第3話 空(から)
まさか、積乱雲の中に爆撃機が潜んでいるとは誰も考えはしなかった。今考えると偵察機は陽動だったのか。ローレニアの爆撃機が潜む積乱雲は運良く端島上空を通過し縦断爆撃の雨あられ、格納庫は半分やられ、滑走路には大穴がいくつも空いている、兵舎に当たらなかったのが不幸中の幸いだったが、陸軍の兵士が何名か亡くなったらしい。
たまたま、1発の爆弾が弾薬を満載にしたトラックに直撃し周りにいた兵士が巻き添えを食らったのだそうだ。
また、俺の機体は無事だったが他の機体は破片やら格納庫の倒壊やらですぐには使い物にならない状態。まあ、滑走路が使えないからどの道同じかとも思う。
そして、夜通し急ピッチで滑走路の復旧作業が行われることになり部屋の片付けを早々に済ました俺は今、トラックの荷台に乗っていた。
土砂を満載にした作業用の中型トラック、運転は水咲さんがしていて陸軍兵隊の2人と一緒になり荷台に乗っている。美人な水咲さんがトラックを運転出来るのは意外だったが、様になっていてなんだがカッコイイ。
バンバン。
陸軍さんが車体を激しく叩き車1台分の大穴の横にトラックを止める、今からここを埋めるのだ。
「骨が折れそうだ...」
このトラックはダンプカーではないので荷台は傾かない、ここを手作業で埋めるのだ、他の重機は滑走路本線に空いた大穴を埋めるため奔走している。
「やろっか」
水咲さんは軍手をはめて準備万端、俺もスコップをとり陸軍さんと4人で作業を始めた。
何時間たったろうかトラックを何往復かさせてやっと穴を埋め終わった、砂を多く盛りこれから固めないといけないのだがロードローラーは出払っている、どうするのだろうか。
陸軍さんが無線で何やら話している。
「今から地面を慣らしますんでちょっと離れててください!」
若そうな彼はそう言って滑走路の方に走っていった。どーやって??と待っていると。
キュルキュルキュル。
履帯を鳴らしながら対空戦車がやってきた。
「マジか」
水咲さんと顔を見合わす。
確かにこの機関砲を2門を搭載した対空戦車は車重40トン以上ある、ロードローラー代わりにはちょうどいい、のか?
そして、戦車が俺たちが埋めた穴を前後に行ったり来たりして地面を鳴らしていく。
ウーーーー...。
突如、島にサイレンが鳴り響く。
《空襲警報、空襲警報。レーダーに大型機30機探知、方位290、高度10,000》
戦車が砂埃を巻き上げながら陣地へと向かい。俺達もトラックに乗り込み防空壕へと急ぐ。
こんなにもどかしいことはない、迎撃に上がれないパイロットは役立たずだ、ただただ祈ることしか出来ずぐっと身構える。ふと、水咲さんを見ると不安そうな顔をしていた、だが掛ける言葉も見当たらず、どうしてあげることも出来なかった。
空襲警報から1時間は過ぎただろうか何も起こらず、しかし、空襲警報はなかなか解除されない。
《本土司令部より緊急信受信、本土西海岸全域に空襲警報、第2艦隊が先程と同一目標と思わる目標と接敵しこれと交戦中》
ああ、やっぱり。と言うのが素直な感想、迎撃機も来ないんじゃ本土まで飛びますはな。しかし、第2艦隊が接敵したようで良かった。
『 第2艦隊』
空母1隻、ミサイル巡洋艦1隻、ミサイル駆逐艦4隻、フリゲード艦2隻からなるエルゲート海軍第2空母打撃群、通称『 第2艦隊』旗艦は空母「ソリュー」だ。
空母打撃群に発見されたからには敵も生きては帰れないだろう。
そして、一旦空襲警報は解除される。ずっと隠れている訳にはいかない、早く滑走路を直さなければ。
「さてと、続き頑張りますかぁ」
俺は再びスコップを持ち穴詰め作業に戻る。
それからまた2時間ほど経っただろうか。
