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ブルー・スカイ  作者: 嶺司
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第2話 離れ小島

「ここが俺達の部屋です。」

「え?」


端島飛行場には建物が少ない、そもそも島も自転車で4時間かからない位で1周出来そうだし、軍の建築物と言えば駆逐艦が2隻ぐらい係留出来そうな固定桟橋1つ、南北に走るV字滑走路、管制塔、兵舎が4つに格納庫が8個。そして、管制塔の奥にある丘の向こうにちょっとした町。


待機室、寝室もそうでまさに必要最低限、水咲さんは俺と同じ部屋があてがわられた。

一緒の部屋ぁー?と、可愛らしいジト目で俺を見てくる。


「何もしませんよ!!」


俺は顔を赤くしてちょっと怒って見せた、もし万が一何かしたとしても命がいくらあっても足りない、何もしないぞ!と自分に言い聞かす。水咲さんはクスッと笑う。


部屋は少し縦長で窓側に1段ベッドが壁に合わせて2つ、入口に1人がけのソファー2つと間に机、ベッドの足元にロッカーがある形だ。


中に入ると水咲さんは荷物を広げる、と言ってもボストンバック1つと少ない荷物だ。俺は下着とか見てしまわないように注意しつついそいそと作業を始める。


「何してるの?」


水咲さんは不思議そうに頭を傾けながら俺の顔を覗き込む。


「あ、パーテーションです。プライベート欲しいでしょ?」


また、水咲さんはクスッと笑う。


「律儀だねぇ、大丈夫だよ、気にしないから」


太陽みたいに明るい笑顔で彼女はそう言ってくれる。しかし、自分が気になる。んー、と悩んだが結局寝顔が見えてしまわないように顔の部分だけパーテーションを作りそれで納得したのだった。


俺は落ち着かずベッドに座りゆさゆさと貧乏ゆすりをしながら水咲さんが荷物整理が終わるのを待っていた。


「ふー、終わった。」


チラッと覗き込むと自分のベッドとは比べ物にならないほどカラフルになっていた、まさに女の子の部屋感だ。


サイドテーブルには写真が飾ってある、どうやらアルファ隊の写真の様だ。


「あ、本田くん達とはね飛行隊再編ってバラバラになっちゃって、今は北のアバシ基地にいるの」


水咲さんはベッドの端に座り写真を手に取ってそう言った。アバシ基地なんてエルゲートでも有数な極寒の地、今はまだ夏前なのでマシだと思うが少し気の毒に思う。


「で、私は内地の司令部勤務を命じられたんだけど。ほら、私って可愛いじゃん?」

「ぶっ...」


思わず吹いてしまった。否定も肯定もせずにいると水咲さんはニタァと笑ってそのまま続けた。


「戦闘機には乗りたかったから交渉したんだけど、アバシはダメだって言われちゃって。そしたら、君のことを思い出してね端島に行かせてくださいって言ったら渋々オッケーを貰ったの」


ふふん、となんだが褒めて欲しそうな眼差しでこちらを見てくる。自分はいい言葉が見つからず。


「なんかすいません...」

と、何故か謝ってしまった。

「なんで、謝るのよ」


クスクスとまた彼女は笑う、ほんと、笑顔の多い人だこっちまでなんだが面白おかしくなってくる。


「それで、転任の為に端島に向かってたら、君ぃ、なんだがヤバそうなのに追われてるんだもん。思わず割って入っちゃったけど生きてて良かったよ、ほんと」


もー、ほんとヤバかった!と女子高生みたいにちょっとワクワクした声で語る。


こればっかりは「すいません...」と本気で謝る。


「なんで、謝るの...、まあ、いっか。これで貸し借りなしね!」


彼女はまた太陽みたいな明るい笑顔でそう言って俺のおでこをコツンと叩く。それにまた、痛くもないのにイテッと言っておでこをさする。


3ヶ月前に俺は7機に追われる彼女を助け、今度は彼女に助けられた。因果応報とはこの事なのか、次は俺が彼女を守る番なのだ、そう直感した。少し、色々と考えていると俺はハッとした!


