第19話 西へ
10月3日、14時。
ローレニア東海岸の都市、ベルツィオ。
《対空陣地は粗方破壊した!》
《了解!我ら第10空挺旅団の名にかけて、ここを制圧する!降下始め!》
C-5輸送機が空域に侵入を開始し、落下傘が次々と開いていく、実際の空挺部隊の降下は初めて見た、戦争映画の様に、白い傘が縦列になって次々と地表に降りていく。
俺たちはその様子を上空で旋回しながら見守る、先頭には俺たちブルー隊、右翼にはシエラ隊、左翼にはオメガ隊だ。
作戦は、まず空挺部隊がABCグループに別れて3方向から展開、付近を制圧した所で、海軍の揚陸部隊の出番、大上陸部隊が揚陸する手筈となっている。
《降りた者から予定通り展開しろ、空挺戦車、降下始め!》
大きな鉄の塊が、パックリと開いた数機のC-5後部から投下され、4つの大きな落下傘が開き、いくつか投下される。
《こちら、グループB、指定された位置に空爆を要請する!》
《グループC、こっちも頼む!》
レーダーに次々と目標が更新されていく、まだ、森や丘にはトーチカが残っていたようだ。それぞれに対処していく。
《スカイアイ了解、シエラ隊はグループBの支援、グループCには艦砲射撃を行う》
早速、沖に待機していたイージス巡洋艦の155ミリ砲が火を噴き、指定された場所に火柱が上がり灰色をした煙と土埃が高々と舞う、さすが威力が違う。
一方、シエラ隊の目標はシエラ4の誘導爆弾によって既に攻撃を終えていた、ひよっこも手早くなったものだ。
《各隊前進開始!》
戦車が地面を耕しながら土埃を上げて前進し、その後ろに歩兵部隊が追従する、空から見ているととてもわかりやすい。
《グループB、また頼む!》
目標が更新されていく、そして、次はイージス艦のトマホークが使われた。海から1本の白い線が上がり目標に一直線、轟音と共に火柱が上がりそこにあったはずの目標が消える。全部トマホークでやってしまえばいいんじゃないだろうか。まあ、船にも死角はあるし、小さい目標に高価なトマホークを使う訳にも行かないだろう、困った時によく使う、臨機応変にだ。
《方位280から援軍だ、攻撃ヘリと思われる。オメガ隊、対処しろ》
《オメガ隊、了解!》
スカイアイはテキパキと、目標を処理して俺達はそれに答える。黒木さん達はここから離れて、攻撃ヘリへの対処に向かうために機体を西へと旋回する。
《ミサイルシーカー波探知!方位090、距離10マイル!》
スカイアイが慌てた声で艦隊へと報告する。東からミサイルが飛んでくるとは、いったいどうなっているのか。
《分かってる!EA攻撃初め、チャフ発射初め、シーラム発射初め!》
遠く東の海から何本ものミサイルが飛んでくる、初動に遅れた艦隊は、空にキラキラとチャフ雲をばら撒き速力を上げて回避運動をとる。イージス艦のシーラムが、飛来するミサイルを次々と撃墜する。
《まだ来るぞ、空母を守れ!SM-2発射初め!》
空にイージス艦のVLSから発射されたミサイルによる白い線が何本も描かれ、シーラム射程外の敵ミサイルに向かっていく。
艦隊の東遠方でババババーンと、横一線にミサイルが迎撃される。
《よし、全ミサイルの撃墜を確認》
ドーン、ドーン、ドーン。
空に低い爆発音が響いた、慌てて空母の方を見ると大きな水柱が3隻共に上がっている。
《雷撃だ!対潜哨戒は何してるんだよ!》
《くそっ!ミサイルは囮だったのか!?》
誰かが怒鳴り、嘆いているのが聞こえる。
するとまた、一際大きい爆発音が3回響く。
空母には特大の水柱が上がり、その水しぶきに包まれる。
《こちらコリュー、被害甚大!船が沈む!》
《セキリュー、船隔に亀裂、大浸水、復元不能》
