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空戦、勃発

 昭和一八年八月二三日……ミッドウェー……。

 その日はかんかん照りの太陽が、殺人的な暑さをもたらしていた。

 吉良(きら)久員(ひさかず)上等兵は、零戦に乗り込み、各種計器を確認する。敵機が迫っているわけでは無い。米軍の四発機が時折飛来するが、偵察が主任務なのか、爆撃は仕掛けてこない。その上、毎回零戦が迎撃に上がり、損害を受けるためか、その頻度は減る一方であった。

 では何故上空に上がるのかというと、輸送船団の護衛のためだ。ミッドウェーには、護衛のための駆潜艇などが少数ではあるが存在している。しかし、それでも潜水艦による被害を無くすことは出来ない。そのため、時折零戦も上空に舞い上がり、潜水艦の動きに掣肘を加える。対潜爆弾を装備しているわけでは無いが、上空に航空機が存在しているというだけでも潜水艦は動きが取れなくなる。

 この時、ミッドウェーには零戦三二型が九機で編成された中隊が六個に二一型で編成された中隊が三個、水偵が三個小隊、水上戦闘機が三個小隊、二式大艇三機の計一〇二機が常駐していた。攻撃機や爆撃機がこの島に無いのは偏に帝国海軍の戦略によるものである。

 帝国海軍はこの島を囮として使おうと考えていた。ミッドウェーはハワイと目と鼻の距離にある。米軍は反抗を考える時に、まずこの島から攻略しなければいけない。そうでないと、この島から、鬼の居ぬ間に洗濯と、ハワイに攻撃を加えられるかも知れないのだ。

 他にも米軍が真っ先にこの島を攻撃しなければいけない理由はある。この島が潜水艦の前進基地として使用されている為だ。帝国海軍はこのミッドウェーから潜水艦をハワイ近海や米布間に配置させ、通商破壊や監視の任務に就かせている。ミッドウェーからならハワイ近海まで非常に近く、迅速な行動が可能となる。距離だけを考えるならば、その日の内に再配置できるほどだ。米軍も空爆でこれを潰そうとした時はあった。しかし、他ならぬ米軍自らが掘った地下の要塞に魚雷は保管されており、これの効果は被害に見合うほどは無かった。

 そのため、米軍はハワイ保全の観点、任務秘匿の観点、実際に出ている船舶被害の観点からミッドウェーの攻略が必至になっていた。尚、合衆国全体としては、オーストラリアの領土を取り戻すよりも自国の領土を取り戻した方が戦意高揚に繋がるという見方もあった。


 ……こうして、敵の暗号を解読していない帝国海軍をせしめても米軍の次の手は明らかとなっていた。しかし、ミッドウェーに配備できる兵力は米軍としても既に知るところである。そうなればそれに勝る兵力を持ってこの諸島の攻略に当たることは明白であった。では、日本海軍はどうするか……ミッドウェーに配備された航空機が戦闘機と偵察機のみであるという所に、その答えを見ることが出来た……。


「何だ……あれは……」


 船団護衛任務のために、零戦が三機西の空へ飛び立っていったのと同時に、突如空襲警報が発令された。萌田(もえた)利佳(かずよし)少尉は、己の小隊を率いて迎撃に上がったのであるが、そこに待ち受けていたのは、想像以上の数の敵機であった。それも単発機……つまり艦上機である。

「あれは……二〇〇はいるな……とすると、空母も相当数いるはずだが……何故分からなかった?」

 ミッドウェーでは定期的に偵察任務を行っており、仮に米艦隊が近づこうものなら、即座に分かるはずだ。それもこのような大艦隊なら相当だ。

「まあ、良い。やることは変わらん」

 萌田はそう言い、敵機に躍りかかっていった。

 ミッドウェーへの本格的な反抗はかねてより予想されていた。心構えはできている。それに、米軍機は零戦対し大抵の面で劣っている。多少数が大きくても、劣勢を強いられることはあるまい。

 萌田は一気に上空まで上がり、高度において有利となった。そこから機種をひねり、逆さ落としに敵機の群れに突っ込む。この攻撃で、まずは一機撃墜……と行くはずであった。敵機は一気にカクンと機首を下げたかと思うと、急降下を始めた。

「何!」

 萌田が戸惑っているところに、横合いから別の敵機が銃撃を仕掛けてくる。慌てて操縦桿を倒し、銃弾を避ける。翼のすぐ横を銃弾がかすめていくのを見ると、命知らずの戦闘機乗りと(いえど)も、鳥肌が立つことを禁じ得ない。

「……あれは……」

 彼のすぐ上を、今さっき銃弾を放ってきた機体が通り過ぎる。その瞬間、萌田は悟った。

「違う……F4Fとは違う……新型機だ!」

 F4Fより一回り以上大きい機体。主翼の位置も下方に下がっている。

「だが……こっちも死線はくぐっている!たかが新型ごとき……墜としてくれる」

 フットレバーと操縦桿を連動させ、必要最低限の動きで、新型機の背後につく。照準器に、敵影がはっきりと映る。このまま接近し、銃弾を撃ち込むだけだ。

 しかし……。

「速い……」

 期待とは真逆に敵機の姿はぐんぐんと遠ざかっていく。苦し紛れに七・七ミリ機銃を放つも、聞いている様子はない。F6Fのパイロットは、それで萌田に気が付いたようで、急降下に移る。萌田はそれで、完全にF6Fを追うことができなくなった。

「……参ったな……速力において圧倒的に優位に立たれている。おまけに、こちらの降下制限よりも大分速く下がれるようだ……」

 萌田は、この新型機に脅威を感じたが、自分のやることは変わらないと、思い直し、空戦により下がった高度を立て直そうと、機首を上げた。

第二話でした。

不意を突かれ、迎撃能力の低下したミッドウェーを米軍が蹂躙してゆきます。

本作品では、ミッドウェー海戦で『エンタープライズ』も撃沈されていますので、エセックス級のどれかは、『エンタープライズ』と名付けられるのでしょうね。この作品には登場しませんが。

第三話に続きます。

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