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ブルー・スカイ  作者: 嶺司
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第4話 彼女の色

エンジンから黒煙を吐きながら1機のF/A-18がゆっくりと降りてくる。消防車も待機済み、滑走路の修復も終わりきっていないので限界のラインにネットを展開している。

彼はフラフラと着陸、1回少しバウンドさせるがそれからは安定して滑走路を減速していく。

限界線ぎりぎりで止まった。

機体は駐機場に案内されることなくキャノピーが開き救難員に言われるがままコックピットからパイロットが降りる。その時、エンジン後方がボンと小さく爆発し火があがった。消防車はパイロットと救難員が避難したことを確認すると各車一斉に化学消化剤の散布を始める、泡でみるみる機体が白くなっていく。

俺は、その様子を横目に救難員に付き添われながら兵舎の方に歩いていくパイロットに駆け寄る、水咲さんも付いてくる。

「あの!」

パイロットは振り向く。まだ若い、整った顔立ちで言ってみればジュノン系か自分よりちょっと年上だと思う、身長も高く見上げる格好だ。

「空では助けて頂いて...」

とりあえず、助けて貰ったお礼だけでも言っておこう思ったが次の言葉が出てこず、モゴモゴとしていると。

ゴッ。

「ーーい!!」

思いっきり右頬を殴られた、俺は勢いのまま倒れ込み。「ちょっと何するのよ!」と、キーンと耳鳴りがする中、水咲さんが彼に怒鳴っているのが微かに聞こえる。

「あいつの分だ、ちゃんと空を見ろ」

彼の目は少し潤んでいるように見えた。俺は、すみません。と言葉にならない声で呟き、それ以上彼を見ることが出来ず、頬をさすり地面を見る。水咲さんはそんな俺の背中をさすってくれた。

「...でも、ありがとな」

突然かけられた感謝の言葉に、え?と顔を上げる。彼はちょっとだけ口元を緩め俺の元を去っていった。

そして俺達は部屋に戻った。

ある程度片付けていたが荷物は散乱、窓はベニヤ板で閉じて朝なのにここは暗い。俺は、ベッドにうつ伏せに倒れ込む。

「急に殴ってくるなんて酷いよねー」

水咲さんは俺のベッドの前に座り込んで両腕を組んで納得いかない様子。

「大丈夫?」

俺の顔を覗き込んで腫れて赤くなっている頬を見て心配してくれる。パーテーションは吹き飛んでいてもう無くなっている。俺は見られているのが恥ずかしくなって、大丈夫です!と慌てて顔を反対側に逸らす。

「ならいいけど」

フフ、と笑って彼女は自分のベッドへと戻る。

夜通し作業をしてからの空戦、部屋に戻ると安心しきってしまいあくびが出る。

「いいよ寝てても、何かあったら起こすから」

「いや、でも...、ふわぁ〜...」

水咲さんに申し訳ないと思いつつも体は正直であくびは止まらない。しかし、彼女も眠たいはずだ、甘えている訳にはいかない。それに、俺、隊長だし!

なんて思っていたがそこで記憶は無くなった。



彼はスースーと寝息を立てながら寝ている、飛行服のまま靴も脱がずに。空はかなり神経を使うし、夜通しの穴埋め作業で疲れきっているはず。それでもよく生きて帰ってきてくれた。

途中で参戦した艦載機の1人は残念だけど、あの乱戦だとどうしようも出来ない。これは戦争だ、割り切るしかない。

コンコンコン。

ドアがノックされる。誰だろうと、重たい腰を上げてドアを開けた。

「あ、どうも」

目の前に人の壁がある。わっ!とびっくりして上を見上げると艦載機のパイロットだった。中尉の階級章が見える。

「先程は、つい感傷的になって...。あ、部屋の場所は整備員に聞いて」

なんだ、意外と良い奴じゃんと私は安心する。剣くんなら疲れて寝いていると伝えると、彼は少し残念そうにして。

「わかりました。では、また」

と、どこかへ歩いていってしまった。

剣くんはカワイイ系だけどあの人はカッコイイ系だったなぁと思いながら見送る。

ドアを閉めて自分のベッドに戻ると、うーん、となんだか剣くんがうなされている。顔をちらっと覗くと、涙が一線垂れていた。それを私は指で拭いてあげて、うつ伏せに寝る彼の背中をトントントンと優しく叩いた。



