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ブルー・スカイ  作者: 嶺司
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第10話 大丈夫

「君ぃ、全然大丈夫じゃないじゃない」

水咲さんの声が聞こえる。

いつも俺は、彼女たちに心配をかけまいと思って、大丈夫、と結構言っている気がする。今になってそんなことを言わないで欲しいと、少し涙目になる。

「東條啓少尉、ブルー隊配属を命ぜられブルー3に加わります。よろしくお願いします!」

啓にはほとんど何もしてやれてない、すごく申し訳ないし、もっと笑顔の多い人になって欲しい。これは走馬灯か。


《《剣くん!》》

2人の声が頭に響く、俺は慌てて目を見開いた。

前方に機影が2つ見える。

ハッと後ろを見ると、敵機は旋回して元来た空を戻ろうとしている。その際、1機の戦闘機の両翼に端が赤く塗られているのが見えた。

(あいつは!)

以前に俺がやられかけた機体だ、あの時は水咲さんに助けられたが、また助けてもらう事になるなんて。

《ブルー3、フォックス3!!》

啓の声が感情的に聞こえた、かなり声を荒らげて俺のために怒ってくれているようだ、長距離AAMを発射し、2人は俺の両脇をかすめて行く。

後ろを振り向くと、敵機は大きく旋回しフレアを発射、回避行動をとっている。俺も援護しようと操縦桿を倒し急旋回しようとするが機体制御系のアラームが鳴りだした、機体は自動で安定する姿勢に戻る。

「くそっ!」

思わず俺は拳でキャノピーを叩く、援護したいのに出来ない、もどかしくて奥歯を噛み締める。

こうなったら!と、制御系の安全装置を解除しようとスイッチに手を伸ばす。解除すれば旋回出来るかもしれないが、右翼のエルロン(補助翼)が動くのか不明だ、安定性を失いきりもみ状態となって墜落する可能性もある。

考え、伸ばした手が止まった。


どうする。


《ブルー隊、深追いするな、撤退せよ!》

管制の声で我に返った、スイッチに伸ばしていた手を慌てて戻す。

彼女たちは追撃を辞め俺の後ろに付く、敵機はそのまま北の方へ姿を消して行った、九死に一生とはまさにこの事だ。

《剣くん、大丈夫?》

水咲さんだ、また心配をかけてしまった。大丈夫と聞かれて大丈夫だった事がない。しかし、言ってしまう。

《ああ、大丈夫だよ、ありがとう》

自分でも分かっている、被弾しといてなーにが大丈夫だと、だがこれしか言えないのだ。

《被弾しているようです、機器は大丈夫ですか?》

冷静な啓の声、さっきまで声を荒らげていたのが嘘のようだ。俺は彼女たちの声で余裕が出来たので、機器のチェックを始める。

右翼ミサイルは発射不能、エルロンも動かない、意外と重症だ。だが、エンジンは動くし尾翼も問題ない、タイヤも出そうだ、そこは安心する。

《右エルロンが動かないけど、帰れるかな》

多分大丈夫そうだ、機器チェックで右エルロンの警報が鳴り出したのでスイッチを切る。念のため脱出装置も確認するが異常なし、何があっても大丈夫、自分に言い聞かせる。

《良かった。じゃ、帰ろっか》

水咲さんが前に出る、俺は彼女の優しい声に導かれるように端島に向かった。



《ブルー隊が帰投する、緊急着陸用意》

俺は慌てて外に駆け出る、基地救難隊が慌ただしく消防車を発車させ位置につく。

「笹井さん大丈夫ですかね??」

後ろから賀東くんが駆け寄ってきた、彼も心配で出てきたのだろう。

「帰ってきたんだ、大丈夫でしょう」

俺はそう言い空を見上げていると、もう1人駆け寄ってくる。

「あのバカ、大丈夫だろーな?」

荒木さんだ、なぜ彼はこんなにもいろんな人に慕われているのか、特に誰に何かをしている所を見た事がない、強いて言うならばエレメントの吉田さん、東條さんと仲良さそうにしているぐらいだ。俺は、よそ者だし少し羨ましく思う。

