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「凄い…」
三浦君に見送られ、自分がいた場所を見て驚いた。
豪邸。そう言ってもいいと思う。
「口が開いてるぞ」
慌てて手を口に当てたけれど口は開いていなかった。
「愁の家は隣の病院を経営している。ホラ」
ズボっとヘルメットを私に被せた。
宮野君は毒舌なだけでなく、女の子の扱いも雑かもしれない。
「乗れよ」
「…これ?」
こんなに大きなバイクに乗ったこと無い。
戸惑っていると宮野君は私の脇腹に手をかけた。
「え!?キャ!!」
「騒ぐな。乗れないお前が悪い!」
ストン。とバイクの後ろに乗せられ、宮野君は自分もバイクに乗った。
「掴まってろよ」
ヘルメットを被るとエンジンをかけてバイクを走らせた。
「ヒャア!!」
「落ちるぞバカ!」
「イヤあぁ!」
慌てて宮野君にしがみついた。
イケメンは背中も引き締まっていた。
「意外に近くに住んでたんだな」
ヘルメットを外して彼に渡すと、彼は辺りを見回していた。
「ありがとう」
バイクから降りようとしたけれど、足が短いからか地面に届かなかった。
「…どんくさいな」
「ヒャア!」
脇の下に手をかけられ、また変な声が出てしまった。
そこ、弱いからやめて欲しい。
地面に降ろしてもらい、改めて宮野君に頭を下げた。
「本当にありがとうございました。借りた服は今度返しに行きます」
「シャツ一枚だろ?別に気にしなくていい」
「助けてもらって何もお礼しないなんて!」
面倒そうに髪をかきあげるその姿に思わず見とれてしまった。
整った顔立ちをしているけど、それだけじゃない。この色気…
「千尋?」
声をかけられて振り返ると松田先輩がいた。
「先輩…」
「結構酔ってたから心配して来たみたけど…それ、誰?」
眉を吊り上げて怒っている先輩を見て、気持ちがどんどん冷えていくのが分かった。
「男に送られて朝帰り…」
違う。と言う気持ちにはなれなかった。
「おまえはそういう女だったんだな!」
「だったら、なんだよ?」
ぐっと肩を引き寄せられると宮野君の綺麗な顔が頬に触れた。
「あんた、千尋さんとどういう関係?」
宮野君が挑発すると、先輩はポカン、と口を開けた。
「…オレは千尋と「酔った千尋さんを送らなかった理由は?」
畳み掛けるように聞く宮野君を先輩は睨むように見ていた。
「あんたが放置したおかげで、オレに助けてって連絡もらえてよかったけどな」
チュッ、と頬にキスをした。
「と、宮野君?」
何も言わずに松田先輩は帰っていった。
「やり過ぎたか?」
私の部屋でコーヒーを飲みながら宮野君は聞いた。
「びっくりしたけど、ありがとう。これ以上惨めにならなくて済んだわ」
あれは宮野君の優しさだ。
「何かあったら教えろよ。始末をつけてやる」
「始末なんて…大袈裟よ。先輩は学部も違うし」
「どこの大学?」
大学名の学部を言うと、宮野君はフッと笑った。
「あんたが保育士の学科?子供の面倒みれるのかよ」
「ちゃんと一人暮らしだってしてます」
「くだらねぇ男には捕まったろ」
何も言えない…
ぐっと黙っていると、宮野君はニヤリと笑った。
「年上だけど危なっかしいな」
笑顔も綺麗なのね…
「サークルも辞める」
「何のサークル?」
「旅行」
「インカレ?それってヤリサーだろ」
そういう噂があるのは知ってる。
でも、皆優しいし違うと思ってた。
「松田先輩にはもう会わない。宮野君、色々ありがとう」
「スマホ貸して」
私からスマホを取ると操作をしていた。
「挑発したのはオレだ。何かあったら絶対に言えよ」
口は悪いけど優しい人ね