第11話 同じ新入り
次の日。
8月24日、作戦室。
俺達は既に集まっており、副官がモニターを使い説明を行っていた。
「笹井特務大尉の偵察及び攻撃のおかげで、未明、第1艦隊が西に進出。艦載機による敵艦隊の攻撃を行った。その際、空母からは黒煙が上がり、巡洋艦は転覆寸前、駆逐艦2隻からも煙が上がっていたそうだ。大戦果だ、特務大尉」
おおー、と作戦室がどよめく。
たまたま至近距離でミサイルが撃てた事、たまたま敵艦隊が対処しきれなかった事で、結構な戦果を上げてしまった。思わずニヤケてしまい、恥ずかしくて皆から顔を逸らすと、水咲さんと目が合った、彼女は満面の笑みで嬉しそうだ。
「艦載機による攻撃は、詳しくはまだ連絡を受けていないのだが、敵直奄機による多少の被害の他、概ね成功だそうだ」
良かった、と胸を撫で下ろす。みんなも安心してパチパチと拍手をする者もいた。
「話は変わるが、黒木中尉」
「はい!」
突然呼ばれた彼はビシッと立ち上がる、俺達は何の話だろう、と様子を覗う。
今日この日付で、黒木さんが正式に端島第14飛行隊に配属されることとなった。
彼は空軍ではなく海軍の所属だが、ソリューの修理が長引くこととなったのと、14飛行隊増強のためにそうなったらしい。
そして、彼の隊の2番機も本土から新たに配属されることとなっている。
俺は、水咲さん、啓、黒木さんと駐機場にいた。
「あいつ以外の2番機とかいらないのに」
前の2番機とはかなり仲が良かったらしいし、それなりに思い出もあるようだ、撃墜される原因を作った俺は何も言えず、水咲さんが。
「そんなこと言わないの」
と、黒木さんを宥める。
まあ確かに、どこの馬の骨とも分からない奴と急に組めと言われても、納得いかないよなと、彼の言いたいことも分かる。
「どうせならブルー隊の4番機とかになりたかったなぁ」
嬉しいことを言ってくれるけど、もう他に面倒は見切れないし、このハーレム状態、おっと失礼、3人体制をあまり崩したくない。
ハハハ、と、俺は笑って誤魔化す。
「あ、見えて来ましたよ」
啓が空を指さす、皆が空を向くと戦闘機が見えてきた、遅れてゴーーー、とエンジン音が空に響く。
あの機体はなんだろう?
着陸体制となって、だんだんそれが滑走路に近づき、機体の形がはっきりと見えてくる。
「F-35、ですね」
啓の言う通り、青迷彩のF-35が降りてきた。
F-35とは珍しい、まあ、俺が言える事でもないが。
空軍には基本的にF-16があてがわられている、ここで俺だけがF-35に乗っているのは、試験的な要素が強い、とだけしか聞いていない、あいつも俺と『同じ』なのか?
それとも、機体の世代交代がもう行われるのか、詳しいことは俺には分からない。
F-35は難なく着陸し、駐機場にやってくる。整備員に誘導され駐機位置に着くとすぐにキャノピーが開く。
ラッタルが横付けされ人が降りてくる。
銀髪ショートヘアで背丈は俺より少し低い165センチぐらい、小柄で少年のような装いで、顔もまだあどけなさが残り中性的な顔立ち、肌も色白で、所謂、イケかわといった感じだ。
「男かな?女かな?」
水咲さんにこそこそと話す。
「剣くんもパッと見どっちかわかんないよ」
へ?ショックを受ける。確かに、初対面の時、男?と聞かれた気がする、そんなに女の子っぽいかな?と自分の顔をぺたぺたと触る。
彼、彼女?が俺の目の前まで来た、何やら胸の辺りに視線を感じる、え?なに?と一瞬思ったがすぐわかった、飛行服には胸ポケットの辺りに階級章がある、それを見たのだと思う。
階級章を見終わったのだろう彼、彼女?は目線を上げて俺を真っ直ぐみる。やばい、めっちゃイケかわ。
「第14飛行隊ブルー隊、隊長の笹井特務大尉です」
見つめられてちょっと照れていた俺は、変な気持ちを紛らわすために、簡単に挨拶をし右手を差し出す。
「ライエンラーク空軍基地第101飛行隊から来ました、白崎翼特務中尉です」
彼、彼女?はビシッと敬礼し俺の握手はスルーする、心に深いキズを負った俺、悲しい...。しかし、声を聞いても男か女か分からない。
たが、それよりも気になったことが。
「え、ライエンラーク??」
「はい」
ライエンラーク空軍基地、本土の内陸でちょうど真ん中に位置する、そこは空軍でエリート揃いと名高い、空軍直轄首都防備隊がある場所だ、その防備隊の名前は第101飛行隊、ヤバい奴が来た。
それだけでもヤバい奴なのに、俺と同じ特務幹部だ、やっぱり俺と『同じ』なのか。
周りをチラッと見ると、水咲さん達はヒソヒソと話している。
「ま、まあ、司令室まで案内しますね」
「お願いします」
俺はとりあえず上位者として彼、彼女?を司令室に案内することにした。
駐機場を司令室のある兵舎に向かって歩く、白崎中尉は機体に置いていた荷物を持って、俺の後ろを付いてくる。
会話した方がいいのかなぁ、とも思うが、人見知りな俺、何を言ったらいいか分からず無言のままだ。
「笹井、特務大尉でしたか?」
急に白崎中尉に話しかけられる、びっくりして。
「はい!どうかなさいましたでしょうか?」
変な口調で言ってしまう。
「大尉って、男ですか?」
「男だよ!!」
なんて失礼千番なんて奴だ!咄嗟に怒鳴ったが、白崎中尉は、えぇぇぇ!、とドン引きしている。そんなこと言ったら君もだからね!思い切って言ってやる。
「そんなこと言ったら、白崎中尉だって」
え?って顔をされる、つられて俺もえ?と言い、数秒の沈黙が流れる。なんかまずいこと言ったかな?
