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初冬。
地元では雪が降っている頃なのに、東京では薄いコートで間に合ってしまうのが変な感じ。
高い空を見上げてため息をついた。
高校生に同情されて庇われて…
私、何をやっているんだろう?情けない。
「岡本、バイト辞めたって聞いたけど」
講義が終わり教室から出ると長野君に声をかけられた。
「うん」
宮野君に言われたからではないけれど、松田先輩の友人達に嫌がらせをされながら働く意味は無いと思ってアルバイトを辞めた。
払ってしまった年会費を無駄にしたけれどサークルも辞める手続きをした。
浮かれてる場合じゃない。夢だった仕事につくために大学に入ったんだから…
「昼飯に行こうぜ」
「うん」
「次のバイト先を見つけるのか?」
長野君はパクパクとカツ丼を食べている。
「昨日面接を受けたの」
学校の近くの定食やさんで二人でご飯を食べていると丼から視線を上げてにこりと笑った。
「頑張れ」
「ありがと」
保育士になりたくてこの大学に入った…アルバイトでも保育関連の仕事をしたいと思って面接を受けた。
もしも採用されたら松田先輩の友人達とは関わらない分野だし、それも理由の一つだった。
「長野君の方はどうなの?」
「がきんちょに振り回されてる」
憎たらしいよな、と言いながら笑っている彼は楽しそうに見えた。
幼なじみの彼女の実家を手伝いたいという理由で保育士になりたいと教えてもらった。
今は彼女の実家でアルバイトに励んでいる。
この大学はもともと女子大で、保育科以外の学部には、とりあえず大学に入れれば…そんな志望の学生も多いと聞いていた。
昼食を取り終え、大学に戻っている途中で声をかけられた。
「岡本千尋さん」
有名高校の制服に身を包んでいる彼とは別人のような三浦君がいた。制服姿も王子様みたいでカッコよかったけど、私服もカッコいいのね。
「少し時間をもらえますか?」
心配そうな長野君に、すぐに戻ると言って三浦君の後に続いた。
宮野君と来た学校近くのカフェで私の向かいに座った三浦君はキラキラしていた。
今までこんなイケメンと話すことがなかったから面と向かうと緊張する。
「突然すみません」
「こちらこそ、この前はありがとうございました」
少し困ったように笑顔を見せる三浦君に、あまりいい話ではないのだろうと、彼に気づかれないように身構えた。
「パティスリーのアルバイトを辞めたんですね」
またその話…
「はい」
「この前お店に行ったときに同じアルバイトの店員から嫌がらせをされているように見えて心配だったんです。…葵が何かしたんじゃないですか?」
「違います。宮野君は関係ありません。助けてもらったのは私の方なのに二人とも優しいんですね」
今思えば、松田先輩とは一応つきあっていた。そういうことになるだろう、先輩の友達は私に対していい感情を抱いていなかった。
宮野君とのことを勘違いした先輩が友人たちに何か話をして私への嫌がらせが始まったと思っていた。
「力で黙らせることは簡単です。そうしますか?」
物騒なことを言い出す三浦君の顔を見つめてしまった。
綺麗な顔に浮かべているその笑みは、冷たい。
「そんなことしないでください。逆に巻き込んでごめんなさい」
きっかけになったのは宮野君の挑発かもしれないけれど、前から火種は存在していた。
「オレも葵も人を弄ぶヤツが嫌いなんです。何かあったら連絡ください」
三浦君は別れ際も何かあったら連絡するようにと念を押していた。
二人とも心配性。