8月8日。

昼前。

《搭乗員集合、作戦室》

水咲さんに起こされた。

俺はヤバい!と飛び起きて必死に謝る。寝たというかもはや気絶に近かったのだが、申し訳なさでいっぱいだ。しかし、彼女は大丈夫大丈夫と満面の笑みで俺の頭をポンポンと叩く、不甲斐ない自分に悲しくなる。

そして、俺達は司令部地下にある作戦室に向かった。最近では模擬戦のブリーフィングとかで使っていて、部屋には大きなモニターもある。

俺達は最後だった、シエラ隊の2人は既に席につき、最終訓練が終わっていないひよっこが4人端っこに座っている。

シエラ隊の隣りに座った。

「なんでしょうかね?」

水咲さんが声をかけたのはシエラ隊隊長の荒木柊あらき しゅう大尉、歳はたしか31歳、筋肉質で肩幅が広く大柄、角刈りで土方の現場監督にいそうな面構えだ。その隣にいるのは2番機の賀東輪(がとう りん)少尉、25歳で荒木と比べれば細身だが言ってみれば長距離選手のような体つき、背はそれほど高くなく俺と同じぐらいで、髪型はベリーショートだがちょっとくせっ毛がコンプレックスらしい。基地のみんなからはリンくんと呼ばれている(俺は年下なのでリンさんと呼んでいる)

「さあな」

と短く答えた荒木さんは俺の方を見ると。「おお、笹井!お疲れ」と言って拳を突き出す。

「あ、ありがとうございます」

俺も慌ててこぶしを出してグータッチをし、リンさんとも笑顔でタッチした。

それを間で見ていた水咲さんはクスクスと笑う。

そうこうしていると、司令が入ってきた、後ろにはあの艦載機のパイロットがついてきている。

俺達は1度起立し司令に敬礼をする。

「お疲れさん、座って結構」

司令の野太い声が部屋に響き、俺達は席につく。

「彼は、ソリュー艦載機の黒木真(くろき しん)中尉だ、彼の機体は破損してしまってしばらくはここで生活してもらう。この件は以上」

彼は一礼して席に着いた。そして次の話題に進む。

「状況は思わしくない、迎撃を行った第2艦隊は半壊、ソリューは中破し内海のドッグに向けて曳航されている。それに、迎撃を突破した爆撃機はアバシ基地を空襲、被害の程度は分かっていない」

マジか...。それしか出てこない、あの容赦のないドローンの襲撃には耐えれないだろうが、ソリューがやられたのは痛い。

エルゲートには空母が6隻存在する。第1艦隊の「コリュー」「セキリュー」、第2艦隊「ソリュー」、第3艦隊「ウリュー」、第11艦隊「リジョー」、第12艦隊の「ヒジョー」だ。

所謂、リュー型空母は大型原子力空母、艦載機は約70機。ジョー型は護衛空母で艦載機は約30機。あとは航空機搭載型の強襲揚陸艦が4隻いる。

しかし、アバシが...、あそこには水咲さんの元同僚がいたはず。

ちらっと水咲さんを見るが真っ直ぐと司令の方を向いたままだ。

「吉田中尉の機体は明日には修理が終わる。荒木大尉、賀東少尉や若いヤツらの機体は損傷が激しい、3日後に本土から補充の機体がくる、それまでは待機。黒木中尉の機体は1週間後に第3艦隊がこの付近に展開される。その時に機体は補充されるように頼んであるが、配属はどうなるかまだわからん」

仕事の早い司令で助かる、水咲さんの機体は明日には直るのか、制空権が無いに等しい今、俺だけだとさすがに無理だ、エレメントが組めるだけで気持ちが違う。しかし、他の補充が早くても3日後か、何も無いことを祈ろう。

