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第12話 消えたエール(回答編)

「ソフィーちゃーん!! 教えてー!!」


 酒場営業も終わりクローズ作業を行っている最中、ライオから出された問題が解けなかったマリナがソフィーを捕まえて泣きつく様子に、厨房の片付けを薦めていたソフィーは目を丸くする。


「マリナさん、ど、どうしたんですか?」

「ライオさんが、ライオさんがー」


 マリナは事の次第をソフィーに伝える。内容を聞くに従ってソフィーの顔がだんだんと呆れた表情になっていく。なお呆れたのはマリナが仕組みに気が付いていないからではない、素人のマリナに対し意地悪な問題を出したライオに呆れたのである。


「でね、なんで10アルが消えたのかが分からないのよ! どこに消えたの? このままだとエミーちゃんが悪者になっちゃう!」

「私がどうしたんですか?」


 マリナが自分の名前を呼んだ事にエミーが反応し、マリナとソフィーの所にやって来る。マリナはやってきたエミーに対しても問題の解説を始める。


 そんな2人を見ながらソフィーはマリナから聞かされた問題についてどう答えようかと考える。仕掛けについては気が付いたものの、どう教えたものか。


「どうしよう、このままだと私はエミーちゃんをお金を誤魔化したって事で罰しないといけない!! でもちゃんと仕事をやってる子を怒るなんて……そんな事は出来ない!!」

「ちょ、なんで私が悪い事した前提になってるんですか! いやそれでも、確かに10アル消えてますね……無料エールの寄付制度はもしかして、お金が消えるトリックが仕込まれている……?」

「そんな事無いですよ、お金の動きも最終的な金額も合ってます」


 ソフィーが何ともなくそう答えたため、マリナとエリーは頭に疑問符が浮かんでしまっている。もうそろそろ夜も遅いため、ソフィーはさっさと仕事を終わらせるためにもかいつまんで開設をする事とした。


「まず、やり取りを簡略化して考えましょう。その問題の中でエミーさんがお客様からお預かりしたのが900アル、そしてその場で850アルをお預かりし、50アルをお釣りとして返します。ここまではいいですね?」

「ええ、そうよね、私もそこまでは分かってるはずなのよ」


 そう、お客様が850アルの支払いになるのは分かるのだ。その先に10アル消えた理由がどうしてもわからないからこそ、仕事が終わってもモヤモヤが消えないのだ。


「つまり、この時点でお店としてはお客様に850アルと20アルのエール代をいただけていればいいのですよ。それに対してお客様は870アルをお支払いされた状態ですよね。つまり、勘定は合ってます」


 ソフィーがそう解説すると、マリナとエミーが理解をしたのか首を縦に振る。だが理解をするにつれ狐につままれたような表情になっていく。


「……確かにそう考えると、何も間違ってないのよね。でもさっきまで10アルが消えたと思っていたのは……」

「私も不思議です、何で同じことをしてるのにさっきの問題では10アル消えたと思ってしまったのか……」


 それでいても引き続いて首を傾げるマリナとエミー。計算としては単純であるはずなのに何故こんな混乱をしてしまっていたのかもわからないのだ。


「そう、それがこの問題のトリックですよ。最初に出て来た900アル、3人の割り勘、50アルの返還に対して20アルを追加で支払ったような言い回し、消えた1杯の2-ルという言い回し、そして実際に支払われるべき850アルとエール2杯を含めた870アルと言う数値が出て来ない事、これが勘違いを起こしてるんだと思いますよ。お客様が支払わないといけないのが900アルだと勘違いを誘発させ、返金から20アルを再支払いしているように見せて混乱させてしまってるんですよ」


 ソフィーの解説を聞き、マリナとエミーは納得をしてくるものの、理解が深まれば深まるほどマリナが不機嫌となってきた。エミーも困惑しているようである。


「ライオさんも意地が悪いわねー、こんな引っかけをするなんて」

「私、落ち着いて考えてもこんなの分からないと思います」


 ライオとしては「偏見による見え方の違い」を実感してもらうための問題だったはずなのだが、まんまとハマったのがマリナには面白くないようだ。


「私もそうだったんですが、一度思い込むと実際の情報に気が付かない事も多いんですよね」

「そういえば偏見の効果がどうとかそういう話だったわね。ライオさんも言ってたけど、ソフィーちゃんの発言から考えるとライオさんの発言は正しかったのね……なーんだ、ソフィーちゃんの恋が実ったのかと思ったのに」

「え、ええぇぇ!?」


 ソフィーは驚いたものの、何故ライオがマリナに対してこんな問題を出したのかを理解した。なるほど、マリナが勘違いした事を否定するために偏見を誘発しそうな質問を出し誤解を解こうと思ったのだろうか。


「……別に誤解解く必要もないのに……」

「ソフィーちゃん、何か言った?」

「いえ何も……でも流石にこんな意地悪な質問を出してきたライオさんにはちょっとオシオキしなきゃいけないかもしれませんね……」


 フフフッ……といつものように笑顔なはずのソフィーだったが、その笑顔はどことなくイタズラっ子を彷彿とさせる表情であった。

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