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ブルー・スカイ  作者: 嶺司
13/31

第13話 疑いと仲間

端島、20時。

荒木さん達がアンタルツィオの攻撃を開始した一報が基地に寄せられた。

私は彼等の無事を祈りつつ、待機室にて剣くん、啓ちゃんと出番に備えて待機している。

「水咲さん、ちょっといいですか?」

「何、啓ちゃん?」

啓ちゃんが小声で私を呼ぶ、どうしたのかな思うと、ちょっとこっちへ、と待機室の外へと呼ばれる。出る間際、剣くんを見ると、疲れているのだろう、ウトウトと首を揺らしながらうたた寝している。

私は呼ばれるがまま外に出た。

「水咲さんはおかしいと思わないんですか?」

「え?何が?」

啓ちゃんが何か、怒ったように聞いてくる。私には何の事が言いたいのかよく分からない。

「隊長ですよ、あの歳で大尉って変でしょ。特務大尉って階級も変だし」

あー、その話かと納得する。真面目で勘が鋭い啓ちゃん、いろいろと気になっていたのだろう。そして新しく来た、白崎くんもどうやら彼と『同じ』境遇そう、確認せずにはいられなくなったのか。

「それねぇ、私も初めは気になったよ?でも、私、剣くんに助けてもらたし。ここに来てからも、剣くん、一生懸命だしさ。気にしない方がいいと思ったの」

私は、開戦当日に彼に助けられた、大切な僚機を失ったものの、その時の彼は、私たちを助けるために敵の中へ単機で突っ込んで行った。あれを見た時はヒーローだと思った。

そして、帰り際にこの端島に案内され、こんな所もあるんだなと知った。南国でゆっくり時間の流れるこの島、私はここに惹かれた。

そして、航空隊再編で私はここを選び、彼は私に文句ひとつ言う事なく迎え入れてくれた。

彼は、端島最初の空襲でも1人で勇敢に戦っていた。

彼は...、彼はいつでも頑張っているのだ。なのにまだ、私たちが不甲斐ないばかりに強くなろうと頑張っている。

「だからさ、私思ったの」

少しもったえぶり剣くんが中にいる待機室のドアに目をやり、すぐに啓ちゃんの目を見る。

「剣くんは、剣くんだなって。言いたいけど、言えないんだと思うよ、いろいろとさ」

啓ちゃんは拳を握りしめてプルプルと震えている。顔は下を向いていて、伺えないが。

「秘密の一つや二つあるよ、私にもあるし」

「...え?それって…」

啓ちゃんはバッと顔を上げて私の顔を見る、ジト目が可愛いなぁと思いつつ、頭を撫でる。

「秘密」

今日1番の笑顔でそう答えた、多分彼女は分かっている、私の秘密を。まあ、そんな大したことでもないし、知られると恥ずかしいぐらい。一通り啓ちゃんの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

「......」

啓ちゃんは無言で俯いている、そっとしておこう。私は剣くんが、うたた寝している待機室に戻った。



アンタルツィオ上空。

《ふー、危なかった。大丈夫ですか?》

リンは無事に飛んでいる、とんでもない場面を見てしまった。

白崎がどこからともなく現れて、リンに迫っていたミサイルを自らのミサイルで撃ち落とした、さすがエリート航空隊から来たパイロット、格の違いを見せつけられた。しかしまぁよく、あの一瞬で対処できるものだ。

《あ、ありがとうございます》

リンはまだ生きているのが信じられない様子、声が少し震えている。

《こちらスカイアイ、そちらの方位340に目標探知、戦闘機と思われる》

敵の増援だ、これ以上の長居は無用と判断する。

《各機、作戦終了だ、帰投せよ》

俺の一声で全機東に旋回、低空を維持して東の空へと逃げ去った。



時計は21時30分、荒木さんたちが帰ってきた。

俺達は外に出て皆を出迎える。

「剣くん、1機足りなくない?」

ファーニナル岬のロメオ隊に続いて、シエラ隊、オメガ隊と着陸してくる。何となく水咲さんは帰ってきた機体を数えていると、F-16が1機足りないことに気づく。慌てて俺も数えたが確かに、足りない。

皆が駐機場に機体を止めてコックピットから降りてくる、俺は荒木さんに駆け寄った。

「ああ、笹井。島木がやられた、くそっ...」

「え...」

悔しそうに奥歯を噛み締める荒木さん、俺は言葉をかけれず立ち尽くす。そんな大した絡みはなかったが、仲間がいなくなることは素直に悲しい。

「まあ、戦争だ、深く気にするな」

気丈に振る舞う荒木さん、彼もひよっこ、ひよっこと彼等をからかっていたが、ずいぶん気にかけていた、俺以上に悔しいはずだ。

「リン!済まなかったな、無茶させて」

荒木さんは俺の肩を叩き、リンさんに歩み寄る、荒木さんが謝るとは珍しい、いったいどんな無茶をさせたのか、考えるだけで恐ろしい。

「いえいえ!それよりも、白崎中尉、ありがとうございました」

リンくんが黒木さんを挟んで隣を歩いていた白崎にお礼を言っている、あー、何となく理解出来た。荒木さんの無茶ぶりでやられそうになったリンくんを、白崎が助けたのだろう。

