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ブルー・スカイ  作者: 嶺司
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第29話 守りたかった人

剣くんはいつも無茶をしていた、あんな危ないこと、私だったら絶対出来ない。

しかし、それでも彼は躊躇せずにやってしまう。

それは誰のためなのか、私のため?啓ちゃんのため?リュウちゃんのため?自分のため?

それは分からない。

啓ちゃんは彼が無茶をする度に、プンプンと怒っている。そりゃね、大切な人だもん。


9月初旬。


今日も剣くんは、啓ちゃんに怒られていた。

「隊長、無茶はしないでください!何度目ですか!」

多分3回目だ、初回は敵機に落とされそうになって、啓ちゃんに綺麗にみぞおちを殴られていたし。

2回目は、敵機を全て1人で落として、怒られ。今回はドローンとの戦いで、彼は囮をしていた。

怒られてはいるが、今回はまだ手を出されてはいないようだけど、彼はシュンと落ち込んでしてしまっている。

「…ごめん」

「もっと私たちを頼ってください」

「……」

剣くんの返事を待つことなく、啓ちゃんはプンプンと足音大きくその場を後にして、部屋の方へと向かっていく。

さてと、私がフォローしてあげないと。

「大丈夫?啓ちゃんの言う通りだよ」

シュンとした彼の肩を叩く。

「でも…」

泣きそうな目で私を見る剣くん、どうしたのかな?

「水咲さんと、啓は俺が守らないと…」

彼のサラサラな髪の毛をクシャクシャとする。そんなことを考えていたのか、私達が剣くんを大切に思っているように、彼も私達の事を大切に思ってくれているようだ。ホント、剣くんは優しい。

「ありがと、でもね…」

私は、啓ちゃんの言うように、もっと頼ってくれてもよかった。私だって、隊を率いたことはある、腕には自信はあったし、啓ちゃんも日に日に実力を増している。でも、彼は私の言葉を止めた。

「水咲さん、俺は死なないよ」

剣くんは格納庫の外、どこか遠くを見つめてそういう。たく、彼は意外と頑固だ、死なないと言ってくれるのは私のため、それは嬉しいのだけど、心配してしまう。いつか、私たちを守るために彼がいなくなってしまうのではないか、時々そう思ってしかたがない。

彼が死ぬつもりがなくても、どうなるかは分からない、これは戦争だ。死なないとは言いつつも、私達が危険な状態にあると、剣くんは私たちを守るために手段は選ばないだろう、それがどういう結果になろうとも。

だから、私は1日1日を大切に生活したい。

「行こっか、啓ちゃんも待ってるよ、きっと」

私は彼の手をとって部屋へと帰った。



剣くんは私の目の前に座ってる、その隣には水咲さん。

何をするでもなく座っているけど、時々目が合う。

「なんですか?」

「いや、なんでも…」

挙動不審な剣くん、言うことがあるならさっさと言ってくれればいい、さっきキツく言ってしまったからちょっと躊躇しているのか。

しばらく沈黙が続く。

「俺は…」

彼が口を開いた、俯き気味で顔はあまり伺えない。

「俺は、啓も、水咲さんも大切だと思ってる、これからも無茶はすると思う。だから、そんな俺を守って欲しい」

なにを言っているんだか、私達を守るために自分が無茶をするから、そんな彼を私達が守れだなんて。言いたいことは簡単だ、剣くんが敵を引き付けるから、私達がそれを対処したらいいのだろう。前もこれからもそんなに変わらない。

ホント、無茶な人だ。

「当然です、隊長の後ろは私が守ります」

私は淡々と答える。しかし、その言葉を聞いた剣くんは嬉しそうに少し笑って頷いていた、水咲さんも。

「もちろんだよ」

と、ニコニコと答えて剣くんの肩を叩いている。


ウゥゥゥーーー…。


基地にサイレンが鳴り響く。

《敵機探知、戦闘機隊スクランブル急げ!》

私達は目を見合わせて、駐機場へと急いだ。

隊長が先に上がっていく、続いて水咲さん、そして私。

少し遅れて、黒木さんや、翼くんも上がってきた。

《小型目標多数探知中、方位240、シエラ隊も上がらせる》

管制の言う通りレーダー画面上多数の目標が映っている、いや、多数どころではない無数だ。

《シエラ1からシエラ2、3、4、さっさと離陸するぞ、上がったら高度2500まで上昇しろ》

荒木さん達も上がってくる、彼らは離陸するやいなや私達より高度を上げていく。

《おいおい、多すぎだろ…》

剣くんが視認したみたいだ、私も南西の空を注意深く探る。キラっと太陽の反射が見えた、とんでもない数だ。

《うーわ…》

《何機いるの…》

黒木さん、翼くんも言葉を失っている様子。それもそうだろう、南西の空は小さな機体で黒く埋め尽くされている。ざっと50機位はいるのではないだろうか。

これは、多少の被害を覚悟しないといけないだろう。

《敵が多すぎる、陸軍を配置に着かせる、当基地到達までに数を減らせ》

《ブルー隊、了解》

《オメガ隊、了解!》

《シエラ隊、了解。ひよっこ共、死ぬなよ》

私たちは、無数の小型機と対峙する。先頭に剣くん、左に水咲さん、右に私。その少し右に黒木さんと翼くん。そして、私達より上空に荒木さん達。

《陸軍が地対空ミサイル攻撃を行う!》

管制が言うとすぐに、端島から白い線がいくつも上がる、陸軍のペトリオットミサイル攻撃だ。本土防空のために最近追加で配備された、早速役にたっている。

ミサイルは後方からすごい勢いで私たちを追い越して、無数に広がる敵機に突っ込んでいき、ドドドンと至る所で爆発、黒煙を上げて落ちていくが減った気がしない。

《ん?ドローンかよ…》

剣くんの言う通り、敵機はミサイルを避ける気配がなかった、それは人が乗っていないからだろう。それに、敵機に近づくと、戦闘機にしてはやけに小さく見える、ドローンに間違いない。