「てか、水咲さん敬語!」


彼女はそんな事!と言わんばかりに笑う


「いいじゃんちょっとぐらい」

「でも、一応上官だし周りの面目がというかなんというか...」


年下上司で部下が女性とはこうもやり辛いのかと自信を失いつつ声も小さくなっていく。


「じゃあさ、プライベートはタメ口、それでいい?」

「え?ああ、うん」


プライベートならまあ、いっかとよく考えもせず気軽にオーケーをだす。それを聞いた彼女はまた嬉しそうに笑い。


「ありがとございます、隊長」


小悪魔のように悪そうに笑って彼女は俺を困らせた。



離れ小島にサイレンが鳴り響く。

隊長が私の先を走って深青色のF-35に飛び込む、私も隣の青迷彩色のF-16に飛び込んだ。今は、0時を回ったところ、敵も容赦無い時間に攻めてくる。まあ、それが、狙いなんだろうけど。人手の少ない離れ小島は慌ただしくスクランブルの準備がなされる。こんな、最前線なのに人が足りないなんて...。


《不明大型機6機、小型機4機接近中。当海域に空襲警報発令、稼働全機離陸せよ、急げ!》


管制塔も余裕が無いようでいつもより声を荒らげて指示を飛ばす。


「行きます!」


隊長の準備が整ったようだ滑走路に誘導されていく。私もすかさず「出ます!」と言って後を追う。


《離陸準備よし。離陸許可を願う》

《こちら管制、不明機方位は270まもなく視認距離だ、若いのも上げる、空を、頼む》


ああ、私の前じゃ弟みたいな隊長も案外信頼されてるんだなと安心する。同時にここに来てよかったとも思う。


《ブルー1。いや、ブルー隊、離陸を許可する》


漆黒の空に上がったのは全部で6機、嘘みたいに少ない。


編成はブルー隊の2機と少し前に内地から編成替えでやってきたらしいまあまあ、腕の経つ2機のシエラ隊とひよっこ2機のズール隊、こんなのでどうにかなるのかと思うけど、どうにかするしかない。6機で編隊を組んで敵と対峙している状態だ、もう間もなく見える。


《爆撃機か...》


隊長が視認した、私にも見えた。それはとても独特な形をしている、後方に向いた6発エンジンを持ち轟音と共に闇を舞う巨大なプロペラ機、6機とその周りをハエのように4機の戦闘機が護衛している。この南国の離れ小島を文字通り更地にして、この戦争の足がかりにするつもりなのだろう。


《シエラ隊は護衛機を頼みます!ズール隊、爆撃機を頼みます、一撃離脱、無理をしないように。》


隊長がテキパキと指示をだす。意外と頭もキレるのかそこそこの腕前のシエラ隊には戦闘機を宛がえ、まだまだ、ひよっこのズール隊には戦闘機よりは戦い易い爆撃機を攻撃するよう指示をだす。しかし、爆撃機からの機銃掃射もあるだろう、後のことは祈るしかない。そして、 私はというと。


《ブルー隊は爆撃機をやる。》


了解した。早く邪悪なる空の要塞を落とさないと帰る場所が無くなってしまう。


《各機散開!》


ブワッと6機は扇状に散開して敵爆撃機に襲いかかる。


終わってみればそれはなんてことはない空戦だった、爆撃機は火の着いた紙飛行機のようにゆらゆらと落ちてゆき漆黒の海に沈み、戦闘機は爆発して砕け散った。こちらの被害はやはりというかなんというか、ひよっこが2機とも墜落、しかし脱出は成功し今まさにパラシュートが地面に降りたっていて地上部隊に回収されようとしている、戦果も爆撃機を1機撃墜しているのでまあ、良しとしてあげたいところだ。


地上に降りるとそこにはいつもの夜が拡がっていて緊張が解けたのか急に眠くなりあくびが出る。それを隣で見ていた剣くんもつられてあくびをする。


「帰りますか」


と、あくびで涙目になった目を擦りながら彼に言われると、そうだねと頷いて2人で部屋に戻った。



部屋に戻ってもさっきまで眠かったのになんだが眠れずにいた。俺は何をするでもなくソファーに項垂れている、シャワーでもしたら寝れるかなと思ったりもしたが目が冴えてしまって無意味だった。


