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宮野君には、一人で病院に行けるから大丈夫。とメールを送っておいた。
どうしても辛いときは友達を呼ぶとも伝え、私の為に人を使わないように頼んだ。
一日寝て、大分楽になった気がする。
病院に行かなくてもこのまま寝ていたら治るような気もするけど約束したから診察を受けた。
診断は、やっぱり風邪。
インフルエンザじゃなくて良かった…
薬を受け取った後に近くのスーパーで簡単に食べられるものを買ってアパートに帰ると見覚えのあるバイクが停まっていた。
エントランスの前にいる人を見て驚いた。
どうしてここにいるの?
「宮野君?」
「どこに行ってたんだよ?」
「…病院と買い物…」
怒ってる?
私の手からビニール袋を受け取ると早く開けろと視線で催促し、暗証番号を入れてオートロックの入り口を開けると彼も一緒に来た。
「寝てたから散らかってるよ?」
「気にしない。…病院では何て言われたんだよ」
「風邪だって…宮野君、うつるからマスクして?」
暖房をつけながら窓を開けて換気をしてお湯を沸かそうとすると、座ってるように言われ、振り返ると彼は袋の中身を見て溜息をついていた。
「これ、千尋が食べるのか」
「うん…」
だるくて食事を作りたくないから簡単なものを買ってきたんだけど、料理上手な彼から見たらありえないのかもしれない。
「…何か作る。キッチン使うぞ」
「悪いからいいよ」
「いいから、寝てろ」
私をベッドに押し込めると、宮野君は冷蔵庫を開いたりして何かを作り出した。
とりあえず手っ取り早く食事をして薬を飲んでしまおう。それしか考えていなかった。
「食べろ」
ドン!と置かれたのは…豆腐の…?
宮野君を見ると、「豆腐のみぞれ煮」と教えてくれた。
「熱いからな」
「うん……」
豆腐とたっぷりの大根おろしが乗せられたソレを口に入れると味覚が少しおかしくなっている今の私にも十分美味しいと思えた。
「おいしい」
「ごちそうさまでした」
病院からもらった薬を飲むと宮野君はお茶を淹れてくれていた。
「オレがイギリスに行っている間、愁に連絡しなかっただろ」
ほうじ茶を一口飲んで彼を見ると、ジッと私を見ていて真っすぐなその視線に戸惑った。
迷惑をかけてはいけないと思ったんだけど、もしかして…怒ってる?
「そんなに遅くならなかったし、迷惑をかけるのは嫌なの。…気にかけてくれているのは嬉しいけど、自分の事は自分で出来るよ」
「風邪ひいて寝込んだくせに?」
「これは、注意してたけどひいちゃったものは仕方がないじゃない?…」
「…一人で病院に行ったのか?」
「うん」
「この前のアイツは?」
「?」
誰だろう…
「バイトとサークルの事相談した友達」
「長野君?…彼には…」
あ、連絡もらったのに折り返してない。
スマートフォンを見るとメッセージが届いていた。
“取り込み中だったらごめん。彼女と旅行で大阪に行く!この前食べたいのあるって言ってたから聞こうと思った”
着信の日付と今日のカレンダーを見て溜息をついた。
「長野君は今彼女と旅行中…」
「…へぇ…ホントに友達なんだな」
それ以外に何があるっていうの…
食べたかった、限定のロールケーキ!
これから連絡したら買ってきてくれるかな
スマートフォンをテーブルに置くと、宮野君が食器を手にした。
「自分で片付けるよ」
「早く寝ろ」
「…眠くない」
そう言うと笑って暖かくするように言って食器を洗ってくれた。
「イギリス、どうだった?」
親が送ってくれたリンゴを剥いてくれて二人で食べながら聞くと、少し考えて寒かったと教えてくれた。
「姉貴と一緒に行ったんだけど…アイツも親父も楽しそうだった」
何かを思い出したように遠くを見て、少しだけ寂しそうに笑うその顔に見とれてしまった。
「宮野君は?」
楽しくなかった?
そう思って聞くとフッと笑ってリンゴを食べた。
「それなりに楽しめた。お袋が生きていればって思った…それは親父も姉貴も思ったんだろうな」
それからお姉さんのことを話してくれた。
お姉さんはビックリ箱みたいなところがあるとか、付き合っている彼に納得いかないけど仕方がないと思っている事…
宮野君の声が心地よくていつの間にか眠ってしまったらしく、気がついたら朝でベッドの中にいた。
彼から朝食は作って冷蔵庫に入れてあるからそれを食べるようにとメッセージが届いていて、鍵は施錠して玄関の郵便受けに入れたともあった。




