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ブルー・スカイ  作者: 嶺司
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第6話 3番機

次の日、8月18日、作戦室。

今日もパイロットが皆、ここに集合させられていた。

俺達はまた最後、荒木さん達の横に座る。黒木さんは後ろに座っていて、ひよっこの4人も端に座っている。

「なんですかね?」

「さあな」

水咲さんが隣りに座る荒木さんに話しかけるが、まあ分からないだろう、彼は肩を窄める。

すぐに司令が入ってきた、俺達はいつも通り起立して敬礼する。

「お疲れさん、座って結構」

いつもの野太い声で言い、俺達を労ってくれる、それを聞いて俺達は席につく。顔はいつ見ても怖いが、かなりいい人だと思っている。

「ひよっこの配置についてだが...」

端に座るひよっこ4人を難しい目をして見る司令。ああ、最終試験が終わったから隊を組まないといけないのか、それの発表なのだろうどすぐにわかった。

「当分の間、柴田少尉、島木少尉、五十嵐少尉はシエラ隊に付ける。楽したかったらさっさと1人前にすることだ」

マジか~、と天井を仰ぐ荒木さんこれは大変な役を任されてしまったようだ。巣から飛び立てるようになってすぐのひよっこの面倒、敵を見ながら味方も十分に気にしないといけない、かなり大変なことだ。しかし、技量が上がり認められれば3人は他の隊となって独り立ちする、いわゆる一時預かりだ。当のひよっこ3人はザワザワとしている。

柴田塁しばた るい少尉22歳、丸刈りで野球少年のような感じとてもハキハキしている。島木恭しまき きょう少尉22歳、ショートへアでホッソリとしていて内気で少し暗いのがたまに傷。五十嵐尽いがらし じん少尉23歳、髪は長めだがオールバックにまとめていて気が強くひよっこのまとめ役だ。

五十嵐と、柴田は腕はよく、この前の基地防空戦では臨時にズール隊として飛んではいたが、まだまだ詰めが甘い、しばらくシエラ隊で面倒を見さすのだろう。あの時はやられて墜落していたし。

「東條少尉、君はブルー隊の3番機だ」

「え?」

先に声を上げたのは俺だ、それは一時預かりとかではなく正式な配置。呼ばれた東條の方を見ると目が合って会釈される、俺もつられて返す。

東條啓とうじょう けい少尉22歳、ひよっこ唯一の女性、黒髪でショートへア、片目が隠れそうなぐらい前髪はあり襟足は襟より少し長いぐらいまである、ジト目で口数は少なくほとんど話したことは無い。しかし、スタイルもよくモデルのような顔立ちなので整備員にはファンが多いと聞く(特にM気のっある整備員に。ちなみに水咲さんのファンも結構いるらしい)

「よろしく頼むよ、笹井特務大尉」

司令は柄にもなく俺に笑って見せる、何かわけがあるのだろうか。しかし、考えても分からない。

「わかりました...」

俺は項垂れ、またチラッと東條の方を見ると、特に表情も変えず前を真っ直ぐと見ている。

「話は以上だ、次の出撃から発動とする、みんな仲良くな。解散」


俺は格納庫の屋上にある整備用の足場にいる、考え事をする時はいつもここだ。東條の事は水咲さんに任せてある、男がいても気を使うだけだろう。

しかし、東條が3番機か...。あんまり話したことないしどんな奴なのかイマイチ分からないんだよなぁ、ファンらしい整備員に聞いても。「笹井大尉ずるいっス!!」とか変なこと言われるし...。水咲さんとはなんか自然に仲良くなれたけど上手くいくかなぁと、不安にかられる。

「ああ、やっぱりここにいた」

水咲さんが階段から顔を覗かせる。どうやら、俺を探していたみたいだ。タタタと階段を軽やかに登りきってこちらに歩み寄る。

「結構遠くまで見えるんだね、あれは、ウリューかな?」

俺の隣まで来て手すりに肘をつき遠く海を眺め、その先に浮かぶ第3艦隊の船を指さす。指した先、一際大きな船、空母「ウリュー」から艦載機が飛びたっている。

「どうしたの?考え事?」

全て見透かされているようだ。さすがは、俺の2番機と言ったところか。

「いやちょっとね」

あまり彼女を心配させないように、少し誤魔化す。それを聞いて、なにさーと、彼女は肘で俺をグリグリと押す。そんなことをしていると、まだ真新しい青迷彩のF-16が駐機場から格納庫内へと誘導されてきた、東條の機体だ。先日補充で本土から来て、最終試験で使ったぐらいだからまだそんなに汚れはない。

