第28話 代わり
ローレニアの難民たちと合流した。
そして、俺は白崎に言われた、協力者ニグルム・サマーオと言う人物を探す。特徴は黒っぽいコートを着たちっこい奴、としか聞いていない。
「いや、人多すぎ…、どこにいるんだよ…」
俺は薄暗い中に何百という難民たちの中にいる、早く探さないと一行は出発してしまう、どこだどこだとそれっぽそうな人を探す。
クイクイッ。
後ろから、コートを誰かに引っ張られた。
ん?と振り向くとすごく小柄、150cmぐらいの人が立っていた。
「ソラさんですね?」
声も高い、子供?少年?コートのフードは深く被り、マフラーのような物を首元に巻いて素顔は伺えない。
「あ、ああ…」
え?この子?と思いつつも返事をする、いざ他人にその名前を呼ばれると、なんだかむず痒い。
「ニグルム・サマーオです、シロさんから話は聞いています。アルサーレまで案内します。」
「あ、ありがとう。よろしく」
マジか、越境だけ連れてってくれるものだと思って、アルサーレまで一人で行く気マンマンだった。しかし、この子で大丈夫なのか?
「まもなく、越境です。グレイニアは独立で混乱しているので、国境管理は甘々ですから、危険はないと思います」
おお、よかった。渡った瞬間、機銃掃射とかたまったものでは無い。まあ、心配がないから白崎はここに連れてきてくれたのだろう。
この子も話し方からしてしっかりしている、大丈夫だろう、多分。
すると、周りがザワザワと動き出した。
「行きますよ、離れないでください」
「ああ」
俺は歩き出す。どこの誰かわからない人、いや、少年?について行くのは少々はばかられるが、俺は1度死んだ身、生きる可能性があるなら賭けてもいいと思った。
俺たちは無言で難民たちと共に荒れた地面を歩く、話しかける話題もなかったし、何よりお腹が減って力が出ず、歩くことに精一杯だった。
(クソッ、腹減った…)
白崎の野郎、レーションをもっとくれれば良かったのに。命の恩人に文句が出てくる、車内で食べたには食べたが、バータイプのレーションを何本か、しばらくまともに食べてなかったのであれだけでは腹が減る。あいついわく、急に食べると体に悪いとか言ってたけど、腹が減っては戦は出来ぬ、だ。
すると前を歩くニグルムが口を開く。
「越境が終わると食事にしましょう。パスポートは持ってますよね?街に入ってしまえば、それがあれば安全です」
俺の空腹を察してくれたのか、そう言ってくれる。あと、2時間程歩けばグレイニアに入って国境の街アーガセにつく、難民たちは目立たないように他の小さな町にバラバラになって向かうらしい。
「わかった」
俺はそれを希望に歩く。
やっとの思いで国境の街、アーガセについた。
ここはローレニア地区と、グレイニア自治区の交通の要として発展してきた街だが、人口はそこまで多くなく、街全体で20万人ほど。今はローレニアからの、一方的な連合解消による独立で街は混乱していた。
「あそこに行きましょう」
ニグルムに連れられて、大衆食堂のような所に入る。
ちょっと小汚い所だが、贅沢は言っていられない。
とりあえずは、今後の話し合いだ。その前に食事を注文する。
席について一息つく。
「疲れた、腹減った…」
小さな売店のような所で買ったミネラルウォーターを、ガバガバと浴びるように飲む。
美味い、生き返る。
ぷはぁーー、とペットボトルを机に置くと、いつの間にやらニグルムがフードを脱いで、静かに水を飲んでいた。
真っ黒な真ん中分けのショートヘアに、華奢で褐色の肌、まだ幼い顔だが目がキリッと鋭く、歴戦の戦いを切り抜けてきた猛者の様な目力だったが、しかし、どう見ても10歳から15歳ぐらい、一体何者なんだ。
