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強引に参加させられた飲み会に松田先輩は来ていた。


「遅かったねー」


「スミマセン、急にバイトが入って」


同じアルバイトの大学生が風邪をひいて休み、その代わりに仕事をしてきたので会場の居酒屋についた頃には一次会が終わっていた。


「2次会に行くぞー」



少しだけ居たら帰ろう。

そう思って皆と移動したのはクラブ。そこの入り口には行列が出来ていた。


「今日混んでるね」


「来るって情報があったみたい」


同じように並んでいる女の子達が楽しそうに話をしているのが耳に入ってきた。


「久しぶりじゃない?」


「絶対見る!」


楽しそう…

サークルの人達も何だかソワソワしているように見えた。


「…」


列に並びながら視線を感じる。

松田先輩がさっきから私を何か言いたそうに見ていた。


「岡本さん、遅れてきてたけど夕飯食べたの?」


サークルの先輩に聞かれて首を横に振った。

食べる暇は無かったけれど、少しだけいて帰るつもりだったから構わないと思っていた。


この先輩ってどこの学部なんだろう?

あまり顔を見ない男の先輩に聞かれるままに話をして互いに時間を潰した。


「岡本さん、このまま抜けない?」


世間話をしていただけなのに、突然の誘いが分からなかった。

作り笑いを先輩に向けると、その後ろでニヤニヤと笑っている女の人達が見えて、咄嗟にそういう事かと状況を理解した。


「…参加費払ったんで…」


作り笑いを顔に貼り付けて暗に断ると、相手も笑って「え、行こうよ」と無神経に誘ってきた。

ニヤニヤと笑い続ける女の人達。アルバイト先で嫌がらせをしてきたのと同じ理由なのだろう…


正直、うんざりした。松田先輩とはもう何でもないのにいつまで続けるつもりなのだろう…


もう、帰ろう。この人と二度と会わないだろうし…


「すみません、私「千尋さん?」


帰る。と言いかけると名前を呼ばれた。


「…三浦君?」


何故か三浦愁君がいて、周囲がザワザワと騒がしくなった。


「どうしてここに?」


…それは私が言う台詞なんじゃないかと思う。

高校生の彼がどうして此処にいるの?

騒がしい周囲が更に騒がしくなり、そこにいる皆が私と三浦君から視線を移したような気がした。


彼女達が見ている方を見ると、此方を見ている彼がいた。


「千尋?…」


相変わらずカッコイイ。

私服の彼は大人びていて高校生には見えなかった。


「どうして此処にいる?」


僅かに目を眇めて私を見ると、私の方に歩いてきた。

彼が動いただけでざわめきが大きくなる。


宮野君の視線の先を見ると松田先輩がいて、互いに睨み合っていた。


「アイツと一緒?」


宮野君に聞かれて頷くと、眉が顰められた。

明らかに不機嫌な顔に、帰ろうと思っていたと伝えようと顔を見上げると一緒にいた先輩が私の袖を引いた。


「岡本さん、行こう」


尚も袖を引く先輩に、行かないと答えようとすると反対側の腕を掴まれて引かれた。


「触るな」


そう言うと、宮野君は腕を掴んだまま歩き出してしまい、三浦君を見ると困ったように笑って宮野君と私の後をついてきた。


人込みなのに彼が進む方向に自然に道ができ、並んでいる人たちは彼を見ている。見られていることを全く気にしていない様子の宮野君は、入り口まで来るとIDチェックをしているスタッフの前で立ち止まり、私の肩に腕を回した。


「葵さん?」


「オレの連れ」


どうぞ、と頭を下げるスタッフに頷いて店の中に入った。


店の中は混んでいて、スタッフが案内しようとすると宮野君は何かを伝えていた。

良く聞こえなくて、腕を引かれるままに彼の後ろを歩いた。


案内されたのはVIP席で、後から来た三浦君たちとは少し離れた席だった。

ドサリとソファに座って髪をかき上げて大きく息を吐いている宮野君の隣で、どうしたらいいか分からず、離れた席の三浦君を見るとニコリと笑って私に手を振っていた。

思わず手を振り返すと宮野君に睨まれた。


「呑気だな」


「…ごめん」


「なんで此処にいるんだよ、しかもあの男も一緒で」


「それは…」


説明しろ。と凄まれて、此処に来ることになった事情を説明すると呆れたような顔で私を見た。


「…お人好し」


「それ、友達にも言われた」


サークルと関わるのはこれが最後と思って来たのに、どうしてこうなったんだろうって思う。

さっきまで此処を抜けてどこかに行こうって言ってきた先輩も松田先輩の友達に何か言われて私を声をかけていたんだろう…


長野君が言うように、行かない。そう言えば良かった。



私の前に置かれたグラスに手を付けていいか迷っていると「酒じゃない」と言われて一口飲んだ。


「…友達って、男?」


「うん。同じ学部…」


音が煩くて顔を近くに寄せないと何を言われているか聞き取れない。

宮野君を間近にしてあまりに綺麗な顔に気後れしてしまう。


「サークルとバイト辞めること、その友達に相談した?」


首を横に振って階下で踊っている人達を眺めた。

楽しそうな人、そうでもなさそうな人…皆、何を考えて此処にいるんだろう?


「一人で決めて、新しいアルバイト先も見つけたの」


自分のせいだと思ってほしく無かったから明るく言うと、宮野君はジッと私を見ていた。


「それより、宮野君はここによく来るの?」


入り口でのやり取りはどう見ても常連。しかも顔パスっていう奴だよね、スタッフ達も彼には丁寧に頭を下げている。


「…時々来る。千尋は来るなよ、危ないから」


自分の方が年下なのに心配されているこの状況がちぐはぐで笑いたくなった。

駄目だな、私。本当にしっかりしなきゃ


「…アイツ」


宮野君の視線がフロアに向けられ、松田先輩が手にしたビールを飲みながらこちらを見ているのが分かった。



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