彼らが帰ってきた。

3機が俺達の真上を通り過ぎていく、前から2機目は翼から白く煙を吐いていた。

俺達は無事に着陸することを祈るしかなかった。



剣くんが着陸体制に入った。

私と啓ちゃんは先に着陸して既に機体は駐機場に止めてあり、機体から降りて彼の着陸を見守る。

被弾して若干不安定な状態だが彼なら大丈夫だろう。

ゆらゆらと深青色のF-35が滑走路に侵入してくる、風もそれほど無く、角度もいいし、ちゃんとタイヤも出ている、問題は無いだろう。

タイヤが地面につきキュッと白く煙を上げ、そのまま安定して滑走路を進み、止まった。

「良かったぁ」

安堵が漏れる。

彼の機体は自力でそのまま駐機場へとやってきて、指定された場所に止まり私達は駆け寄った。



なんとか無事に着陸するとこが出来た。

「ふー」

安堵のため息をついてヘルメットを脱ぐ。

キャノピーを開け整備員によりラッタルが横付けされる。あとは整備員に任せよう、俺は機体から降りる、そこに水咲さん達が走り寄って来た。

「水咲さん、啓、ありが、ごふっ!」

みぞおちに激痛が走る、何が何だか分からず下を見ると、啓の右拳が俺のみぞおちにめり込んでいた、何でぇ?と涙目になる。

条件反射で2撃目を避けよるため啓を離そうと肩を掴むが、彼女は震えていた。

「え、どうした?」

がっしり掴んでいた手の力を抜き優しく触る。

「...」

泣いている?泣かしちゃった?どうしようどうしようと俺は急に焦り出す。

「...バカ!」

啓が顔を上げ俺を睨む、え?と呆然としていると。

「剣くんが生きてないとダメなの!」

泣きながら彼女は俺の胸を両手でポコポコと叩く。ああ、そういう事かと、俺は理解した。心配をかけたようだ、空では冷静に振舞っていたのに、強がっていたのが、何か愛おしく感じる。確かに無謀な作戦だったし仕方ないだろう、俺は安心させるために彼女の頭を撫で「...ごめん」と小さく呟いた。