《ウリュー、機関室に浸水、傾斜拡大中、総員離艦させる...》
エルゲートが誇る、3隻の巨大空母からは黒煙が上がり、どんどん傾斜が拡大し傾いていっている、船からは救命筏が次々と下ろされ、海には人が溢れ、甲板に係止されていた戦闘機が海へと落ちていく。
《俺の母艦が...》
艦載機の誰かが涙声でいう、母艦を失った彼らに帰る場所はない、端島までは遠すぎるし、ベルツィオを占領できる保証もない、最悪、海への着水だ。何人生き残れるだろうか。
《フリゲード艦ハラカゼ、鯨狩りを行う、ヤマカゼ、付いてこい》
《フリゲード艦ヤマカゼ了解!ハラカゼに追従する。最大戦速、取り舵一杯!》
《対潜哨戒機、準備でき次第発艦》
2隻のフリゲード艦が全速力で東の海域へと向かっていく、空母の仇だ、俺達は成功するように願う。
空母ウリューは既に轟沈、海に消えていた、他の2隻も時間の問題。空母の黒煙で空が黒く染まっていく。
《各機!ベルツィオを取らないと、降りるところが無いぞ!死にものぐるいで戦え!》
艦載機の編隊長だろうか、嘆いている艦載機達に喝を入れる。
《くそ、味方潜水艦と連絡が取れない、やられた可能性が高い》
2隻は東に展開しているはずの潜水艦の応答がないらしい、潜水艦同士の戦いで静かに撃沈されたのか、それとも深く潜っているのか。
《踏んだり蹴ったりだ...》
俺は、混乱していく戦場をどうなっているか落ち着いて観察しようとしたその時。
バァン。
目の前を飛んでいたF/A-18戦闘機が爆発し、落ちていく。
ミサイルアラートが鳴っている気配はなかった、地上を見るとミサイルによる白い煙の線がそこから伸びている。
《例のミサイルだ!各機警戒して!》
俺の注意喚起は遅かった、バァン、バァンと艦載機が連続で落とされる。俺達は機体のソフトウェアをいじっているから、あの例のミサイルに気づけるが、艦載機はそうでもないらしい。
《空挺部隊!ランチャーをポイントしてくれ!》
《今やってる!これでどうた!》
すぐに、砲撃が行われ目標設定された場所には大穴が空いている。しかし、これで終わりではない、また違う場所からミサイルが放たれる。
《くそ、ランチャーが見えない、少し待っーーー》
空挺部隊にも被害が出始めていた、命懸けでミサイルランチャーまで接近してくれた部隊と通信が途絶する。
《俺らが行く、戦車隊前へ!》
主隊自らが動き出し、俺らのために戦ってくれている。
《抵抗が激しい、指定目標に空爆要請!》
レーダーにまた目標が更新される、今度は数が多い、しかし、1箇所に集中している。
《シエラ1だ、俺がやる》
今回彼が載せている特殊兵装は一味違う、この時のために面での制圧力に長けた。
《ナパームを思い知れ》
荒木さんの機体から大きな爆弾が投下され着弾寸前、特大の火の玉となって周囲を焼き尽くす。
《あっつ!助かったぞ、前進!》
その火の玉はかなり離れていても、熱さを感じる、爆発点にいたものは全て焼き尽くされるだろう。
《新たな目標探知、方位280、戦闘機だ、オメガ隊引き続き対処、ブルー隊、援護に向かえ》
《ブルー隊、了解!》
俺は水咲さんと啓を引き連れて黒木さん達の援護に向かう。
ただの戦闘機、エースでも何でもなかった、みんなで協力して手早く片付ける。
しばらくすると空挺部隊が海岸線を確保、揚陸艦から揚陸艇や、水陸両用戦車が次々と発進を始める、揚陸作戦の開始だ。海にはそれらの航跡がいくつも出来て白波を立てている。
ラルドから攻撃ヘリが発艦を始めた、これで地上目標はヘリに任せられそうだ。
《行けいけ!最前線まで走れ!迫撃砲は予定通りの場所に展開しろ!》