ガチャ。


「ただいまぁ。」


彼女がシャワーから帰ってきた。俺はなんだか彼女の顔を見れず項垂れたままおかえりーと返す。すると、何か視線を感じたのでチラッと見ると彼女が不思議そうにこちらを見ている。ん?と首を傾げると。


「寝ないの?」


彼女は優しく俺に問いかける。俺は、なんだが眠くなくてさ、と短く返す。


「そっか。」


それ以上聞くでもなく納得し自分のベッドへと腰を下ろす、しばしの沈黙が流れた後彼女が口を開く。


「剣くんはさ、なんで軍隊に入ったの?」


在り来りと言えば在り来りな質問だったが俺はその質問はされたことがなかった、んー、うなりながら少し考えて。


「地元...に、居たくなくてさ。兄貴がいるんだけど、スゲー頭良くて、それで俺への期待もすごくて、潰れそうになって。ここならどうにかなるかなと思って」


俺には5つ上の兄貴がいる、ものすごく頭もよくイケメンで両親、いや一族の期待を一身に背負って生きている。そして、その期待も必然的に俺に押し寄せ、耐えきれなくなった俺はここにいる。


「そうなんだ」


彼女は短く答え、髪の毛をクシでといている。俺も思い切って同じ質問をしてみた。


「水咲さんは、なんで?」


彼女はクシでとく手を止めて少し考える。すると出た答えは、剣くんと似たような感じかな、と悪そうな顔をして笑っていた。絶対違うと思ったがそれ以上聞くのも悪い気がしてふぅん、とつまらなさそうに言った。


時計の針はもう3時を指そうとしている。


さすがに寝ないとなーとベッドに移動して横になる。水咲さんはいつの間にか布団も掛けずに寝ていた、俺は重い腰を上げて薄手の掛布団を優しく水咲さんにかける。こんな優しく幸せな時間は初めてだなと感傷に浸りながら悪いと思いつつ水咲さんの寝顔をチラッと見て部屋の明かりを消した。



8月6日。

バラバラバラというヘリコプターのローターが風を切る音で目が覚めた。時計を見ると朝8時過ぎ。


まあここは南国、生真面目な内地の軍隊みたいに6時に起きて体操してなんか息苦しい事はしなくていいがさすがに寝すぎた。身体を起こして隣のベッドを見ると水咲さんの姿はない。どこいったんだろうと思いつつ、外を見るとヘリコプターから人が降りてきている。あ、今から飛ぶんじゃなくて帰ってきたのかと理解する。降りてきた人は何か大きな箱を持っいて、つぎにダイバーが降りてきた。どうやら、夜中に落とした敵機の捜索に行っていたようだ。生存者がいてもこの島では面倒見きれないと思うがその心配も虚しく、生存者はいなかったようだ。


複雑な思いに浸っていると。ガチャっとドアが開く。


「あ、起きた?もうちょっと寝るかと思った」


水咲さんは優しく笑い机に何かを置いた。


「ここの調理の人意外と頑固だね、おかずは食堂からの持ち出し禁止だ!って」


プンプンと怒っている。確かにここは南国、食中毒の危険もあるし色々と決まりもあるのだろう俺は特に気にしたこともなかった。


「塩おにぎりは大丈夫だったから早めに食べてね」

「え?あ、ありがとう」


机に置いたものをよく見ると小皿の上におにぎりが2つ乗ってラップがかけられていた。寝入ってる俺のために作ってくれたようだ。


よろよろとソファーに座り、水咲さんも向かいのソファーに座る。俺がおにぎりを手に取るとニコニコとこっちを見ている、物凄く食べ辛い。もういいやとおにぎりを口に運ぶとちょうどいい塩加減で普通に美味しく。


「うまっ!」


思わず口から漏れ出す。


「そぅ?よかった」


それを聞いて水咲さんはまた笑顔になる。そんな彼女を見ていると突然胸の奥底から色々なものが込み上げてくる。


「え、ちょっと何?大丈夫??」


気付けば俺は泣きながらおにぎりを食べていた、多分鼻も垂れている、まさかこんな事で泣くとは自分も思ってもみず恥ずかしくて一口に食べてしまって彼女から顔を背けてる。落ち着いたところで水を一口飲み口をひらく。


