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第7話 情報の価値

「ふう、おいしかったよ、ありがとう」


 さて、ライオがソフィーの用意した食事をむさぼるように食らいつくし、一息ついたところでライオは血の気が引くのを感じた。

 助手として雇ったはずなのにいつの間にか家政婦みたいな事をさせてしまっている、その後ろめたさがライオを苛んでしまっているのだ。


「お口に合って何よりです」


 ソフィーはそう言いながらも部屋の片づけを進めている。あまりの手際の良さで、もうすでに部屋の半分は片付いてしまっているようだ。

 すごい、と単純にライオは感じた。ライオならその量を片付けるのに丸一日はかかるだろう。


「ソフィーちゃん、そこまでやってくれて有り難いけど、残りは私がやるから」

「いえ、多分ライオさんは片付けの途中で気になる本があったらそのまま数日読みふけるんじゃないかと思います」

「いや、そんなことは……」


 ある、心当たりがあり過ぎる。ソフィーに看破され、ライオは恥ずかしくなった。そんなライオを見てソフィーは笑顔を向ける。それは呆れなどのマイナスの感情ではなく、どことなく駄目な弟の世話を焼く姉のような、そんな感情を多く含んでいるようにも見える。


「それに、これからは私の職場でもありますし、雇用主のライオさんに倒れられても困ります」


 ぐうの音も出ない正論に、ライオはソフィーを止める手段を失ってしまった。どことなく主導権をソフィーに握られているような気がしなくも無いが不思議と、ライオは悪い気はしなかった。


「ところで、ライオさんは何を悩んでいたのですか? 先程ブツブツとああでもないこうでもないっておっしゃってたようですが」

「あ、ああ。これから行う指標づくりのため、まずは情報を集めようと思ったのだが……その為の費用を予算として申告したら多すぎると言われてね。どう費用を圧縮しようかと思ったのだよ」

「……その予算の情報、私にも見せていただいていいでしょうか?」


 ソフィーはどことなく嫌な予感を覚え、掃除の手を止めライオの持っている紙を見せてもらう事とする。


「そうか、ソフィーちゃんなら何か思いつくかもしれないな。これなんだけど……」


 ソフィーはライオから見せられた紙に書かれた情報を確認し、そして……


「うわぁ……」


 どこか立ち眩みをするかのような感覚を感じた。そこに書かれていた費用案、そこにはこのように書かれていた。


*********************

冒険者に対するアンケート謝礼に係る予算


S~Bランクパーティー:1名200アル×500人

C~Dランクパーティー:1名100アル×500人

E~Fランクパーティー:1名50アル×500人


予算計:175,000アル

*********************


「……これは、確かに費用掛かり過ぎじゃないでしょうか……?」

「そうかい? 言っても国民の所得平均の2年分程度だろう? それに、冒険者としてそれぞれのランクの1時間あたりの収入と比較しても大きく乖離しないようにするとこんな数値になるんだが」


 正確に答えてもらうために、ちゃんと情報には謝礼を出す必要があるだろう。とライオの弁。確かに情報の正確性、そして大量の情報は必要なのだろう。だがソフィーは他にも気になる事があった。


「ところで、このアンケートを取る時にどう説明するんですか?」

「無論、能力を判定するためと説明をして正確に書いてもらうつもりだよ」


 ライオは自信満々にそう宣言するが、ソフィーはそれでは無理だろうと思った。何故ならば冒険者というのは「見栄」の仕事だという面もある。


 見栄があるからこそ、上のランクを目指す。その上のランクに行けばそれこそ命を落とすような魔物との戦闘クエストを請け負う事もあるが、それを嬉々として受けるのは冒険者の「見栄」だ。