「なんですか?」
俺がジロジロと見ていたことに気づいて、少し怪訝そうな顔で俺を見る。俺は、この際なので素直に聞いた。
「君、いくつ?」
「え?ああ、任務に関係ないので秘密です」
「えっ…」
なんだって、素性を隠すとはまさにスパイのやり方っぽい。ん、待てよ?この子、白崎と同じスパイなのか?協力者ってことはその可能性もある、その幼さで大したものと言うべきなのか、可哀想と言うべきなのか。
「今後の行動についてですが、お昼に電車に乗って、首都、イスタンに向かいます。そこで1泊してバスを乗り継ぎ、3日かけてアルサーレへ向かう事になります、ダイヤが通常ならの話ですが」
「わかった」
意外と短い旅のようだ、もっとかかると思っていたが、拍子抜けだ。まあ、楽に旅ができるのには越したことはないけど。
そして、注文した料理が届き、俺はがっついた。
その料理はとても美味しくて、むせてしまう程、ニグルムはちょっと引いていたようだったけど、そんなのは構っていられない、俺は夢中で食べていた。
俺達は電車に乗って、夜に首都イスタンに到着した。
ここまでは順調だ、なんの問題もない。首都まで来ると国境の街のような混乱は少なくいつも通り、と言った感じで、人々は忙しそうに歩き回っている。
端島でのほほんとしていた俺からしてみれば、みんな、何にそんな急いでいるんだろうかと不思議に思う、いき行く人を見ては酔ってしまいそうだ。
「宿はすぐ近くのホテルを取りましたので、行きましょう」
明日は、昼過ぎに駅横にあるバスターミナルから出る、1日1本のバスに乗ってここから東の町に行く。観光とかする訳でもないので、早くホテルのフカフカなベッドでゆっくりしたい。
ついたのは石造りのちょっと高そうなホテル、いや、玄関にボーイが立っている、間違いなくお高いところだ!
そこから、自動ドアにすればいいのに、と思わんばかりにどデカいドアを、ボーイさんが開けてくれて中に入る。
天井にはシャンデリアが吊るされ装飾もかなりオシャレ。スゲー、と見回しているとニグルムもキョロキョロしている、ん?もしや?
そして、ニグルムがテキパキとチェックインを済ませて部屋に入る。そこら辺のビジネスホテルとは、比べ物にならないだろう豪華さだ、ツインベッドに枕がそれぞれ4つもある!
俺は年甲斐もなくベッドに飛び乗った、ふかふかで気持ちいい、この前まで寝ていた石のベッドはなんだったんだろうか。夢だ、夢に違いない!そう思えてくる。
はぁー、と夢見心地で、ふと隣のベッドを見ると、ニグルムも同じようにしていた。
「1回泊まってみたかったんですよねぇ!シロさんが多めにお金を送ってくれて」
凄いルンルンで話している、やっぱりまだ子供だな。嬉しさが全身から出ている。
「は!」
無意識で言っていたのか、緩みきった顔をキリッと元に戻してベッドに座る。いや、もう遅いから。
「白崎…、シロとはどういう関係なの?」
教えてくれるかは分からなかったが、俺もベッドに座り直して聞いてみる。歳も秘密にされたし。
「簡単に言えば仕事仲間ですね、僕は地方の担当で、シロさんは海外担当です」
やっぱりこの子もスパイなのか、自国内の地方でスパイ活動とか、不穏分子の始末をしてそうで怖い、そのコートの中にも隠し武器があったり…。いや、考え出したらキリがない、やめておこう。
「僕の仕事は、例えばぁー、暗殺とかですかね」
どこから出したのかナイフのようなものをクルクルと回している。え、怖っ、ほとんど予想通りじゃん。
「シロさんから、僕の親友を頼む、って言われてるので。ソラさんは僕が守ります、安心してください」