「滑走路の修理も陸軍のおかげて明後日には完全に終わるだろう。以上、解散」

みな立ち上がり司令に敬礼し退室して行った。

「あーあ、3日後かよー」

「まあまあ」

荒木さんが両手を頭にやり投げやりな感じで出ていき、それをリンさんがなだめていた。

「大尉だったんですね」

俺も帰ろうとすると、黒木が目の前にいた。また殴られるのかと内心オドオドする。水咲さんは俺の後ろに立っている。

「いや、先程は感情的になってすみませんでした。ただそれが言いたくて」

なんだ、意外と良い奴じゃん。と安心する俺、根に持つタイプでもないので。

「大丈夫ですよ」

階級は上だが多分自分の方が年下なので一応敬語で返す、それを不思議そうに黒木は首を傾げ。

「え、笹井大尉っていくつですか?」

「20歳...」

「えぇぇ!!」

驚きすぎて後ずさりする黒木。あと、特務大尉ですからね、と念付けしておく。

それから少し話をした。黒木真中尉、26歳、水咲さんと同い年だ。ソリューではそれなりの成績を残していて、撃墜されたもう1機の小田亮おだ りょう中尉とエレメントを組んでいた。ソリューに配属された2年間ずっと相棒だったので、覚悟はしていたがついカッとなって俺を殴ってしまったと。(あと、危なっかしい飛び方をしていたからとか)

「これからお願いしますね」

そう言って彼は部屋を出ていった。

「意外と感じのいい人だったね」

「そーだね」

水咲さんはニコニコと肯定してくれる、俺も少し笑う。

「あ、アバシが空襲されたって...」

話は変わってしまうが水咲さんの同僚がいるはずのアバシ基地への空襲、一応聞いておく。

「うん、大丈夫だと思いたいけど...。戦争だから...」

戦争か、昨日そこにいた戦友は明日にはいないかもしれない。分かってはいるが、それで割り切れるかは個人次第だ。家族より一緒にいる時間が長い、何かあったらそう簡単には心の整理はつかないだろう。しかし、彼女は既に1人の戦友を亡くしている、今まで取り乱した所は見たことはない、強い人だとおもう。

水咲さんは俺が死んだら悲しんでくれるかな、戦争だからと割り切るのかな、ふと変なことを考えてしまう自分がいた。

「きっと大丈夫だよ」

重い気分を打ち消すようにあえて明るい声で水咲さんに言う。彼女も「そうだね!」と二ー、と笑いながら答えてくれた。


3日後。8月11日。

それから運良く何事もなく滑走路の修理が終わり、荒木さん達の補充の機体も到着し駐機場に停っている。青迷彩のF-16が6機、彼らが乗りなれた機体だ、他の格納庫の修理がまだ終わってないので雨ざらしの状態だが大丈夫だろう。

そして俺は1人でいそいそと格納庫で鼻歌を歌いながら作業をしていた、航空機用のペンキを持って。

「何してるの?」

は!見つかってしまった!ちょうど今、作業が終わったところで、振り返ると水咲さんが不思議そうにこっちを見ている。

「いやー、ちょっと...」

誤魔化すにしても時すでに遅し。

「あ!」

水咲さんは気づいたようだ。

俺のF-35の垂直尾翼に黄色の一本線が描かれている。俺は照れながら機体から降りた。

「いや、ブルー隊ってずっと俺1人だったから特に考えたことなかったんだけど。識別マークがいるかなって。それで、水咲さんの黄色の一本線がカッコイイと思って...」

恥ずかしくて頭をガシガシと掻き説明しながら水咲に近付く、本当は完成してから見せたかったんだけど。

「はうっ!」

不意に水咲さんが抱きついてきた、あまりにも急なことでどうしたものかと両手を震えさせる。胸が当たってます!なんか凄いいい匂いがします!勘違いしちゃいます!血圧がグーンと上がる。すると、すぐに離れて俺の頭をぐしゃぐしゃとさする。

「ありがと」

水咲さんの目には涙があり、しかし、太陽のような満面の笑みで笑っている。俺はまた恥ずかしくなって頭をポリポリと掻く。

「なに赤くなってるのよ」

普通なるでしょ!とも言えず。いや、とボソッと言って少し顔を逸らす。

そして、水咲さんは俺の機体に更に近づき垂直尾翼をじーと眺める。

「カッコイイね!」

また、眩しい笑顔でこちらに振り向く。

俺も競うように笑顔で頷いた。


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