 そんな相手に「お前の能力を見定める」と宣言して正確に答えてくれるだろうか、いや、絶対に多数の冒険者が能力や成果を盛って申告してくるだろう。

 どちらにしろ盛った話をアンケートに書かれるのなら、それこそ酒場で聞き回るほうがまだお金が浮くのではないかと思う。


「そうだ……それならば……ライオさん、紙とペン貸してください」

「あ、ああ。どうぞ」

「ありがとうございます。えっと、ここをこうして……これでどうでしょう?」


どれどれ、とライオがソフィーの書き記した内容を確認し、そして「えっ!?」と声を上げる。


*********************

冒険者に対するアンケート謝礼に係る予算


S~Bランクパーティー:1名10アル×500人

C~Dランクパーティー:1名10アル×1,000人

E~Fランクパーティー:1名10アル×2,500人


予算計:40,000アル

*********************


「謝礼10アル!? ちょっとまって、こんなので情報をもらえる訳が無いだろ!?」

「大丈夫です、アテはあります。ライオさんはこの予算でOKかだけ確認をしてください」


 ライオは困惑するが、それでも内心ワクワクしていた。以前テストをした時も自分が思いもしなかった方面からの考えを巡らせてくれたソフィーが一体、どのような解決策を考えたのか、それを知りたいと思う自分が居た。


 かくして、ソフィーの出した予算案はすんなりと通る事となった。



 数日後のソフィーの職場である酒場、そこはかつて無い程盛況であった。それもソフィーの出した予算案の影響をモロに受けているのだ。何故なら……


「ウェイターの姉ちゃん、これでいいかい?」

「えっと……はい! アンケート回答ありがとうございます! それではすぐにエールお持ちしますね!」

「はっはっは、自分の事を教えるだけでエール1杯タダなんて、太っ腹だなー」


 ソフィーの考えた方法、それは……アンケートに回答してくれた冒険者に対し、1杯10アルのエールを無料にするというキャンペーンを行った事である。


 確かに、冒険者としてはタダで飲める酒に食いつかない方が少ないのだろう。だがそれではいくら冒険者の比率が高いとはいえ、冒険者でない一般の客からしたら不公平感を感じるかもしれない。だがソフィーはその点も抜かりなかった。


「ほら、これでいいかい?」

「はい、ありがとうございます! B級冒険者パーティーのダッシュ様からリザーブいただきました!」

「おお、流石はB級! エールを寄付するとか、すげぇな!!」

「ぼ、僕達も無料エールは街の人に飲んでもらいたいです」

「ありがとうございます! C級冒険者パーティーのアポストロフ様からもリザーブいただきました!」

「おおお! C級だけど大物のオーラが出てるー!」


 冒険者は見栄を張る者、そのためか、アンケートのエールを他の客に提供するための「リザーブ制度」も作り、リザーブを行った冒険者に対してはそのリザーブ行為を讃えるような掛け声をかける。

 そもそも上級冒険者はエールよりも高級な酒を飲む事が多いため、直接エールを与えてもあまり喜ばれない事があるため、それならば自尊心をくすぐってやろうという魂胆だろうか。


 そのリザーブに対してありつけるのは冒険者ではない一般の客であるため、冒険者贔屓と思われるリスクも回避している。


「いやはや、これはすごいな……ソフィーちゃん、よくこんな事思いついたね?」

「あ、ライオさん、いらっしゃいませ。どうですか?」

「早速、君を雇って正解だったと思ったよ。それにしても……」


 これまで何もなかった酒場の壁には掲示板のようなものが用意され、そこにはそれぞれの冒険者パーティーが寄付したと思われるエールの数が書かれている。A級B級のパーティーが多いが、中にはC級D級、稀にE級F級パーティーの名前もある。これが見栄の力というものか。


「ライオさん、いつも御贔屓にしていただいてありがとうございます」

「ガロアさん、こんばんは。ちゃんと食べないとソフィーちゃんから怒られますからね……で、あの掲示板ですが、用意するのにお金かかったんじゃないですか?」


 あくまで予算は4000人分のエール代だけである。掲示板を用意する代金は予算に組み込んでなかったはずだが……


「いえ、冒険者の皆さまは無料で1杯飲めるのですが、結局お酒を頼む代金は変わらないのですよ。1杯余分に飲めるってだけで。そしてその1杯無料の代金はライオさんからいただくため、うちの店としてはただ儲かってるだけになるんです。ですから少しでも協力出来るなら、これくらいは我々のほうでさせてください」


 ガロアのその説明に、ライオは唸る。直接情報を聞き出す事しか考えなかった自分とは違い、ソフィーは情報を集めつつ店すらも盛り上げ、さらに冒険者の自尊心すらも擽ったというわけだ。


 自分ではこの手腕には敵わないだろう、と思う。そして、だからこそ燃えるものもあった。それならば、情報を集計して考える方では負けられないと。

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