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第1話 観察

「君のようにチームの和を乱す男はジャマだ、去れ!」


「な、何だと!!」


 酒場の一角では今日もまたパーティーメンバーの追い出しが続いている。面白い所はその追放内容も人それぞれだと言うところだ。


 当たり前だ、追放される人間が全て同じ理由で追放されるわけではない。


 女癖が悪い、戦力として数えられない、パーティーの目指す目標に対して力になれない者等、人には色んな人がいるため、その理由もいろんな理由があってしかるべきなのだ。


「お、お待たせいたしました」

「ありがとう。……あれ、君、初めて見る顔だね、新人さんかい?」

「い、いえ! 普段は厨房で働いているんですが、今日はお手伝いで!」

「そうか、頑張ってね」


 酒場でウェイターをするには若すぎるような気がする女の子から注文の品を受け取り、ライオは食事をしながらそんな光景を観察する。国王から勅命を受けてからというもの数週、ライオは街の酒場に毎日のように顔を出し、周囲の様子を観察しながら食事をするのが日課となっていた。ライオは別にクビになった人間の荒れ狂う様子を見ながら食べる食事が美味しいと思っている訳ではない。


 ライオは様子を観察し解決策を考えているのだ。だがどうしてもうまく考えが浮かばないのだ。


 収穫が無かったわけでもない。収穫としては追放された冒険者のその後の動きがある程度決まったパターンである事が分かっただけでも収穫である。


 追放された冒険者の取る行動、それは「気持ちを切り替えて次を求める」「元雇い主に噛み付く」そして「酒、賭博、女に溺れる」の3通りあるようだ。


 まず次を求める冒険者、こちらの冒険者に対しては特に問題は無いだろう。数日後に他の仲間と一緒に酒を飲んでいたり、前向きに就職活動をしているようだ。冒険者等の職に拘らなければいずれ仕事にありつけるだろう。職に拘らなければ働き口はいくらでもある。


 元雇い主に噛み付く人間はその後、気持ちを切り替えて次を求めるか、酒等におぼれるかの2択になる可能性が高いようだ。だがライオの見立てでは、気持ちを切り替える人間と酒等におぼれる人間の比率は大体3:7程度のようだ。


 時折、元雇い主に噛み付くような姿を見て反骨精神のある冒険者と判断されてその場で次の所属パーティーが決まる冒険者も居ない事は無いが、どちらかと言うと噛み付いた時に説明される解雇理由に納得出来ているかどうかがその後の就業意識に大きく連動しているようにも見える。


 説明に納得がいっているのなら、その自分の弱みを克服しようと努力したり、あえて自分の弱みをカバーするレベルに強みを鍛えてから就職活動をしているなのだが、その指摘された自分の弱点を受け入れられていない人間は大体、酒等に溺れる生活に転げ落ちる事となっている事が多い。


 そして、酒や賭博、そして女に溺れる冒険者。これが非常に厄介なのだ。そもそも、追放された人間のうち、立ち直るのが1割、元雇い主に噛み付くのが7割、残りの2割は自堕落生活に真っ逆さまなのだ。さらに元雇い主に噛み付いてから立ち直る人間はおおよそ3分の1。つまり追放された人間のうち7割が自堕落な生活に陥り生活が破綻してしまうのだ。


 分からなくはない。冒険者と言う職業は常に危険と隣り合わせだ。場合によっては命を落とす事もある。そのようなリスクを負うからこそ雇われる場合の給与の相場は高い。そして冒険中は殆どお金を使う事は無い、そのため余暇には大量消費をするクセがついているのだ。


 男冒険者は大体、訪れる街や村で酒を大量に煽り、娯楽のために賭博をし、そして女を引っかけ夜の街に消える。女冒険者は女を引っかける事はあまりないにしても、有望な冒険者とさっさと結婚し冒険者時代に稼いだお金でそこそこ裕福な生活を子供に送らせる家庭が多い。


 追放される女性冒険者と言うのは普通にその街や村で生活を始める可能性が高いので、そちらは今現在の問題には直結しない。問題は追放された男性冒険者である。


 王国は酒はともかくとして、賭博や女を買うような行為を認めてはいない。だからこそ、その賭博と女を買う行為については徴税対象とはしていない。


 冒険者は数多の村や町を訪問し、そこで賭博や女を買う事でまとまった金を落とす。金払いもいいため、冒険者が行く先々で落とす金が地域間の利益再分配の効果もあったのだ。それが王国が徴税対象とせず、冒険者の行動をそれほど制限しなかった理由となっていた。ある意味で冒険者が国のお金の循環を担っていたのだ。


 ただ冒険者としての消費活動はそのままで無職となった冒険者が心機一転街で用意された仕事で働こうとするには賃金が低すぎるのである。一度冒険者として生活した者は冒険者以外の生き方を出来なくなる。その結果として、職に就けず、働いても長続きもせずにお金をため込んでいても数日で使い果たしてしまい、そのままスラム街で物乞いのような生活に転落する元冒険者が多い事も事実である。


 正直、税収減を何とかするだけであるならばいくつかの方法で解決は可能だろう。例えば酒税の引き上げ、公営賭博場の開設、王国公認の売り娘認定制度だ。


 これまで税金を取らなかった場所から徴収するように仕組みを変えてしまえば一次的には解決する方向で話が進むだろう。だが結局は追放された冒険者が転落人生を歩むのを止めることなどは出来ない。抜本的な解決方法が必要なのだ。


 そしてライオはある程度の策は考え付いてはいる。まだ頭の中にあるだけのちょっとした考えではあるものの、もしこの考えが上手く機能すればある程度の効果は期待出来るだろう。


 そうと決まればライオの行動は決まった。まずは国王に解決策の方向性についての報告書を書き上げるとしよう。


 ライオは一旦そう考えたのだがどうもこのまま帰って作業に取り掛かるわけにはいかないようだ。何故なら


「おう嬢ちゃん!! 俺様の相手しろよ!!」

「や、やめてください!!」


 さきほどの女の子のウェイターが、追放された元男冒険者に絡まれていたのだ。よく見れば性を売る事を生業としている女性らしき人物はここ数週間の間も酒場に多く見かける。


 目ざとい女性は追放された男がヤケになって大金を使う事を認識しており、酒場を絶好の狩場として認識したようだ。それに続けと追随組も顔を出すようになったのだろう。人の仕事にとやかく言うつもりはないのだがそんなお相手をしてくれそうな女性が多数居るこの状況でわざわざウェイターの女の子を捕まえて無理強いしている光景を見せられて、ライオは少なくとも、愉快ではいられなかった。


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