ様、アルフレッド様と付き合って頂けますよね?」
マリエはニコニコと笑いながら両手を合わせてこちらを見ている。まるでかわいい自分の願いなら誰でもきき届けてくれるものだとでも思っているかのように。本当にこいつはポンコツらしい。男ならともかく、何故女の自分にそれが通用すると思うのだろうか?
世の為人の為、こういう女は始末してしまう方がいいだろうとサララは思った。
「一応聞いておくけれど、あなたの運命の相手って誰なの?」
サララはイライラを抑え、なるべく感情を無くしてこう尋ねた。すると、馬鹿娘はクネクネと体を動かしながらこう言った。
「ええーっ。教えてもいいですけれど、サララ様、絶対に手を出さないで下さいね。エンブリー侯爵家のサムエル様です」
ああ、あの悪評高いエンブリー侯爵家ね。お似合いだわね、とサララは思った。潰したいと思っていたからちょうどいいわと。しかし、その後に続いた言葉に、さすがのサララも切れかかった。
「王女様なら誰と付き合っても構わないですよね。それに、サララ様も婚約者がいる方を奪うのがお好きだから、ウィンウィンですよね。母娘揃って相手のいらっしゃる方がお好きだなんて、遺伝ですかね」
「 ! ! ! 」
サララは右手を振り上げようとしたが、それを斜め後ろから止められた。
「サララ王女に対して不敬ですよ。護衛の方々、すぐにこの女を捕獲して下さい」
サララが振り向くと、そこには一学年上のローリィー=オルディード、侯爵のご子息が立っていた。そしてローリィーの言葉を聞く以前から動いていたのだろう。二人の護衛がすぐ様マリエの両腕を左右両側から捕らえた。
「えっ? なに?」
状況を把握出来ずにキョロキョロ見渡しているマリエに、ローリィーがこう言った。
「アルフレッド=ネーピア君は僕の友人ですから、ハギンズ嬢は運命の相手が見つかったから婚約破棄を希望している旨を伝えておこう。そして、サムエル=エンブリー先輩とあなたが無事婚約出来るよう、ベンジャミン様(第二王子)にご配慮して頂けるようにお話しておきますよ」
「やめてください! 余計な事はしないで! お父様に叱られてしまう」
「君、自分がしでかした事の大きさがわからないのか? 我が国の姫君に無礼を働いたんだよ。しかも、自分が先に裏切っておきながら、サララ様を使って婚約者を美人局に遭わそうとするなんて、前代未聞の破廉恥で不敬だ。牢獄入りは免れないだろう」
「そんな! 王女様は男遊びが許されて、子爵家の娘はいけないなんておかしいわ」
マリエはさらに不敬の罪を積み重ねていく。サララについている影が、全部この事を王家の人間に伝えるだろう。
「馬鹿親に何を吹き込まれたのかは知らないが、男に見境なく声をかけているお前と違って、サララ王女殿下は男遊びなどした事はない! 愚か者め!」
マリエは泣きわめきながら、護衛二人に連れて行かれてしまった。
「ローリィー様はあの子を知っていたの? もしかしたら誘われた事あるの?」
サララが尋ねるとローリィーは頷いた。やっぱりね。ローリィーは名門侯爵家の末っ子でかなりのイケメンである。
「俺には全くわからないけど、あの子は一部の男子には凄く人気なんですよね。本気なのか遊びなのかは知らないですが」
「ふ~ん。私も全くわからないわ。でも男って、自分より愚かな女の方がいいんでしょうね。でも、馬鹿過ぎる相手と付き合うと、自分も身を滅ぼす事がわからないのかしら。アルフレッド様はどうなのかしら?」
「彼はエンブリー様とは違います。純粋に婚約者として彼女を好きで、人の忠告さえ耳に入れようとしませんでしたよ。だから、逆恨みされるのも嫌なので、俺はちゃんと証拠を提示して現実を見せてやります。それでも彼女を信じるのなら、それは彼の勝手だ。ただし、俺はもう友人やめますけどね」
「ヘェ~、意外とクールなのね、ローリィー様は」
「サララ様に仇なす者は、たとえ友人だろうがなんだろうが容赦しませんよ」
「よく言うわ。そもそも私が男好き、婚約者キラーだなんて不名誉な噂を立てられるようになったのは、誰のせいだったのかしら。あの時、自分一人逃げたくせに」
サララにきつい目を向けられたが、ローリィーは今までのように目を外らす事はしなかった。
「自分が卑怯者のクズだったという事はわかっています。謝罪して済む話でもないという事もわかっています。でも、もう逃げたりしません。俺はサララ様の護衛になると決めたのですから」
ローリィーが真剣だという事はサララにもわかったし、嬉しく思う気持ちもあった。しかし、同情される事ほど胸を抉るものはない。
「私の護衛ですって?! 冗談じゃないわ。姉の婚約者に手を出そうとして上手くいかなかったから、今度はその弟に手を出す淫乱王女って噂されるのは御免よ!」
サララは酷く不機嫌そうにそう言い放つと、教室の方へ歩き出した。
いつの間にか周りには人だかりができていたが、サララはそんな事にさえ気付きもせず、怒りながら真っ直ぐ前を向いて堂々と。
そんなサララの後ろ姿をローリィーはじっと切なそうに見送った。それは真実の思いであり、演技でもあった。思いを寄せているのは自分であり、サララ王女の方からアピールしている訳ではないのだ、という印象操作を周囲の人間にするために。
半年前のような失敗はもう二度としない。下らない男の矜持などもうどうでもいい。
「大切な人を守るためなら、人からどう思われても構わない。そしてどんな努力も惜しまない」
以前二番目の兄はこう言っていた。そうだ。自分も今は同じ気持ちだ。
出来るだけ早めに投稿しますので、続けて読んで頂けると嬉しいです。