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帰り道を一人で歩いていると反対車線に車が数台停まっているのが見えた。

若い男の人達が車の近くで立っていた。


ビルから男の人が出て来るのが見え、足を止めて見ているとビルから出てきた男の人に外車の近くにいた人達が声をかけていた。


何を言っているのかは分からないけれど、男の人に手を伸ばしている人もいて、ボディガードのような人がその手を払っているのが見えた。


スマートフォンが鳴り、電話に出ながら歩き出した。


『岡本さんですね?』


「はい」


『面接に来て頂いてありがとうございました。アルバイトとして採用したいと思います』


歩き出した足をまた止めて女性の話に聞き入った。


電話の相手は面接をしてきた会社の採用担当で、朗らかに話す社員さんに出社する日時と必要な書類の説明を受けた。


働こうと思ったのは児童福祉施設のアルバイト。

授業が終わってから、乳児院の食事の支度をしたり食事後の後片付けをするアルバイト。将来の夢に関係するアルバイトをしたかった。


少しだけ社員さんと雑談をしていると、目の前で反対車線にいた車が激しい音を立てながらUターンをしていた。


乱暴…


『今、すごい音がしたけど大丈夫?』


「はい、車が急ブレーキをかけたみたいです。明日からよろしくお願いします」


『こちらこそよろしくお願いします。楽しみにしているわね』


挨拶をして電話を切ろうとしながら、こちらに向かって走ってくる車の後部座席で運転席と助手席の間に座っている人が見えた。


すれ違う直前に目が合ったように思ったけれど、スモークが貼られた窓ガラスに遮られて分からなくなった。


宮野君に似ていた。

でも、有名高校の高校生が助手席にもスモークが貼られている車に…しかも後部座席に一人で乗る?


人違いだろうと思い直して地下鉄の駅を目指した。





「千尋」


図書館に行く途中で、松田先輩に会った。


「こんにちわ」


話すような事もないから挨拶をして通り過ぎようと頭を下げた。


「待てよ」


すれ違い様に呼び止められて先輩に向き合った。


「あのガキと付き合ってるのか?」


「…いいえ」


宮野君、せっかく庇おうとしてくれたのにごめんね。

私、嘘をつくのは苦手。


「あの男とどういう関係だよ」


「困っているところを助けてくれて家まで送ってくれたんです」


そう言うと先輩は怪訝な顔をして私を見下ろした。

先輩を見上げると、宮野君の背が高かった事がよくわかる。


「あの男に言われたからバイトも辞めたのか?」


都合のいい女がいなくなったことが嫌なのだろうか?

先輩がどうしてそんなことを気にするのか不思議に思えた。


「彼は関係ありません。でも、私が辞めたのをどうして知っているんですか?」


「…」


答えが欲しかったわけではないからジッと私を見る先輩から視線を反らした。


「すみません、失礼します」


何か言いたそうな先輩に頭を下げてその場を立ち去った。

女の人から人気があって常に誰かが側にいる。

そういう人が都合のいい女をイケメン高校生に取られたと思うとプライドが許さないんだろうな…


でも、それも勘違いだと分かって今ごろスッキリしているかも。


「…」


勉強しよ。




「ねえ、会費を払ったんだから勿体無いよ」


「一緒に行こうよ」


サークルの先輩達からの熱心な誘い。

私がサークルを辞めたことは知っているはずで、昨日も断ったのに今日も誘われている。


「…」


さっきも断ったのに…

しつこいと思いを込めて先輩を見た。


「じゃあさ、飲み会だけでも行こうよ」


「私、お酒は…」


「未成年に飲ませないよ!」


「アルバイトがあるので」


「バイトじゃ無い日にするからさ」


しつこさに負けて頷くと先輩達はやっと帰っていった。

わざわざこのために来たんだと少し呆れながら先輩達の後ろ姿を見ていると、隣に座っていた長野君がため息をついた。


「イヤならはっきり断ればいいんだよ」


断って波風が立つのが怖いとは言えずに長野君の言葉に頷いた。


「岡本ってお人好し」


見抜かれて小さく笑われてしまい、恥ずかしさに思わずむせてしまった。


「そんなに動揺すんなよ。面白いな、岡本」


「やめて」


どうやったら彼のように自然体で自分の考えを口にすることができるんだろう…


「見つめられると照れる」


「ごめん」



新しいバイトは大変だけど考えさせられることが多くあった。


心に傷を負った子供達もいる。

ケアをし、サポートする職員を見ながら感心させられることばかりだった。


バイトが終わり、歩いていると人が集まっているのが見えた。


ビルの入り口に集まっているこの光景はいつかみたものと同じ。

あのときは外車の後部座席に宮野君に似ている人が見えた。あのときは人違いかと思ったけれどあんなイケメンがそうそういるとは思えない。

あれは本人だったのかな…


進行方向にある人だかりを避けるために横断歩道を渡り反対側へ向かった。


東京ってスゴい…

皆キラキラしていて、楽しそうで…

全部に精一杯の私とは別次元にいるみたい。




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