《空襲警報、大型機10機探知、方位040、高度8,000!》
ローレニアの爆撃機が帰ってきたようだ。数が減っているが第二艦隊があらかた仕留めてくれたのか、それとも遅れているのか。
《笹井特務大尉、搭乗員待機室急げ》
え?、俺呼ばれた??キョロキョロすると基地のみんな俺を見ている。急がないと!スコップを砂山にぶっ刺して走り出そうとすると、すぐ側でトラックが砂埃を巻き上げながらズザーっと止まる。
「剣くん乗って!」
わぁ、なんかカッコイイ。そんなことを思っている場合じゃない、俺は素早く助手席に駆け上がりドアを勢いよく閉めて搭乗員待機室のある兵舎向かった。
中に入ると飛行隊司令の副官が待っていた。
「長話している暇はない、滑走路だが1200メートルは確保した、安全は確保されないが迎撃に上がってもらう」
滑走距離としては多分大丈夫、着陸距離としては微妙な長さ、それに埋め立てホヤホヤ危険極まりないのだが。
「全機撃墜しろなんて言わない、ここの滑走路はもう直ったんだと見せつけるだけでいい。機体は準備させている」
「了解しました、では。」
言葉短く俺は了解し、待機室を足早に後にし裏の更衣室で飛行服に着替え、格納庫に走った。
※
格納庫から駐機場に戦闘機が出てきた、宙の向こう側、深い深い青色の機体、通常のエルゲート青迷彩とは深みも違うしオーラも違う。
彼はここから飛ぶみたいだ、突貫工事で凸凹な滑走路を。ラダー、ノズルを上下に動かし飛行前チェックをしてキャノピーがゆっくりと閉まる。
彼の2番機である私は機体に破片が直撃しすぐには飛べない、苛立つ気持ちで奥歯がギリッとなる。
「ちゃんと帰ってくるんだよ」
静かに祈るしかなかった。
※
《システムチェック...、オールグリーン...、離陸許可お願いする。》
よし、全て異常なし。俺は前を見ると滑走路の両脇に人や重機が退避している。
《了解、ブルー1。離陸を許可する、無理はするなよ。》
俺はその言葉に答えず、エンジン全開、朝日が眩しい空に飛び上がった。
高度9,000メートル、眼下に爆撃機を視認した。プロペラエンジンが翼に後ろ向きに付いていて不思議な機体だ、今のところ護衛の戦闘機は見当たらない。
「あれは、B-36か?どうしてあんな古い機体を」
まさに骨董品、半世紀前に飛んでいた機体だ。しばらく見たという話は聞かなかったのでとっくに退役したと思っていたが。
しかし、あれには対空兵器はついていないはず、あわよくばと遠AAMを放つ。
《ヘッドオン!ブルー1、フォックス3!》
放たれた4発のミサイルは真っ直ぐ爆撃機に向かって進んでいく。
4本の白い線が一直線に爆撃機に向かって突っ込んでいく。それを視認しているであろう爆撃機は回避行動をとらず、また、使い切っているのかフレアも噴射しない。するとミサイルが向かう爆撃機から何かが投下される、各機3つ落としただろうか。
ドドドドーーン...。
投下し終わった直後にミサイルは爆撃機に命中、炎を上げながら落ちていく、それを遠目に通り過ぎようとし投下された物を見るとクルっと一回転し翼を展開させた。
《ドローン!?》
エンジンを点火させ青白い炎をノズルから吐きながらドローンは加速し、ありえない機動で旋回。いつの間にか俺の後ろにピッタリとくっついていた。
《おい、マジかよ。》
後ろをちらっと見る、他の爆撃機もヒラヒラと同じものを落としている。10機全てから3機落としたとしたら30機、これはまずいな、ゾクゾクと寒気がする。
《ボサっとしてんじゃねぇ!こっちに来い!》
どこからともなく声が聞こえる、レーダーを見ると味方機が2機方位040度から高速で近づいてくる。俺はとにかくエンジン全開、呼ばれた方に急ぐ。
