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“帰ってきたら教えろ”
唐突なメッセージが届いたのはお正月に帰省している時だった。
何かウチに忘れ物でもしたのかと思ったけれど、出かける前には何もなかったはず…
中学や高校の同級生と再会を楽しんで両親や祖父母に甘えて過ごした冬休みももうすぐ終わり。
東京に戻る前日に宮野君に明日戻ります。とメッセージを送ったらまたオレ様なスタンプが返ってきた。
高校の友達の買い物に付き合いながらお土産を見た。
友達に“たくさん買うね”と驚かれながら色々と見て選んだ。
アルバイト先と、長野君と…三浦君と宮野君にも買わなきゃ…
宮野君とは会う約束はしていないけど、会えたら渡せるような日持ちするものを選んだ。
両親に見送られて新幹線に乗り地元を後にした。
東京に近づくにつれて高い建物が増え、それがビル群になってくると東京に戻ってきたんだと実感する。
“戻ったよ”
宮野君にメッセージを送ってアルバイト先のスタッフ用のお土産を持って行き、少しだけ仕事を手伝って施設を出ると雪が降っていた。
地元とは違ってすぐに溶けて消えてしまう雪を眺めていると、スマホがメッセージを知らせた。
“今どこ?”
宮野君からのメッセージにバイト先でこれから帰ると返信をして、駅に向かって歩いた。
“分かった”
そう返ってきたメッセージを見たのはもうすぐで部屋に着くという頃。
後でお土産を渡すために予定を聞こうと思いながら歩いていると、見覚えのある後ろ姿がそこにいた。
「宮野君?」
「おかえり。…寒い…」
その言葉に、もしかしてここで待っていたのかと慌てて駆け寄った。
「いつからいたの?」
「さっきついた…」
寒そうにしている宮野君に部屋に入ってもらい、暖房をつけて暖かいお茶を淹れた。
「ごめんね、お土産を置いたらすぐ帰ってくるつもりだったんだけど手伝ってたら遅くなったの」
「ホントにお人好しだよな」
笑う宮野君はお茶を飲んで笑っていた。
私一人だと余るソファも背の高い宮野君が座ると小さく感じる…彼がこの部屋に来るのは何度目だろうと思いながら、テーブルに自分のお茶を置き、宮野君用に買ったお土産をテーブルに置いた。
「お土産。いつもありがとう」
「…ありがと。開けていいか?」
「どうぞ」
袋を開けて中身を出してお土産を見て、フッと笑っていた。
「千尋の地元って岩手なんだ…」
そうだよ、と答えながら三浦君にお土産を渡してもらおうと、包みをテーブルに置いた。
「これは?」
「お土産。三浦君に会う?」
りんごでも剥こうかと思ってりんごを入れている箱をゴソゴソと開けて蜜が入っていそうなのを探し出した。
「…あれ、愁に?」
お尻が丸くて美味しそうなのを洗っていると、すぐ近くで宮野君の声がした。
「うん。色々気にかけてくれてるし…」
息がかかりそうな距離で聞かれて、動揺しているのを悟られないように気を付けながら答えた。
さりげなさを装えているだろうか…
「オレと同じ?」
「お菓子だよ」
「バイト先のは?」
どうしたんだろう…お菓子の方が良かったのかな…
不安になって振り返ろうと思ったけれど、背中に暖かい体温を感じて動けなくなった。
固い胸が背中に当たっていて、長い腕が私を抱きしめている。
「千尋、バイト先の土産は?」
「他は皆同じなの…名物のお菓子の詰め合わせ…」
どうして抱きしめられているんだろう…
耳元で話されて、うるさいくらいに心臓が鳴っている。
松田先輩に抱きしめられても、こんなにドキドキしたことは無かった。
どうして黙っているのか、何か話してくれたら気が紛れてドキドキしないかもしれないのに…
「宮野君?」
「…葵」
「え?」
「宮野君じゃなくて葵」
拗ねたような声。「葵君?」と呼ぶと、抱きしめる腕に力が込められた。