この格納庫はブルー隊専用になっていた、戦闘機3機だけだと広すぎるような気もするがそのほうが管理はしやすいとか、シエラ隊の格納庫ももう少しで修理が終わる。

「東條は?」

2人で色々作業をしていたはず、水咲さんだけなので不思議に思い話を逸らす。

「いや、剣くんがなかなか帰ってこないから2人で探してたんだよ」

そんなに時間が経っていたのか、心配させてしまっていたようだ。ごめんごめん、と謝る。

2人でということは?と思っていると、カタカタと階段を誰かがゆっくりと登ってくる音がする。

顔が見えた、東條だ。

「隊長、ここにいたんですか」

抑揚のない声で静かに言う東條、怒ってない?少し怖い。彼女はすぐに水咲さんを挟んで俺の側まで近づく。

「隊長!」

「はい!」

先程とは打って変わって突然の東條のハッキリした声にびっくりし、思わず姿勢を正して東條に向く。当の東條もビシッと姿勢を正している。

「東條啓少尉、ブルー隊配属を命ぜられブルー3に加わります。よろしくお願いします!」

綺麗な敬礼にあっけに取られる俺。

「お、おう、よろしくお願いします」

少し遅れて敬礼を返す。意外と律儀なところもあるんだなと感心する。

「わざわざそのために?」

もうちょっとしたら帰ったのに。

「はい、礼儀ですので。早めに言いたくて」

また、元の抑揚のない口調に戻った。よく言えばオンオフがハッキリしていると言うのか。どっちが本当の彼女なのかよく分からなくなる。

「隊長は、歳を気にすると聞きます。私は22歳ですが、タメ口で結構ですので」

あ、わかりました。なんか怖いな。上手くやっいけるかなと再び不安になる。

「わ、わかった」

司令は水咲さんと和気あいあいしてる俺に釘を刺すために東條をうちの隊にしたのか、といらない憶測もしてしまう。それだけ、東條はクールというかなんか怖い。

「それと、副官から部屋をこちらに移動するようにと鍵を預かりました」

東條から鍵を受け取る。この基地は同じ隊の者は人数等事情が無い限り一緒の部屋に住まうのが慣習になっている、てことは。

「剣くん、悪さしちゃダメよ?」

「しねーよ!!」

女性2人と同じ部屋で寝泊まりすることになるとは、それでいいのか2人とも!文句を言うなら今ですぞ!

「??」

東條はまだ理解していないご様子、ジト目で眉間にシワを寄せ首を傾げている。そうか、そもそもひよっこ達も4人で同じ部屋だったはず、特に抵抗はないかもしれない。そう思うことにした。


新しい部屋。

と言っても前の部屋の隣、ベッドが2段ベッドになっただけでそれほど配置は変わらない。

「同じ部屋ですか」

めっちゃ睨んでくる!ジト目で睨んでくる!めっちゃ嫌そう!決めたのは俺じゃありませーん、とその場から走り去りたくなる。

「大丈夫大丈夫、まだ何もされてないから」

水咲さん、それフォローになってませんよ?と心の中で突っ込む。そりゃ、俺がもし女だったら、あんまり知らない男の人となんて、てか、恋人でもない人と同じ部屋で過ごしたくありません。ん?でも、恋人でもない女性と寝泊まりを一緒にする俺はどーなんだ?と混乱してしまう。

「まだ?」

あーもう、変なところに食いついちゃったじゃない!

「なんもしないって!」

ジーっと、東條が睨んでくる、心が痛くて苦しい。

「まあ、気にしませんけど」

せんのかい!と漫才バリに心の中でツッコむ。本当なんなんだろうこの人は。

ベッドは結局、入口から見て右上が東條、右下が水咲さん、左下が俺ということになった。

そして俺は荷物移動を手早く済ませて2人を部屋に残し、ちょっと、と言い残し再び格納庫へと向かう。


格納庫に着いた、片手には黄色のペンキを持っている。

「このぐらいはしてやらないとな」

俺は整備員から脚立を借りて東條のF-16に乗り垂直尾翼に手をかける。

そして、簡単にマスキングをしてペンキをペタペタと垂れないように丁寧に塗っていく。

ブルー隊の識別マーク、黄色の一本線。

細かい作業など一切無し、ものの30分、すぐに塗り終わる。機体から降りて遠目に塗った箇所を確認し、よし!と満足。ペンキを片付けるため格納庫内の倉庫に行こうと振り返ると入口に東條の姿があった、相変わらずジト目だ。

「どうかした?」

面と向かって話すのはちょっと怖いので、東條に話しかけながら倉庫に向かいペンキの片付けを始める。

「......ありがとうございます」

識別マークを塗ったことのお礼かな?半分俺の趣味だから別にお礼はいいのにと思う。俺は素早くペンキの後片付けを終えて、東條に歩み寄る。

「カッコイイだろ?元々、水咲さんの識別マークなんだけど貰ったんだ」

無許可で、なんて本当のことは言わない、水咲さんも喜んでいたし大丈夫なはずだ。ちょっと照れくさくなって俺は頭を掻く。

「そうですね」

東條は短く小さく答え俯く、気に入ってくれたかな?と内心不安に思う。

「隊長は噂では癖の強い人と聞いてましたが、いい人そうで良かったです」

そんな噂初めて聞いたぞ。まあ、話は上手い方ではないし、ひよっこ達の面倒はほとんど他の人が見ていたし、関わりがなかったらそんな噂もたつのか。どうやら東條の方も少し不安にしていたようだ。

「改めて、よろしくお願いします」

東條はニッコリと笑って右手を差し出す。やばい、ギャップがすごく、カワイイ...。

俺は頭をブルブル降って邪念を振り払い、差し出された右手に強く握手をする。

「よろしく」

俺もできるだけニッコリ笑って返す。

不安だったがこの3人なら上手くやっていけそうだ、俺はそう確信した。


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