安心していいのかな?ちょっと怖い。いや、てか、子供に守られる訳にはいかない、これでも俺は軍人だ、多少の護身術ぐらいはできる。でも、親友か、小っ恥ずかしいな。
「あ、ありがとう」
そして俺れは、疲れきっていつの間にか眠りについていた。
翌日。
そこからが長い日が続いた。
早朝、バスターミナルで、爆発事件?事故?が起こり全てのバスが運休、電車も止まってしまい、公共交通機関はダウン。ニグルムが仕入れた噂では、ローレニアの難民が、待遇を不満にテロを起こしたとか。それが本当なら、身勝手極まりない。
しかし、参ったことにグレイニアには非常事態宣言が発令、しばらくイスタンから出ることもままならなくなってしまった。これにはニグルムも。
「警備が厳しすぎて、街から出るのは難しいです」
ほとぼりが冷めるまでイスタンでゆっくりしよう、ということになった、資金はまだ十分にある。しかし、初日のホテルは高すぎたので、ニグルムの伝で格安のビジネスホテルへと替えた。
交通の始点だからと、首都に来たのが間違いだった、ニグルムは自分を責めていたが、俺だって同じことをするだろう、大丈夫大丈夫と、彼を宥める。
そして2日後。
まだまだ街からは出られない、スパイの力を持ってしてでも、こればっかりはどうにもならないとか。仲間も本国に帰ってるらしい。
街の内部での外出自体は許されているので、俺たちは広場から離れた、人通りもそれほど多くない通りで、買い物をしている。外出禁止令は出されていない、それなりに店もやっていた。
そこで、電気屋さんのショーウィンドウに置かれている、テレビが目に止まった。何をやっているんだろう?ニュースかな?
《政府の発表によりますと、飛行禁止区域に侵入したのは、長い間行方不明だったツルギ・アルシュール・ローレ王子...》
へ?俺?
それを、聞いて素通りすることは出来ずに足を止める。ニグルムは先を歩いていたが、俺がついてきていないのに気付いて、小走りで戻ってくる。
「どうしたんですか?…あ……」
ニグルムもテレビを見入る。
《サヤ王は、彼の暴走を止めることが出来ずにエルゲートにご迷惑をかけたと陳謝し。また、ツルギ王子はアブルニ王の死後、王位継承第1位の前王派だったこともあり、彼の死亡により内部抗争は収束に向かうでしょう...》
どうやら俺が死んだらしい。
ニュースで、俺が撃墜されたという動画が流れていた、赤翼のSu-27と、黄色の一本線が目立つ、青迷彩のF-16が2機が空戦を繰り広げている。水咲さん達だ。
「ツルギ王子死んじゃったんですね。あんな無謀な事しなくても、馬鹿だなぁ」
どうやらニグルムは俺が王子だったことは知らないらしい、本当に白崎は俺の事を、訳ありの友達としか言っていないみたいだ。
しかし、あの空戦の動画のローレニア機、俺の軌道にそっくりだった、という事は…。
あれは、白崎だ、絶対にそうだ。
俺の代わりにあいつが死んだのか……。
「ん?大丈夫ですか?」
ニグルムが不思議そうに、俺の顔を覗き込んでいる。
「え?何が?」
大丈夫かどうかと聞かれると、考えてもそれはわからない。少しぶっきらぼうに答える。
「何って、なんで泣いてるんですか?」
「え?」
頬を触ると、大量の涙が手を伝わってきた。無意識に俺は泣いていたのだ。
何故、俺の代わりに、あいつが死なないといけなかったのか。何故、俺は生きているのか。自問自答が止まらない。
それでも尚、ニグルムは心配そうに俺の顔を覗き込む。俺は服の袖で、涙をゴシゴシと拭き。
「……いや大丈夫。…ホント、あいつは馬鹿だな」
俺の命は、誰かの犠牲のもと成り立っている。
それは紛れもない事実だ。
俺はそれを忘れない、必ず帰る。
水咲さんのため、啓のため、そして。
白崎のためにも。




