第4話 不確定項目の考察
ライオはソフィーの出した答えに目を見開く。計算が出来るのであれば戦士よりもシーフの方がスライムを倒す数が多い事は分かるだろう。だがそれでもソフィーはシーフよりも戦士の方が良いと考えたのだ。
「えっと、その……何か間違ってたでしょうか……?」
「いや……ちょっとびっくりして」
「え……え?」
自分なら迷わず「シーフ」と答えるところだったが、ソフィーは何かを考えそして迷わずに戦士と言ったのだ。そして、その自分の考えと違った答えを持ったソフィーの事をもっと知りたいと思ったのだった。一体彼女は何を根拠として戦士を選んだのだろうか。
「教えてもらえるかな? どうして戦士のほうが良いと思ったのかを」
「は。はい! えっと、まずは戦士とシーフがそれぞれ1時間スライム退治を続けたと考えると、実際はシーフの方が15匹くらい多くのスライムを退治出来るとは思ったんです」
ライオはそう答えるソフィーに驚きを隠せなかった。ソフィーは厳密に計算した訳では無いのかもしれないが、もしそうであったとしても感覚的に理解はしていたのだ、シーフの方が戦果が大きいだろう事は。
そして興味を持ったのだ。戦果の予測が立った上で、あえて戦果が劣るであろう戦士を迷いなく選んだソフィーの考えに対して。
最初の20秒でスライムを倒す確率は戦士は80%、シーフは81%とたった1%の違いではある。だがこれが「最初の40秒」となった場合、戦士は4%の確率でスライムを1匹も倒せないのに対し、シーフはスライムを1匹も倒せない可能性は0.1%と差が出来るのだ。
この差が時間を経る事に大きくなり、最終的にははっきりと15匹以上の差が出るだろうと言う予測として、目に見える結果として出るのだ。
「ふむ、シーフの方が退治出来る数が多いと分かった上で戦士を選んだ、その理由を聞いてもいいかい?」
これだけの差が出てくることを分かった上で何故シーフではなく戦士を選んだのか、その理由がライオには思いつかなかったのだ。果たしてなぜソフィーはシーフを選ばなかったのか……。
「まずスライム1匹退治につき5アルくらいの報酬という事を過去に聞いたことがあります。なのでスライム退治の報酬としてシーフのほうが80アル程度は多くもらえる事になります。そして、武器についてはこん棒のような打撃系武器よりも刃物の方が頻繁にメンテナンスをしないとすぐに使い物にならなくなります」
この時点でライオは納得した。だが……
「それでもシーフの方が稼ぎが良いのなら、シーフを雇うべきじゃないの?」
ソフィーの横でやり取りを見ていたコックがソフィーの回答に納得がいっていないようで、ソフィーは説明を続ける。
「果物ナイフで、さらに戦士よりも倍の攻撃回数を繰り出すシーフの武器は倍の速度、手入れが重要なナイフですからもしかしたらそれ以上の劣化をするのではないかと思います。それこそ……1時間ほとんど休憩無しで退治し続ければ最低でも1本はダメにするレベルで」
「確かに、包丁はちゃんと手入れして研がないとダメだけど、料理用の叩き棒は表面を拭いて清潔に保管するだけで長い間使えるね、そういう事か……」
なるほど、とコックが頷く横ではライオは内心舌を巻いていた。というか、ドヤ顔で試すような事をしておきながら、自分の頭に無かった要素で納得させられてしまった事が内心恥ずかしくなった。
「はい。武器の破損率や使い方にも左右されるので実際に試すとどうなるかは分かりませんが、1時間の間に確実に武器を1本もしくは2本ダメにするだろうシーフと、1本ダメにするかどうかといった戦士。こう考えた時に、単純に使う武器の値段差が120アル、つまりスライム24匹分程度は戦士の方が武器代が浮くので、差し引きでスライム8匹分、戦士の方が良いのではないかと思いました」
「いや……参ったな……」
ライオはそもそも、単純にスライムの退治数だけで議論するつもりであった。実際、シーフよりも戦士を選んだ理由も「シーフが信用ならない」とかそういう理由かと思っていたのだが……
ソフィーは武器の破損といった、ライオは想定していなかった数値的な要素を考慮に入れた上で完全にライオを納得させてしまったのだ。
ここに防具やスライムの攻撃、回避率などを考慮に入れたり、条件を単純に「スライム100匹退治」まで考慮に入れさせると、ソフィーはまた違った答えを出すのだろう。
この子が欲しい。ライオは素直にそう思った。
「えっと、何か間違ってたでしょうか……?」
ライオが考えにふけっているのを、自分の答えが間違ってたのかと思ったソフィーがおずおずと聞く。そういえば、ソフィーの回答にちゃんと返事をしてなかった事をライオは思い出した。
「いや、お見事。といってもこの質問には明確に答えは無いよ。試すような事をして悪かったね、私の名前はライオだ、よろしく、ソフィーちゃん」
「よ、よろしくお願いします」
そう答えるとペコリと頭を下げるソフィー。その礼儀正しさにライオも好感を抱いた。
「ライオさんですか、ここ最近は当店を御贔屓にしていただいているようでありがとうございます。コック長兼店主のガロアです。訳あってソフィーちゃんの保護者的な事もしています」
ソフィーの横に居たコック長ことガロアが手を差し出してきたので、ライオもそれを握り返しつつ
「よろしくお願いします。ところで物は相談ですが……このお店の営業の邪魔にならない範囲でかまわないから、ソフィーちゃんを私の助手として雇いたいと思ってる。どうですか?」
と保護者であるガロアに打診をする。するとガロアは若干声のトーンを落としつつ
「雇う……ですか? 一体何のお仕事でしょうか?」
と返答。いくら常連客とは言え、保護者として面倒を見ている女の子をホイホイと渡すわけにも行かないのだろう。ライオは納得し、そして続ける。
「これは失礼。私の仕事は王立政策研究所の学者でね、ちょっと国王からの勅命を果たすためにソフィーちゃんに手伝って欲しいのです。何、危険な事はさせないし、賃金もちゃんと出しますよ」