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第3話 試験

 ライオは元冒険者が多数の冒険者に押さえつけられ、混乱がおさまりつつある酒場の中で自分の席に着席する。先程の席に座り、食事の続きを再開すると……


「お、お待たせしました」


――コトッ


 先程助けた女の子が料理をライオのテーブルに運んできたが、ライオは首を傾げる。ライオが注文した品物は全て揃っているし追加注文をした覚えもない。


「ソフィーちゃんを助けてくれたお礼だよ、心配しなくていいよ、うちの奢りだから」


 女の子の後ろから大きな男が顔を出す。恰好を見るにコックだろうか。


「済まないね、今日はいつもよりやたら客が多くてウェイターが足りなくてね、普段なら厨房で働いているはずのソフィーちゃんもウェイターとして駆り出さなきゃいけなくなってしまって。まさか絡まれるとは思わなくてね。ソフィーちゃんを守ってくれて助かったよ」


「そうですか、それならありがたくいただきます」


 正直ライオは満腹であったが、好意を無下にするのも気が引けるためそのままいただく事とした。まず一口……うん、驚いた。もう殆ど食べられないと思っていたのだが……


「……美味い、これならいくらでも食べられる……」


 思わず声に出してしまったライオをソフィーとコックはニコニコと見ている。


「その料理、ソフィーちゃんが作った料理なんですよ。口に合ったようでよかったです」


 ソフィーはおいしいと言われた事が嬉しいのか、どこか照れくさそうに微笑んでいる。というか、ライオが手を止めずに美味しそうにパクパクと食べる様子をコックと並んで2人でニコニコと見ている。


 ……恥ずかしいからじっと見ないで欲しい。


 そう言いたいのだが、ライオはそういう訳にもいかないのだ。手が、口が、食べる事を休まないよう頭が身体に命令を与えてくるのだ。その結果として……


「うっぷ……美味すぎて食べ過ぎた……」


 気が付いたら満腹を超えて腹がはち切れんとする様子のライオを見てソフィーとコックが最高にニコニコとしている。何となく恥ずかしくなってライオはちょっと目線を逸らし、頬を指でかく。


「あの、ところでお伺いしたいことがあるんですが……」


 ソフィーが急にライオにおずおずと質問を投げてくる。


「何だい?」


 満腹でしばらく動けそうにないため、ちょっと雑談程度ならいいだろう。そう思ってライオはソフィーの質問に戯れ程度に答えることとした。


「冒険者の皆さん、30年の鉱山作業の話でまるでこの世の絶望のような顔してましたが、何でですかね?」

「何で、ってそりゃ……」

「恐らく、冒険者で20年働くよりも生存率は高いし、無給とは言え、恐らく賠償金を超えた賃金は労働終了後に一括でもらえますよね?」


 ライオは驚く。ソフィーちゃんと言ったか、この娘もしかして……


「ソフィーちゃん、だっけ。もしかして計算したのかい? それとも冒険者の平均死亡率を知っていた?」

「いえ、感覚的なものですけれど鉱山30年よりも冒険者20年の方が若干厳しそうじゃないかな、と」


 ちなみに冒険者の死亡率は平均で年5%と言われているが、これは最大限危険な仕事と安全な仕事を合算した数値となる。安全な仕事を選んでいけば長く生き永らえるが、それこそ半分が殉職してしまうような仕事もある。


 だから冒険者との比較をする場合、この平均をどこかで知っていなければ判断は「自分の見たイメージ」を元に考える事になるのだ。


 こういう酒場といった冒険者の多く訪れるであろう場所で働いている子ならどちらかというと、比較的安全な仕事を中心に受けている冒険者を想像するのではないかと思うのだが……。


「ほら、ソフィーちゃん。お客様が困惑してるよ」

「いや、構わないですよ。実際ソフィーちゃんの言った事は正しいですから」


 そうするとこの子には数的センスがあるのだろうか? とライオは考えたものの、たまたまかもしれない。ライオはじっとソフィーを見つめる。肩のあたりまでの長さで切りそろえられた栗色の髪、前髪はパッツンと切られ幼さを強調するものの、青く澄み渡ったたれ目の瞳はその栗色の髪を際立たせている。


(試してみるか……)


 もしかしたら本当に数字的センスがある子かもしれない、もしセンスがあるならば、自分がこれから野郎としている仕事の手伝いをお願いしたいところだ。


「ソフィーちゃん、ちょっと問題を出すけど、答えてもらってもいいかい?」

「は、はい」


 ライオはその場で適当に問題を出す事とした。


「今からスライム退治にパーティーを組むため、2人の冒険者のうちのどちらかを雇う事になった。1人は攻撃が10発中8発命中し、20秒に1発攻撃をする事が出来る戦士。ただし攻撃が当たればスライムは1発で倒せる。もう1人は攻撃が10発中9発命中し、さらに10秒に1発攻撃が出来るシーフだがスライムを倒すには2発の攻撃が必要となる」

「えーっと……はい」


 ソフィーはライオの出す問題を何とか記憶したようだ。それを確認してライオはさらに続ける。


「1時間のスライム退治をする場合、どちらを雇うべきだろうか?」


 意地悪な質問なのかそれとも簡単なのか。結局のところ戦士もシーフもスライムを1匹倒すのに20秒は最低かかる計算なのだ。そうなると計算上、戦士が攻撃を1発当てる確率よりもシーフが2発攻撃を当てる確率の方が高いか低いかの話となる。


 ちなみに計算すると、戦士は1時間で144匹、シーフは1時間で161匹程度のスライムを倒す事が出来るだろうという予測が立てられるため、スライム討伐数という観点からいうとわずかながら「シーフを選ぶのが正解」であるのだが……。


この段階でライオが答えて欲しいのは「どちらがより多くスライムを倒せるか」ではなく「どちらを雇うべきか」を答えて欲しいのだ。


「えー、えーっと……」

「気になる点があれば質問を受け付けるよ?」

「えっとそれじゃ……戦士さんとシーフさんの使う武器を教えてください」


 ほう、とライオは感心した。武器までは考えてはいなかったのだ。


「それじゃあ、戦士はこん棒、シーフは果物ナイフを使うものとしよう」


 こん棒と果物ナイフ、これはどちらも武器屋で買う事の出来る武器の中で一番安く買える武器である。ちなみにこの世界の通貨は「アル」といい、こん棒は180アル、果物ナイフは150アルで手に入れる事の出来る武器である。


 そのライオの答えを聞き、ソフィーは少し考えるしぐさをした後におずおずと答えた。


「私は戦士を雇う方が良いと思います」


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