「当然のことをしたまでです」

特に得意げになるでもない白崎、さすがはエリートだ。

俺は彼等の後ろに目をやると五十嵐と柴田がとぼとぼと歩いていた、同期が死んだのだ、悲しくないわけはないだろう、そこに啓が駆け寄り3人で話している、俺がどうこうする場面じゃない。遠くで見守ることにした。

「いろいろ説明がある、待機室に来てくれ」

俺達は荒木さんに誘われるがまま、待機室に向かって歩き出した。


待機室。

俺達は椅子に座り、荒木さんが前に立っている。

「敵基地から発射されたミサイルだが、レーダーホーミングではなかった、アラートが鳴らなかったからな。それだと、IRホーミングと考えられるが、フレアにも反応しなかった」

何それ、怖いな、アラートが鳴らないとなると目視かレーダーで確認するしかない、狙われていること分からないので、空戦に集中出来なさそうだ。

「だが、衝突目標にアラートが鳴るように設定すれば、多少は気づけるだろう、しかし、フレアに反応しないのは厄介だ。」

荒木さんスゲーと感心する、いつも大雑把で横暴な人だと思っていたが意外と頭が回るようだ。

「となると、カメラ誘導ですかね?」

白崎だ、うん、俺も今そう考えてた。しかし、カメラ誘導か、なかなか回避は難しそうだ。

「上手くミサイルの進路と逆に回れるか、雲の中に入ると回避出来ますよ、視認範囲は広くないみたいです」

黒木さんだ、彼はあのミサイルを上手くかわしたらしい。しかし、いったいどうした事なのか、今日はやけに皆頭がキレるようだ、何も発言できない。だが、名案が思いついた。

「カメラ誘導だったら煙幕がいいと思います、赤外線カメラでも多少は誤魔化せれるでしょう」

啓に先を越された、悲しい。

「ああ、それだ。すぐには用意できないと思うが司令には進言しておく。情報共有までに、話は以上だ」

荒木の合図で別れとなったがまだ、ガヤガヤとみんな残っている。黒木さんは白崎と、さっきの空戦で上手くいかなった事の調整と連携の再確認、荒木さんは司令室に報告に向かい、リンくんは五十嵐たちひよっこと今後の確認をしている。

取り残された感じだ、何もしてないってやることないなぁ。ボーッとする訳にもいかないので、腕を組んで考えるフリをしておく。

「隊長、行きますよ」

「え?あ、はい」

考えているフリを見透かされたかのように、啓に冷たく呼ばれる、俺は慌てて立ち上がり、2人を追いかけて、どこに行くのかと思えば、自分たちの部屋だ。

彼等も帰ってきたし、少しゆっくりしようということになった。

「ゆっくりシャワー入ってくるね」

水咲さんと、啓はお風呂道具を持ってそそくさと部屋から出ていった。最近忙しくてカラスの行水ほどのスピードで体を洗っていたから、皆がいるうちにゆっくり入ろうと思ったのだろう。

俺は後で入ることにした、ボーッとソファーで胡座をかきながら天井の灯りを見ていると。

コンコン。

ドアがノックされる、はーいと返事をすると。

白崎が現れた、どうしたんだろうと思いつつも、彼を俺の目の前のソファーまで手招きをする。水咲さん達もさっき出ていったばかりだし、すぐには帰ってこないだろう。

「笹井大尉に聞きたいことがあって」

うん、だいたい察しはついている、俺は彼の質問を聞くことなく。

「白崎くんの思ってることで、だいたい合ってると思うよ」

ああ、やっぱり。と言ったところかそんな顔をされる、水咲さん達には内緒にしているが、彼は俺と『同じ』境遇の人間だ、少しは話していいと思うが、昨日今日来た人間、全ては話さない。

「ーーー、いろいろあってね、そこにいられなくなってここに来たんだ...」

いろいろと話せることは彼に話した、ずっと皆に秘密にしていたこと、白崎くんにだけだが、話したら少し楽になった気がする。

司令も俺の経歴なんて全く気にしてなかったし、飛べるやつは誰でもいいという感じ。水咲さんも気を使ってくれて何も聞かれなかったし、荒木さんたちも同じ、そこに啓がやってきて、騙し騙しやってきた。

「それと、俺の事は大尉って呼ばなくていいよ、同い年だし」

「うん、わかった」

『同じ』境遇者同士、仲良くなれた気がする、白崎の敬語は崩れラフな感じになり、暫く話していると。水咲さん達が帰ってきた。

「あ、白崎くん、どうしたの?」

水咲さんがニコニコしながら入ってくる、白崎は。

「いやぁ、ちょっと剣さんと話しをしたくて」

と彼女の笑顔が眩しくて見えないのか、よそを向き頭を掻きながら答える。

水咲さんに遅れて啓が部屋に入って来た、白崎を見るやいなや少し怪訝そうな顔をして、お風呂道具を片付けている、そんなあからさまに嫌がらなくても...。

部屋に広がるシャンプーの匂い、とても心地よい。

俺達は白崎を交えて、暫く話し込んでいた。

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