「あーあ、泣かせちゃった」

美咲さんも啓の背中をさする。

「ちがっ......、ごめん...」

言い返せる言葉が無い。

「でも、無事で良かった」

水咲さんはニッコリして俺の頭を撫でてくれる、少し恥ずかしく思ったが、彼女の目の端には何か光るものが見えた、彼女も泣かせてしまったようだ。

急に何だか胸の奥底から色々なものが込み上げて来る。

「...ごめん」

気付けば俺も涙を流していた、無事に帰ってきたし、泣く必要なんかないと思っているのに啓が、俺のために泣いてくれていると思うと涙が止まらなくなる。

「何で君が泣いてるのよ」

笑顔だが少し涙声になっている水咲さんが聞いてくる、それは、俺が彼女達を泣かせてしまったからだ。

もっと、強くならなくちゃ。

そう心に誓った。

俺は左手で啓の背中を摩り、水咲さんを右手で抱き寄せ暫く2人を優しく抱き背中を摩っていた。


ふと顔を上げるとみんなが俺達を見ていた。

ヤッバ!と思った俺は2人の背中を叩き、後ろを見るように合図する。

「「あっ」」

水咲さんの顔は赤くなり、啓は一瞬で俺の背中に隠れる。

「あ、邪魔しましたかね?」

黒木さんだ、申し訳なさそうにこちらを見ている。その後ろに荒木さんと、リンさんもいる、荒木さんには見られたくなかったな、暫くいじられそうだ。

「いや、大丈夫ですよ、生きて帰れたから...、多少は、ね?」

ハハハ、と作り笑いをする俺。それを見て黒木さん達も笑う。

「元気そうで良かったです」

「バカ野郎、心配かけやがって」

「良かった良かった」

どうやら彼らも心配してくれていたようだ、俺はまたそれに熱くなる。

「ご心配かけました!」

俺は大きくハッキリと言って深々と頭を下げた。


夕方。

「カフェ・スカイ」

チリンチリン。

来客の鈴が鳴る。

「いらっしゃい、剣くん、ちゃんと来たね、今日は1人かい?」

「うん、ちょっと。あ、いつものお願いします」

マスターの声に返事を濁らせながら注文をして、いつもの窓際の席に座る。

リュウが厨房から出てきた。

「剣くんおかえり!あらどうしたの、フラれた?」

いつもの悪い笑顔で聞いてくる、いつもの俺は声を張って否定するが。

「ちげーよ」

と、ボソッと答える。

リュウは不審に思い首を傾げつつも、俺の注文を作りに厨房へと帰って行った。

俺は外を眺める、さっきまで晴れていた空がだんだん夕暮れと共に曇ってきた。これは一雨来そうだ、傘もってくるの忘れたなー、と思いつつただボヤーとする。

ポツポツと窓に水滴がつく。

途端、ザーと本降りになる、俺はただ窓につく水滴を眺める。

「おっまたせー、あ、雨、降ってきたね」

俺の前にミルクコーヒーとチョコワッフルを置き、俺の隣の席に自分のであろうミルクコーヒーを置く、リュウは4人掛けのテーブルなのに何故か俺の隣に座った。

「どーしたの?元気ないじゃん?」

彼女は心配そうに俺の顔を覗き込む。

「ちょっとねぇ、考え事」

あまり関わって欲しくない気もするが、彼女に話を聞いて欲しい気もしてここに来た俺がいる、ただ考えるだけなら、いつもの格納庫の上に行けばいいのだ。両肘をつき顎に手を当て、遠くを見る。

「ふぅん、そう」

リュウはそれから特に何を言うでもなく、俺の隣に座ったまま、ズズズとミルクコーヒーを啜る。

何分たったろうか、沈黙が続く中、リュウは動くことなくまだ隣にいる。

日は完全に落ち、外は暗くなって雨の音だけがザーザーと聞こえる。

「あのさ」

「なぁに?」

重い口を開くと、すぐにリュウは返答し俺を覗き込む。

「リュウに言っても仕方ないんだけど、俺、2人に心配ばかりかけて何も隊長らしいこと出来てないなって思って、それで...、なんて言ったらいいかなぁ...」

言いたいことがまとまらず話に詰まる、この不安な気持ちをどう伝えたらいいのか分からない。伝えてちょっとスッキリしたいのに何と言えばいいのか...。

「剣くん、上手くやってると思うけどなぁ」

え?と聞き返す。

「だって剣くん、ここに初めて来た時から最近まで預けられた猫みたいだったもん、話しかけてもなーんか反応薄くてさ。でも、水咲さんとか啓さんとかが来てから、剣くん楽しそうだし、2人もずっと笑ってるよ、それでいいんじゃない?私も、剣くんに笑顔が増えて嬉しいしさ!」

ニーっとリュウが笑う、楽しければいいか、それも一つの考えかなと。それに、リュウにも心配をかけていたようだ。

「ごめん」

と、反射的に謝る。

「何で謝るのよっ!」

バチーンと背中を叩かれた。

「いった!何すんだよ!」

びっくりし声を張ってリュウを怒ろうとすると、彼女の顔はいつもの悪そうな顔で笑っている。

「良かった、元に戻った」

うふっ(はーと)とリュウは俺にウィンクする、彼女なりの元気づけだったようだ。

「それで、戻らなくていいの?」

別にサボっている訳では無い、機体が壊れて今は飛べないことを簡単に説明する。

「そんなことあったの?そりゃ心配するよぉ」

なんかちょっと引いているリュウがいる、仕方ないじゃんと少し理不尽に思う。

チリンチリン。

誰かが入ってきた。

「水咲ちゃん、いらっしゃい」

雨合羽を着た水咲さんだ、彼女はいつでもスクランブルできるように今頃、待機室にいるはず、どうしてここに。

「剣くん、迎えに来たよ」

というと、俺に向かって雨合羽を投げ、俺はそれを受け取る。

「お、あ」

どうして?と少しの間呆然としていると、リュウに肘でツンツンされる。

「彼女たち、大切にするんだよ」

小声で言われる、俺は分かってるよ!と同じく小声で返す。水咲さんはどうしたのかな?と首を傾げて待っている。

俺は席から立ち上がり会計を済ます。

「水咲さん、ありがとう」

水咲さんにお礼をいう、彼女はいいよいいよと笑って答える。本当にお姉さんみたいで優しい人だ。

そして、お店を後にする、別れ際リュウに。

「上手くやるのよー!」

と言われて水咲さんに、何話してたの?と聞かれたが、ちょっとね、と誤魔化した。

外に出るとまだザーザーと雨が降っている、外から聞くよりもけっこう大きな雨音だ、暫く止みそうにない。

「帰ろっか」

「うん」

俺は雨合羽をバサッと羽織って、自転車には跨らず押しながら歩く、水咲さんも俺を見て自転車を押す。

「水咲さん」

「なに?」

少し、後ろを歩いていた水咲さんが早歩きで俺の隣まで詰めてくる、言いたいことがあったが急に恥ずかしくなってきた。

「なんでもない!」

俺は自転車に跨って逃げるように基地に向かう。

「え、ちょっと、なによ!」

水咲さんも慌てて自転車をに跨って俺を追いかける、その時恥ずかしくて逃げていた俺は少し笑っていたと思う。


彼女たちのために強くならなくちゃ。

改めて思った。


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