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第6話 学者病

「うーん……さてどうしたものか……」


 ソフィーのスカウトを行ってから数日後、ライオはライオの家で机に齧りつきながら考えを巡らせる。既に国王には何を行うか、その為に助手を雇う事、そして対応のための予算を申請したのだが……その予算についてライオは壁にぶつかっているのだ。


『ふむ、冒険者の能力の数値化によって適切な再就職を促すのか、それに必要な人員の雇用と人件費も承認しよう、だがこの要求予算は……ここまでの予算は出せぬぞ、もう少し予算案を練り直せ』


 ソフィーの雇用条件については時給100アルで雇う事は既に伝達済みであるため、雇用開始日までの間にライオとしては予算の見直しから始めてしまいたいのだ。とはいえ、まずは冒険者のデータを集める事が先決、そのための予算を削ってしまえばマトモな指標を作れるとも思えない。


 さてどうしたものか……その方法が思いつかず、ライオは寝食を忘れ、ずっと自分の家の居間兼研究室に籠りきりであった。



「えっと、メモだとこの辺りって書いてあるけれど……」


 ライオが部屋に籠りきりのになって数日、この日はソフィーがライオを手伝う事となる初日であった。そんな現在のソフィーの気持ちとしては非常に高いやる気と、いくつかの不安が頭を過ぎる、そんな状況であった。


 まずは時給100アル、これが非常に破格なのである。普通に町中で働いているのならば時給は20から30アル程度が普通と言われる中、その3倍から5倍をもらえるほどの仕事が出来るのか、不安なのである。さらに酒場の仕事を優先するため、週3回お昼の1時から5時までの勤務と時間に融通が利くわけでもない、そんな自分でよいのかと言うのが不安なのである。


 一方で期待もしていた。王国の首席学者であるライオからのスカウトを受け、そして冒険者の生活をよりよくするための手段を一緒に考えて欲しいと言われたのだ。

 雇用契約にあたってライオが条件を教えてくれた後に、王国から直々に契約の為の使者がやってきたことでライオが王国所属である事を疑いの余地も無い程の証明となったことで、本当にライオが自分の能力を評価してくれていると感じていたのだ。


「……本当に、ここでいいのかな?」


 だからこそ、ライオの自宅と言われた場所に到着した時にソフィーはものすごく不安に駆られてしまう。何故ならば王国首席学者の住む家と言われてイメージする住居と言われてイメージ出来るような豪華な印象は全く受けないというか……そう言われなければここに住んでいる人がまさか王国の頭脳を司るような人物であるなんて想像すらつかないほどの普通の家なのだ。


 ソフィーは扉をコンコンと扉をノックし、そして


「ライオさん、ソフィーです。いらっしゃいますか?」


 と呼びかけるが、反応は無い。それがさらにソフィーの心細さを増幅する事となった。


「ライオさん? ……間違えたかな? でも案内された住所はここだし……ライオさん?」


 と何気にドアノブに手をかけると、鍵もかかっていないのかそのまま扉が開く。

 不用心だな、と思いながらもソフィーは中を覗き込みながら


「ライオさん、いらっしゃいますか? ソフィーです……うわぁ」


 ソフィーは中を覗き込みながら声をかけるが、すぐに中の様子に驚きの声を漏らす。


 扉から入ったその先には所狭しと本が無造作に積み上げられ、全くと言っていいほど掃除がされている気配が無く、そしてそんな本に埋もれるように置かれている机の前には、酒場で合った時と比べてどこかしらやつれ気味のライオが


「こうでもない……いや、こうすれば……ダメだ、それじゃデータが……」


 などとブツブツと呟きながらペンを持って紙とにらみ合ってるのだ。


 帰りたい――一瞬そう思ったソフィーであったが、紛いなりにも雇い主であるライオに黙って帰る訳にもいくまい、という事でソフィーは部屋に入り、ライオに声を掛ける事とした。


「あのー、ライオさん……?」

「ああそうか、これをこうしたら……いや、それじゃダメだよな……?」


 ソフィーが近寄って声をかけてもライオは紙とのにらめっこを止めようとしない。どうやら没頭すると周りが見えなくなるタイプのようだ。


 若くして国の頭脳のトップに躍り出る、それは本当に人並外れた何かを持っているライオであったからこそ成しえた事なのだろう、と言うのはこの周りが見えなくなるほどの集中力から察せられる部分もあるのだが……


「ライオさん!!」

「う、うわぁ!!」


 可能な限り大きな声でライオに呼びかけると、ライオは予想以上の驚きをもってソフィーに反応を返す。


「あ、あれ? ソフィーちゃん、何でここに?」

「何でもなにも、今日からこちらに来る話になってましたよ」

「え? あれ? さっき伝えたばかりだったはずなんだけど……もうそんなに時間が経ったのか?」


 掠れた声でライオはそう答える。そして……


「あああ、ゴメン!! ソフィーちゃんが来る前に片付けようとしてたのに出来てない!!」


 その慌てっぷりがどことなく酒場で見たクールな印象と違い、ソフィーはライオに対してどこかしら親しみを感じるのだった。

 何でも出来て、物知りで、それでいて若くして王国の頭脳と言われるまでの出世をしたクールな男性。それがソフィーの先程までのライオに対しての評価であった。

 それがふたを開けてみれば、研究一筋で生活能力が低いと言う弱点があると言うのだ。酒場のコック長、ガロアに今は面倒を見てもらっているから忘れていた、自分の父親を思い出す。

 父親はライオと似ても似つかない部分はあったものの、家事は苦手で、時々家に帰って来た時は家事をしてくれるのだけれど下手で、結局全て自分がやり直していたことを。


 それでもソフィーは父親を下に見る事は無かった。何故ならソフィーの父親は自分の為に一生懸命働いていた事を知っていたのだから。まずはとりあえず……


「ライオさんが私に雇用の話をしてから4日経ってますよ。その様子だと、あれから食事も睡眠も取ってないんじゃないですか? 今から簡単に食事用意しますから、それ食べて今日は休んでください」


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