素早く揚陸部隊は浜に展開し前進を始める、よく訓練されたいい動きだ。
《こちら空挺旅団、戦車による飛行場への攻撃を開始する。》
《了解。こちらも急ぐ》
《待ってるぞ。戦車隊前へ!攻撃を始めろ!》
空挺戦車は既にベルツィオ飛行場まで迫っていた、海岸からそんなに離れてはいないため、予定通りと言えば予定通り、空母をやられた以外は。
戦車隊は攻撃を開始、飛行場近くのトーチカと激しい攻防を繰り広げる。しかし、そのトーチカにも容赦なくトマホークが降り注ぐ。
そして、30分後。
《飛行場の制圧完了!艦載機、降りてきていいぞ!》
陸上部隊に多少の被害はでたが、何とか飛行場を制圧することが出来た、陸上部隊はすぐに防御陣地の設営を始める。
しかし、降りてきてもいいぞ!と言われても、既に艦載機の半数は燃料切れで着水していまっていた。フリゲード艦による救助活動が行われている。
《こちら第14飛行隊、そろそろ燃料が限界だ、基地に帰投する》
限界、と言うより既に足りていない、空中給油機を要請して端島に一旦帰ることにする。弾薬もほとんど無いし。
《こちら旅団長。了解、第14飛行隊、協力に感謝する》
旅団長のお礼に少し気分を良くするが、海軍の被害が甚大だ、このままこの基地を維持できるのか。不安だが頑張るしかない。
俺達は端島への帰路についた。
16時、端島
「あんな混乱した戦場初めてだよ」
俺達は格納庫のベンチに座っていた、白崎がそう呟いて疲れたように項垂れる。
「いやほんと」
黒木さんもよほど疲れたのかベンチの背もたれにもたれかかって天を仰ぐ。
「ナパーム持って行っといてよかったぜ」
荒木さんはしたり顔、得意げに腕を組んでうんうん、と頷いている。
「目標が次から次へと上がってくるので大変でしたよ」
リンさんは無誘導爆弾を片翼6発、計12発も積んでいってたので小型の目標に引っ張りだこ、あっちこっち飛び回っていたのでお疲れのご様子。
柴田と五十嵐も生き残った喜びより、疲れの方が先に来ている様子、膝に腕をついて項垂れている。
「しかし・・・、空母がやられたのは痛いですね」
冷静な啓の声、残っている空母は修理中のソリューと軽空母のリジョー、ヒジョーだけとなった。戦力としては心もとないし、第11艦隊のリジョーは南方海域から動けない、残るは第12艦隊のヒジョーだけだが、第12艦隊は今、エルゲート東海岸の守りについている、すぐには来れないだろう。ソリューの修理はいつ終わるか不明、実質動ける空母がいなくなってしまった。
「やばいな...」
嫌な予感がする。せっかく揚陸して敵の基地も手に入れたのだ、このまま、押し返される訳にはいかない。
「また一段と忙しくなるね」
水咲さんは言う、これ以上忙しくなるのは勘弁して欲しい。
そして俺達は、本土から増援で来たC-5と端島付近で合流、護衛しつつ再びベルツィオへと向かう。
夕刻、ベルツィオ。
日が西のローレニアの大陸へと沈んでいく、空が赤く染っている。
《敵潜水艦撃沈》
遠く東の海から、ゴーンと爆音らしい音が聞こえる。
掃討に向ったフリゲード艦からの通信だ、生き残った艦載機達の歓声が聞こえる。空母の仇をとってくれた。
《こちら、空挺旅団長、敵が撤退していくぞ!》
空からも見てわかる、敵軍が敗走を始めた。
《我々の勝利だ!!》
再び、ワー!と歓声が上がる。
ローレニア軍が基地を放棄し敗走していく、エルゲート軍は完全に飛行場を占拠、基地にはエルゲートの国旗がはためいていた。
《勝ったな...》
俺はふー、と安心のため息をつく。
《こちら第14飛行隊、基地に帰投します》
歓声が収まりきらないうちに、俺達は端島へと帰投した。