逃げるように家を飛び出し軍隊に飛び込んだ俺、特に深くも考えずカッコイイからと空軍に志願し、たまたまパイロットの試験に合格した事。喜びを分かち合う人もおらず飛行幹部学校では特に友達も作らないでただひたすらに練習機に乗っての訓練を思い出し。そして、上の下位の成績で終業して1年前にここに来た。コミュニケーションが苦手な俺はここでも、なんだが人と仲良くなれず孤独な日々を過ごしていた。しかし、戦闘機の腕前はそこそこ、友達はいなかったが上司からは信頼されていた。そしたら、太陽のような君が来て俺の周りは急に明るくなった、たった2日の関係なのになんだがとても楽しい。


「君も苦労人だね」


うんうん、と聞いてくれていた彼女は優しく呟いて俺の頭をポンポンと手のひらで叩いた。俺はしばらく俯いたまま顔を上げることができなかった。



次の日の昼、端島のビーチには海軍の揚陸艦が2隻艦首を砂浜に乗り上げさせ、そこが観音開きに開き戦車やらトラックやらを陸揚げしていた。

俺はそれを格納庫の上にある整備用の足場から見ている。やっと対空火器の配備か遅すぎだぜと手すりに肘をつきぶらぶらと右足を揺らす。


《敵偵察機らしい目標探知、シエラ隊出撃準備》


ブーー、と大きなブザー音が鳴り基地内放送が告げる、それほど切迫した状態でもないのだろうアラームは鳴らさず通常放送だ。


しばらくすると、兵舎からパイロットが2人駆け足で出てくる、シエラ隊の2人だ。歳は確か30代前半2人ともがっちりとした体格でいかにも軍人といった様相だ。

俺も念のため搭乗員待機室に戻るかっと歩き始めると、遠く西の海の上で稲妻が走った。


「降りそうだな...」


ここは南国、スコールなんざ珍しくもなく時期によっては毎日降っている。しかし、今日の積乱雲はバカでかい龍の巣、と言い表してもいいぐらいだ。


《天候状況に鑑みシエラ隊の出撃を中止する》


全天候型戦闘機とはいえ運転するのは人間、危険を侵してまで急ぐ必要は無いと判断されたのだろう。


《敵機は海軍が対処する、以上》


なるほどね、最初からそうしてくれればいのにと思いつつ一回椅子に項垂れてから立ち上がり、一緒に待機していた水咲と部屋に戻った。


ザーーーーー。


バケツをひっくり返したかのような強烈な雨が島を襲う、時々空は光りゴロゴロと雷鳴も聞こえる、部屋にいても圧迫感を覚えるほどだ。


陸軍さんはこんな雨の中忙しなく外を走っている、流石というかなんというかだ。


こんな土砂降りで何かをする訳にもいかずベッドの上でゴロゴロと転がる、背伸びするついでに手を蛍光灯にかざしていると自分の左手首に黄色いミサンガが見えた。


「あ!!」


なになに!?と水咲さんが立ち上がって心配そうにこっちを見る。俺も飛び起きて左手のミサンガを外す。


「無意識で付けてたから忘れてたよ、これ」


黄色いミサンガを束ねて水咲さんに差し出す。


「あ、付けてくれてたんだ、嬉しい」


彼女は万遍の笑みでまた笑う、見ている俺も恥ずかしくなる。


「それあげる、お守りね」


鼻歌交じりに彼女は自分のベッドに座る。俺はありがとうと言って少し頬を赤らめながらまた左手に黄色いミサンガを付ける。


ピカッ外が光る。


ドゴーン...!雷のそれとは違う轟音が雨空に轟く。


「え?」俺と水咲さんは窓の外を見る。なんだか遠く海の方が赤く燃えているような...。

その時。


ドドドドドドーーーン!!


部屋から少し離れた所にある滑走路が突如大噴火したかの如く火炎爆煙を上げながらまるで荒波のごとくこっちに迫ってくる。


俺は咄嗟に自分のベッドマットを力任せに持ち上げて唖然としている水咲さんに覆い被せ、自分もその中に入り飛ばされないようにマットを左手でガシッと掴み彼女を右手で優しく抱き抱えた。


「目を瞑って!耳を塞いで!口を開いて!」


もう遅いかもしれない、しかし俺は叫んでいた


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