ドローンとの距離が、どんどん詰まっていく。

《ブルー1から各機、交戦許可、全兵装使用許可、各個に攻撃始め、ブルー1交戦!》

《了解、ブルー2、交戦》

《ブルー3、交戦します》

《オメガ1、交戦する!》

《オメガ2、交戦っと》

《シエラ1、交戦。リン、ひよっこを頼む》

《シエラ2、了解。3、4ついてきて》

《シエラ3、りょ、了解です!》

《シエラ4、こ、交戦!》

オメガ隊は散開、シエラ隊は荒木さんが単機、リンくんがひよっこ2人を連れて飛び、敵大編隊に剣くんが突っ込んでいく、私と水咲さんはそれを追う。

私たちには出来ない機動をとって彼は飛んでいた、それは機体の性能にもよるが、私達が彼と同じ機体に乗っても、あんなグルグルとは飛べないだろう。彼は縦横無尽に飛び回り、一瞬の隙をついて次々とドローンを落としていく、

《もう…》

無茶をするなと言ってもなんだかんだ理由をつけては戦う剣くん、思わずため息混じりの声が出てしまう、これは諦めて守ってあげるしかないかな。

《ありがとう》

剣くんも申し訳なく思っているのか、そうやって私達に声を掛けてくれる。

彼に守って貰うために、私達が彼を守らないと。



夢を見ていた。

まだ、剣くんと一緒に飛んでいた頃の。

時計を見るとまだ夜中の2時、最近よくこの時間に目が覚める。

ふと、体を起こして視線を右にやる、そこにあるのは剣くんが寝ていたベッドだ。

何やら布団がかけられていて、膨らんでいるように見える。おかしい、布団やシーツは畳んであったはず。

「え?」

剣くん?

そんなことは無いと分かっているけど、体が勝手に動いて確認してしまう。

豆ライトを付けてベッドから立ち上がり、剣くんのベッドにある膨らんだ布団を捲ってみる。

「啓ちゃん……」

そこで眠っていたのは啓ちゃんだった。

剣くんは、ベルツィオに行く時にシーツは剥ぎ、綺麗に整頓してから行っていた。彼の匂いも温もりも残らない綺麗なベッドで啓ちゃんは眠っている。

「剣くん…」

啓ちゃんの寝言だ、彼女は枕をギューッと抱きしめて、閉じられている目からは、一筋の涙が流れている。

剣くんを撃墜したのは私だ、私のせいで啓ちゃんは辛い思いをしている。

食事はほとんど取っておらず、無理やり一緒にお風呂に行っても日に日にやせ細っている気がしたが、私はどうしてあげることも出来ない。

荒木さんや、リンくんが気にかけて何か話しかけても少し頷くだけで、反応は薄い。

「……」

ベッドの傍で膝をついて、啓ちゃんの涙を指で拭う。

悲しいのは私だって同じだけど、啓ちゃんも剣くんが好きなことは知っていた。聞く気はなかったんだけど、以前そんなことを言っているのが聞こえちゃって。

でも、私も剣くんの事が好き。初めは弟みたいでほっとけないなって感じだったけど、次第に一生懸命な彼に惹かれていった。

しかし、彼はもう居ない。

「ごめんね…」

感情が堪えきれなくなって、眠る啓ちゃんの横で目から涙が溢れる、拭っても拭ってもそれは止まらない。

彼は私達を守るために被弾した啓ちゃんと私を基地に帰して、単機で敵と戦い、敗北。

そして、どういう理由なのか、終戦した静かな空に敵機として戻ってきた。

それを、何も知らない私が撃墜した。

悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。

「……水咲さん?」

啓ちゃんが、目を開けてこちらを見ている。

私は止まらない涙を拭う。

「…ごめんね、起こしちゃった?」

「いえ…」

首を振って彼女は起き上がる、あまり涙は見せたくなかったんだけど全然止まらない。止まれ止まれと、両手でそれを抑え込む。

「水咲さん…」

啓ちゃんが私を呼んでいる、やっとのこと押さえ込んだ涙が再び流れないように、「なに?」と硬い笑顔で啓ちゃんを見る。

「ごめんなさい…」

「…なんで謝るの?」

啓ちゃんは大きく息を吐いて、何かを決意したかのようにジト目をキリッとさせハッキリと言う。

「私、強くなります。いつまでもこんなんじゃ、剣くんも心配すると思いますから」

「…そうだね、強くなって、剣くんが心配しないように頑張らないと」

いつまでも、悲しんでいたんじゃ前に進めないし、このまま悲しんでいるのは剣くんも本望じゃないだろう、せっかく彼が守ってくれた命。

強くなって彼を見返そう。

そう、心に誓い、2人抱き合い。

またひとしきり泣いた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 久々の啓ちゃんがとにかく可愛かったです。 啓ちゃん強くなってください。 [気になる点] 啓ちゃん痩せちゃって大丈夫でしょうか [一言] 剣くんの使ってたベットで寝てる啓ちゃんかわいいなと思…
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