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第11話 消えたエール

「さあ、持ってきたよ。問題出来た? 今ならソフィーちゃんにプロポーズしたって正直に言ってくれれば許してあげるよ?」


 完全にマリナの中ではライオに片思いしていたソフィーに対してライオがプロポーズをし他という事が決定してしまっているようだった。ライオはため息を吐きながら店を見回し


「違うってのに……それじゃ、マリナちゃんに問題を出そうか。どうせだからこのお店のお金のやり取りを元にした偏見を使った不思議を問題にしようか」


 ライオは客の間をちょこちょこと動き回るウェイターの女の子を見つけ、マリナに質問をする。


「あの子、えーっと、エミーちゃんだっけ?」

「そうだよ、私の可愛い後輩。なに? ソフィーちゃんにプロポーズしたのにエミーちゃんにも手を出すつもり?」


 そんなんじゃないっての、とライオは内心思うが、下手に否定したところでマリナは信じないだろうと思いマリナの発言を無視する形でライオは話を続ける。


「それじゃあ、今回の問題はエミーちゃんが主役の問題にしよう」



 とある日、5人の客が酒場にやってきた。この5人は街で働く3人の先輩と2人の新人であり、今日はその2人の新人を歓迎する食事会であった。


「我らのお店も期待の新人を2人も迎えられた! これから大変かもしれないが、是非とも頑張って欲しい!」


 5人のうち、一番の年配そうな男がそう挨拶すると一番若い感じの2人が恐縮したような態度を取る。その2人の先輩らしき2人が恐縮する2人がこれ以上の緊張をしないよう、砕けた感じで声を掛ける。


「はっはっは、そんな固くなるなよ。今日は2人の歓迎会だからさ、好きに飲み食いしていいんだぞ?」

「うんうん、こう言うところでまで堅苦しくする必要はないぞ、おーい、ウェイターさん、注文いいかい?」

「は、はーい、ただいま伺います」


 先輩のうちの1人から呼び止められ、エミーがすぐにオーダーを取りに行く。


「おう、エミーちゃん! 冒険者さんから寄付されてるエール1杯無料、人数分用意してもらっていいかい?」

「あ、はい、大丈夫ですよ!」


 5人のリーダーから無料エール5杯とそれから適当に注文を受ける。


「へぇ、無料エールなんてあるんですか……」

「ああ、ここにくる冒険者は街の人のためにエールを1杯ずつ寄付してくれるんだってよ、ほら、あの掲示板だよ」

「へー……あ、あそこに書いてる冒険者さんって、うちのお得意様ですか?」

「おう、うちのお店のお得意さんがこうやって街の人のためにエールを寄付してくれる、こうやって冒険者が街の人を大事にしてくれてるのを表してるんだ」

「おぉ~、つまり僕達はこの冒険者の好意に報いるように一生懸命働かないといけないんですね?」

「おう! やる気に溢れた新人じゃねぇか、いいぞー」


 やる気を出した新人2人に気を良くした3人の先輩は良い後輩を得た事が嬉しくなり、もはや豪遊と言えるレベルの飲み食いを続け、会計の時間を迎える。


「おーい、エミーちゃん、会計お願いしてもいいかーい?」

「はーい、えっと……全部で900アルですね」

「そうかそうか、じゃあ俺が500アルずつ出すから、2人は200アルずつ出せ」

「あい!」

「え、そ、そんなに奢られるのは流石に……」

「そ、そうですよ、俺達も少しくらい」

「いやー、今日は2人の歓迎会だぞー、今日は大人しく奢られてなー」


 リーダーが500アル、先輩がそれぞれ200アルずつの支払いをし、それを受け取ったエミーはお金をそのまま店の裏の方に持ち込み、お金を管理していたマリナに渡す。だがその時、お金を確認したマリナが慌ててエミーに指示を出す。


「ちょっとエミーちゃん、無料エールの5杯分の値段が入っちゃってるわよ! 50アル多いから返してきなさい」


 エミーはそう指摘され「あ、そうだった」と思い帰ろうとしていた5名のところに50アルを持って駆け寄る。


「お、お客様、お待ちください! 大変すみません! 50アル余計にお預かりしてしまいました! 返金させていただきます」


「ふぇぇ~? ああ、そっか、でも3人だからねぇ……」

「でも先輩が一番お金出してくれたんだから、全部もらってもいいんじゃないですかね?」

「いやいやいや……じゃあ、こうしよう」


 その中で1番の年配の男は10アルを受け取り、そしてこう言った。


「じゃあお金を出したのは3人だから、1人10アルずつ受け取ろう。残りの20アルは……冒険者の人がやってるエール寄付2杯分としてくれ」

「まあ、そんなところが落としどころかなー?」


 そう言いながらお金を出した先輩3人は10アルずつ受け取り、エミーちゃんは20アルをエール2杯分の寄付として預かる事となった。



「ん~? ライオさん、何を言ってるのかな? エミーちゃんが会計で900アル預かって、50アルを返却しようとして、30アルだけ受け取ってもらったんでしょ? まさか、この900アルが間違ってたとか言わないよね?」

「まあ、そこは間違いないよ、でもそうするとエミーちゃんが悲しい事になるよ」



「エミーちゃん、ちゃんと返金出来た?」

「あ、はい、でも……30アルだけ受け取って、20アルは寄付に回してくれって……」

「そう、じゃあエール2杯を追加しておきましょうか」


 エミーから報告を受けたマリナは寄付エールの帳簿に2杯と追記するが、エミーはふととある考えが頭に浮かび、そして顔を青ざめることとなった。


(ちょ、ちょっとまって……私はそれぞれ500アル、200アル、200アルの総額900アルをとして受け取ったわよね、そこから3人に10アルずつ返金したから490アルと190アル、190アルとなって、合計870アル、20アルはエール代として受け取ったから……全部で890アルになってるわ……)



「え?」


 マリナはここまでの話を聞き、混乱し始めたようだ。首を傾げている。


「あれ? ちゃんと900アル預かり、ちゃんと返金したのに10アル減ってる……?」

「さて、ちょうど1杯エールが消えた計算になるね、どうしてだろうか?」


 ライオはそう告げると混乱するマリナの食事を始める。マリナはうーんうーんと悩むが、どうも答えが出て来ないようだ。


「降参、ライオさん、なんでそうなるのか教えて」

「えー、簡単な事だよ? 何なら後でソフィーちゃんに聞きなよ。ソフィーちゃんならきっと分かると思うよ」

「ちょ、ライオさんのいじわる! 何? 自分の嫁はかしこいんだぞ、っていう嫁自慢!? いいもん、ライオさんとソフィーちゃんの関係後で聞いてやるから」


 マリナはそんな事を言い捨てライオの近くから離れる。


「いや、やっぱりマリナちゃん偏見してるよ」


 ソフィーとライオの関係、そして問題のからくりが見抜けなかったのは流石に思い込みが激しいだろ、とライオは思ったものの、指摘するのも面倒臭いのでやめておいた。

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