第5話 ライオは冒険者の能力を数値化したい
ソフィーを雇いたい、ライオのその言葉にソフィーは満更でもない様子であったが、それでも保護者であるガロアは承諾をしかねる様子であった。
それもそうである、保護者にいくら危険がないと言われても言葉だけで納得がいくわけが無い。
「……ソフィーちゃんを守ってくださった方を悪く言う気は毛頭ありません、ですがどのような事をされるのか、そしてソフィーちゃんに何をやらせるのかを明確に教えていただけませんでしょうか?」
「そうですね、私の仕事が何をする仕事なのかをお話する必要があるでしょうか。私がやろうとしている事、それは……追放された冒険者の次の働き口が見つかりやすいような環境を作る事です」
その言葉を聞き、ガロアは内心うなった。確かにここ最近、自分の店で冒険者の追放話をよく目にする。そしてそんな冒険者たちが先程のように問題を起こす事も多くなってきたため、解決策が出来るなら是非とも解決してほしいところである。だが……
「最近も何かやってましたよね? 冒険者パーティーの最低雇用期間を延長したり、失業冒険者の雇用創出をしたり」
冒険者への職の斡旋と言う意味では既に国が色々と動いている事を知らないわけではない。そしてそれらがほとんど上手く行っていない事もガロアは知っている。
「私も国王から聞き及んでいるよ。上手く行っていないと。だからこそ私に声が掛かったのだよ。そして私の予想通りなら……ソフィーちゃん、君の力が必要になる」
「わ、私の力ですか?」
「ああ、どうしても役人の考えと言うのは表面上の問題すら解決出来ればいいとする風潮がある。私はそうはなるまいと思っているのだが、それでも凝り固まってしまっている部分はある。だが先程の君の答えは、目の前に出された材料以外もきちっと考慮し、その上で結論を出した。その答えを聞いた時に思ったんだ、是非君の柔軟な考えで私の仕事を手伝って欲しいと」
「……そんな事が出来るのですか?」
ガロアはなおも半信半疑といった様子であった。それもそのはず、いきなり自分の娘といっても差し支えないような相手をいきなり雇いたいと言う男が、これまで王国が上手く処理出来なかった問題を解決すると言っているのだ。
それに、自分の娘として面倒を見ている女の子にその片棒を担がせようと言うのだ。
(ソフィーちゃんなら手伝いたいと言うだろうし、その意思を尊重したいとも思う。だがそんな事が可能なのか?)
ガロアとしてもその内容を確認する必要があるだろう。そしてライオも理解している。保護者として自分の子供や保護対象が何かすごい事をするのを応援したいという気持ちと、危険な事をさせたくないという気持ちが入り混じっているのを。
ライオはガロアとソフィーに向け、自分の考えを話す。
「今の冒険者はランクをSからFまでのランクで格付されています。ですが、このランクはあくまで『パーティー』に対しての格付です。そしてこのパーティーに対しての格付はパーティーリーダーの持つ格付とされています」
パーティー格付、これはそれぞれのパーティーの強さの目安となっている。そしてそのパーティー格付が高いほど信頼度の高い冒険者として扱われるのだ。
「だが、あくまで冒険者は所属パーティーの格でしか評価されてません。個人の能力を評価する指標が無いのです。そのため上級格パーティーで獅子奮迅の活躍をした人間も、下級格パーティーで足手まといであった人間も結局、追放されれば同じ評価をされてしまうのです」
「そうですかね? 元所属パーティーのランクが高ければそれまでの所属パーティーの実績で新しいパーティーに雇われる人もいるようですが」
「そうですね、上級パーティーの足を引っ張ってた人と下級パーティーのエースだと、元上級パーティー所属者の方が高い評価をされますよね。これが今問題になっていると思ってます。本人の能力がどうであれ、所属履歴だけで判断される。だからこそ、ですよ。最近の元冒険者が他のパーティーに拾われ、そのまますぐに追放される冒険者多くありませんか?」
「そう言われれば……一度追放された冒険者が何度も追放されてるような……」
「それは結局、きちっと評価がされずに雇われているのが原因でしょう。個々人の能力がきちっと評価されていなかった、だからこそ必要だと思うのです。パーティーだけではない、個人の評価指標が。そうすれば追放された冒険者のふさわしいランクと言うものが自ずと見えてくるのではないかと思うのです。ソフィーちゃんにはその指標作りを手伝って欲しいのです」
「そんな事が、可能なんでしょうか?」
ライオが提言する数値による個人の評価付け、そんな事なら誰かが思いついたこともあるだろうし、これが簡単に出来るならもう誰かがしてたはずだ。それなのに今さらライオがわざわざ宣言したということはつまり、簡単に見えながらも難しい事なのだろう。
ライオなら出来るのだろうか、達成できるのか、それがソフィーが気にしているところだ。だからライオも正直に答える。
「分からない、すぐに終わるかもしれないし一生終わらないかもしれない。でも私たちがやらなくても誰かがやろうとするだろう……その場合、もし私たちが失敗したとしてもその成果を参考にすることになるだろう。決して無駄にはならない」
絶対にうまくいく、とはライオからは告げられない。保証は出来ないのだが、目の前のソフィーに対して嘘をついたり確約できない事を出来ると言い切るような不誠実ともとれる対応は、今のライオは取る事が出来なかった。
「……それが、将来的にも冒険者のためになるお仕事ではあるのですね? ……ガロアさん、お願いします」
「……ライオさんの所でお仕事をしたい、って事だよね? ソフィーちゃんがやりたいようにしなさい」
かくして、ライオとソフィーの2人による計画、冒険者能力の数値化が始まることになる。この場で結成された「2人の学者による数値化の開始」は、この後に数値化が巻き起こす出来事からすると小さな出来事ではあるものの、この時点で冒険者のあり方が大きく変わっていく事になったのであった。