2機がすれ違いざま両脇スレスレを飛び抜ける。機体は青迷彩で垂直尾翼に2本の赤線が描かれたF/A-18、彼らはすぐさま機銃掃射を開始。俺はクイッと右旋回し後方を確認すると4機が爆破発四散、それの爆発に巻き込まれたのだろうか他のドローンも3機ほど遅れて墜落していく。しかし、ドローンの方も頭は悪くないようだ、一気に散開し、また俺達の後ろにつく。俺には8機、F/A-18に残りが付いて回っている。
《赤線2本...、ソリューの艦載機ですか?》
赤線、エルゲート海軍の艦載機マークだ、本数によって第何艦隊所属かがわかる。2本ということは近海に存在する、第2艦隊ソリューに間違いなさそうだ。
《そうだ。いいか、奴の攻撃方法は自爆だ!絶対に追いつかれるな!》
いやいや、ご冗談を。俺は、思わず笑いたくなる。あのドローンはそれなりに大きい、あんなものが近距離で爆発したんじゃただでは済まされないだろう。しかし、彼らはシザースを2機で上手く行いながら近ずけないようにドローンを振り回していた。
クソ、どうしたものか。俺の方は全く後ろを取れず、近づかれれば爆発するドローンを背に考える。
《あ!管制、地上スレスレを飛ぶので対空戦車で迎撃をお願いします!》
これが、現実的だろうか。艦載機の2人は1人が追われ役になって後ろについたドローンをもう1人が落とすこともできるだろう、それを初見の1機を加えた3機でやるとなると難しい。
《了解、陸軍には伝える。降りてこい!!》
俺は島に向かって一気に急降下を始める、何も知らないドローンはおいそれと付いてくる。
綺麗な南国の離れ小島、海は透明度高く海底が見え、エメラルドグリーンに輝いている、島の中央には滑走路がドンと存在し対空戦車の姿が見えた。
高度20メートル、海面上を水しぶきを上げながら島の滑走路近くに陣取る対空戦車に向かって突っ込む。
《頼みますよ、陸軍...》
島に差し掛かり5両の対空戦車がこちらを睨んでいる。すると、砲口が光る。
ヒュンヒュンヒュンと音を立てながらすぐ側を銃弾が駆け抜ける。俺は怯むことなく戦車の上を通過、一気に機首を上げて上空へ逃げる。
ババババン!
何回爆発したのだろうか操縦桿が揺れる、地上では数箇所で炎が上がっている、後ろを覗き込み、レーダーを確認すると追ってきているはずのドローンの姿はなかった。
《ヒューーー》
俺は思わず口笛を吹く。ハッと我に戻り少し恥ずかしかった。
上空を見ると艦載機の2人は依然ドローンに追われている。助太刀せねばとエンジン出力をあげたその時。
バァン!ドーーン...
2回の爆発が起こる。
それは遠目でもハッキリわかった。ドローンが隙を付いて一気にF/A-18に接近。刹那に自爆、衝撃に耐えきれず破片をもろに食らったF/A-18は瞬時にエンジン部分が爆発、黒煙を上げながら落ちていく。しかし、まだドローンは墜落していく機体を追っている。
ドドドドーン...
続けざまに4機が墜落していく機体に衝突自爆、全てが吹き飛び小さな破片だけがヒラヒラと落ちていく。ドローンが爆発した炎に反応したのだろうが、あまりにも酷い。
《クソ野郎がぁぁぁ!!》
悲鳴にも聞こえるもう1機のF/A-18のパイロットの声。彼は覚悟でもしたかのように一気に減速し機首を上げる、その軌道について来れなかったドローンは彼を追い越す、距離が遠かったのか自爆もしない。機首を水平に戻しエンジン全開にした彼は3機を続けざまに機銃掃射で落とす。見事なコブラ機動だ。俺は、まだ彼の機体に近接し付きまとう残りのドローンに向かってミサイルを放った。
ドーーン
また、空に爆発音が轟いた。