迷宮のウサギ
『事情はわかりました。では次の探索はぜひ一緒に行きましょう。改めまして、私はケットです。』
簡単にパーティーメンバーを紹介する。
「ありがとう。心から礼を言うよ。私のことはスゥと呼んでくれ。」
裏表のない誠実な感謝の言葉に、アレクシアとチャンスもやれやれといった表情をし、とりあえずは彼女の加入を納得してくれたようだ。
「ところで早速なんだけど、私達にピッタリのをもう見つけてあるんだ。」
スゥは青い眼をきらきら輝かせながら皿をどかして1枚の紙切れをテーブルの上に置いてみせた。
✽おおっと✽
なぜこの流れからそっちが依頼を提案してくるんだ?
アレクシアとチャンス、さらにシルバも加わり俺に強い抗議の視線を送ってくる。
依頼の内容はともかく、確かにこの流れはおかしい!
パストアだけは、にこにこした表情を一貫しており、どちらでもお好きにというスタンスのようだ。
「ウサギを3羽捕まえるだけなんだ!すごく簡単な依頼だろう!」
スゥが今すぐにでも出発しようという勢いで提案を推す。
「うわ…ほんとだよこれ。なんでこんなウサギなんかに金貨5枚もついてるんだ?」
チャンスが紙切れに目を通し、破格の報酬であることに疑問を呈した。一羽につき金貨5枚の報酬がでるらしい。
スライムや甲虫などですら10体につき10枚程度の銅貨がもらえる程度なのに、ウサギにそんな高値がつくのはおかしい。捕獲だからなのだろうか。確かに迷宮内で生け捕るというのはなかなか難しい話かもしれない。
店主の話によると、最初は3羽まとめて銀貨10枚程度の報酬だったらしい。たまたま迷宮3層でウサギを見かけたという冒険者の話を聞いて、迷宮に生息するウサギというのは大変珍しいと貴族が興味を持ったのだそうだ。
野原で見かけるようなただの白いウサギだという話なのに、この依頼を遂行できるものが一向に現れない。
報酬が安いから、冒険者の質も悪いのかもしれない。そうして少しずつ報酬が上がっていくうちに、いよいよ3羽で金貨15枚の値打ちまで上がったというのだ。
魔物図鑑にはそんな外見の魔物は載っていなかったし、たぶんウサギは心無い飼い主かなんかが迷宮で放したか、野原か山からか迷い込んだかしたのだろう。
なかなか遂行できる者が現れないというのはかなり嫌な予感がする。
ただのウサギが迷宮内で生き残っているというのもおかしな話だ。
もしかしたら知恵の働く魔物が、ウサギを飼いながらこれを餌にしているのかもしれない。
ウサギを囮にし、この依頼の遂行を目的にやってきた冒険者達を片っ端から片付けているのではないか。
そうなってくるとかなり厳しい探索になりそうだが、同時に冒険者、"喚ばれし者"としてはとても見過ごすことのできない依頼であることも理解した。
自分と同じような冒険者達が次々といいように迷宮で返り討ちにあっているということだ。報酬額はおいておいても解決する必要がある。もし黒幕に知恵のある魔物が存在したなら、迷宮の謎の解明にも迫れるかもしれない。
俺達でこのウサギ狩りを終わらせようと言うと、皆しぶしぶ賛同してくれた。
スゥの「よしじゃあ早速今から行こう!」というのはさすがにリーダーとして飲み込めなかったので、彼女にはとりあえず俺達の常宿である白騎士亭で一泊を立替てやり、明朝出発することにした。