「秘密です」
えぇ!何で?と固まる俺。
「嘘です、男ですよ」
何こいつ、仲良くなれそう。
1番初めの硬そうなイメージから打って変わって、意外と面白そうな人で良かった。しかし、男にちょっとカワイイと思ってしまったのか、と複雑な気持ちになる。
司令室までまだ少しある、打ち解けれそうな間に、もう1つ聞いておく。
「白崎中尉、歳は?」
下手をすると自分よりも若く見える、聞けるのは今しかないと思った。
「えーと、20歳になったばかりです」
え、同い年じゃん。ちょっと嬉しくなって、俺も俺もと言うと、「え、そうなんですか?」と嬉しそうに笑ってくれる。
うん、こいつは良い奴だ、俺は確信した。
司令室に彼を送り届け、後はエレメントの黒木さんに任せて俺は部屋に戻った。
既に、水咲さんと啓は部屋に戻っていてくつろいでいる。
「あ、おかえり。どんな人だった?」
水咲さんが言う。啓はというと、ぷいっとそっぽ向いてしまった、まだ怒ってるのかな?
にしてもまあ気になるよねぇ、俺はコントじみたやり取りがあったことは秘密にして簡単に説明した。
白崎翼特務中尉、20歳、ライエンラークでちょっといろいろあって、ここに移動となったらしい。面白い奴だったと伝えた。
「へぇ、同い年なんだぁ、良かったね」
彼女が笑う、同い年だから特別よかった、ということもないが、荒木さんみたいにごつくて年上の人はちょっと苦手なので、まあ、良しとしよう。
「しかし、101飛行隊はかなりのエリート揃いという噂ですけど、どうして彼がここに来たのでしょう?」
啓が不思議がる、ここの14飛行隊は水咲さんから聞いたのだが、異端児揃いで有名らしく、あまり好き好んで行きたいという人はいないらしい、なにか不名誉な気がする。それは以前、再編前にいた人達の噂だ、今はそんな人達は見当たらない。
「いろいろ話したけど、これと言った理由は言われなかったな。まあ、ここ最前線だからエース級を順次配属するんじゃないかな?」
パイロットが増えるのはあまりいい気はしない、戦力が増えることはいい事だけれど、住み慣れたこの基地を荒らされそうで怖いからだ。まあ、それは、自己中心的な考えだろう、その考えで基地がやられたら元も子もない、強くならなくては。
「暫くは、いろいろと様子見、かな」
水咲さん、啓もそれで納得した。
その日の15時、また俺達は作戦室に呼ばれていた。
今回は司令からの指達で、既にブリーフィングは始まっている。
「ついに始まるぞ、ローレニア本土への空襲作戦だ」
いつもの野太い声が何やら踊っている気がした、ついにやるのか敵本土空襲を。
我が、エルゲートは第2艦隊は壊滅状態、アバシ基地に、ここ端島も空襲を受けた、反撃しても罰は当たらないだろう。
「第1艦隊が敵艦隊を撃滅した、そのまま東へ進軍し、ここにいる第3艦隊も出撃しこれと合流、ローレニア東海岸のベルツィオを攻撃する」
第1艦隊はあのまま敵艦隊を撃滅したらしい、流石空母2隻を含む大艦隊、エルゲート最強の艦隊だ。
そして、ベルツィオの攻撃、ここから東北東に約1500キロ離れている。あそこは情報によると海軍基地と陸軍基地が、一緒にあるかなり大きい基地だ、そう易々と空襲を受けてくれるのか?と、疑問にも思う。
「そして、我々の出番だが、アンタルツィオを陽動攻撃することとなった」
アンタルツィオ、この端島基地から1番近い敵基地だ、真西に約1000キロほど離れており、海岸から少し内陸にあって、空軍基地があるとされている、陽動作戦にはちょうどよさそうだ。
「この作戦にはシエラ隊、黒木隊に参加してもらう」
俺の機体は被弾して修理中だ、こんな大々的な作戦に参加出来ないのを悔しく思う。
荒木さんを見ると、嬉しくて、よしっ!とガッツポーズをしている、今まで防空任務ばかりだったのだ、そりゃ嬉しいだろう。
黒木さんの方を見ると緊張している様子、顔が固まっているように見える、隣にいる白崎はというと腕を組み椅子にもたれかかっている、さすがエリート、余裕そうだ。
「ところで、黒木中尉、君の隊の名前は?」
そう言えば彼の隊名をまだ聞いたことがない、黒木さんに目線が集まる。
少しの沈黙の後、黒木さんは口を開く。
「...オメガ隊、です」
カッコイイ名前だ、名前負けしなければいいが。
そして、オメガ隊の初陣が始まろうとしていた。




