第1話 出会い
読んでくださった方ありがとうございます。
初めまして、嶺司と申します。
今回、小説家になろうでは初めての投稿になります。
お手柔らかにお願いします。
話は変わって戦闘機乗りの異世界架空戦記物となります。
随時加筆修正連載としていきますので気長にお待ちください。
大空には銃声と爆発音が響いていた。
《こちらアルファ1、不明機の数が情報より多い!援軍はまだですか!?》
空には青迷彩のF-16が4機と暗灰色のSu-27が7機、強風に舞う木の葉のように左右にゆれている。
《情報が錯綜している少し待て。》
F-16の方はみなが皆追われる形で必死に飛んでいる。垂直尾翼に黄色の一本線がある隊長機らしい機体はSu3機を引き付けギリギリで飛んでいる。
ーーボンッ。
刹那、隊長機の斜め前方を逃げ回っていた青い機体が炎に包まれパイロットは脱出する暇もなく粉々に砕け散る。
《ーーっ!なんだってこんな...》
隊長機はついにフレアを使い切り先程粉々に砕け深い海に落ちていく僚機を一瞬視界に入れる。ここまでか...。
《こちら、第14飛行隊ブルー1まもなく空域に到着する》
無線からまだ、あどけなさが残る男とも女ともよく分からない声が聞こえた。第14飛行隊と言えばあの、離れ小島の飛行隊か、そんなことを思っていると東の空がキラリと1つ光り、それと同時にまた4つ光った。
《ブルー1、フォクス3》
それからはあっという間だった。
開幕放った4発のミサイルは全弾命中、あの機体はこの空は無重力なんじゃないかと思うほど縦横無尽に空を舞い次々に不明機を落としていく。しかし、不明機の彼らは全員脱出し海面パラシュートが漂っている。ここで、奴らに追い打ちをかけたい気持ちは無いといえば嘘になる、しかし、そんなことをすれば国際法違反で祖国の立場が危うくなってしまう。領空侵犯しておいてなんだ、とはなってしまうけど。
《不明機全機の撃墜を確認》
ブルー1は冷静に空域管制にそう告げる、管制も確認したようだ帰投命令が降りた。
初め4機いた私たちアルファ隊は3機に減り。宙の奥、深い青色をしたF-35の後ろを飛んでいる、ここを、離れるのを惜しむように上空を大きく旋回して。
《ブルー1からアルファ1、一度端島に寄っていくといよ》
端島ここから東に50キロほど離れた小島、というより環礁、本土からも500キロ程とそれなりに離れている彼の所属基地だ。ふと、残燃料を見るととても自分の所属基地まで戻れる量はなかった。本当は帰投分の燃料を気にしながら飛ぶのがセオリーなんだろうけど、増槽も捨ててしまったしとてもそんな余裕はなかった。
《アルファ1了解、後ろについて行きます》
今でも後ろを飛んでいるんだけど、彼は進路を真東にとりこの空域を離れて私もそれに続く。
※
《ブルー1、アルファ隊が帰投する。緊急着陸用意》
南国海の離れ小島、エルゲート連邦最西端の地、端島飛行場が慌ただしくなる、車庫から消防車が次々と発進し滑走路に待機する。
まもなくして彼らの姿が見えた、ブルー1は悠々と着陸し駐機場に向かう。そして、素早くコックピットから降りて後続を心配そうに見つめる。ヘルメットを外し、軍人に似つかわしくないショートヘアを風になびかせる。
するとフラフラとF-16が降りてきた、外見は大丈夫そうだ念の為緊急着陸体制をとってもらったけど取り越し苦労だと願いたい。
そして、1機また1機と無事に降りてきた。3機は誘導員に導かれブルー1の隣に駐機した。
隊長は女性だった、ヘルメットを脱ぐと肩ぐらいまであるストレートヘアを首を振りなびかせる。
「え?」と思うほど美人で、パイロットで、こんなの反則じゃん!と思えてくる。
そんな彼女もなんだか自分と同じ反応をしている。若干目を点にして首を傾げる。
「あ、笹井剣特務大尉です」
なんだか、よく分からなったがとりあえずば自己紹介だ、敬礼も忘れない。
「よ、吉田水咲中尉です」
彼女もぎこちなく敬礼を返してくれた。すると直ぐに口を開く。
「君、何歳?男??」
俺は思わず咳き込んで「男です!!」ここ重要!と叫ぶ。
「まあ、20歳ですけど...」
「え、若っ!年下!?」
どうやら彼女、吉田水咲さん、歳は24歳らしい。軍隊でありがちな年上部下というややこしい関係という訳だ。
「上官には敬語ですよ」
「なっ!」
特務大尉の分際でぇ!と怒鳴られそうだったがそんなことはなかった、水咲さんはブツブツ言いながらも納得してくれる。俺の「特務」大尉は少々複雑で話せば長くなるので納得してくれるとありがたい。
そして水咲さんは隊の部下を紹介してくれた、2番機は大柄でまさにゴリマッチョな本田さん、4番機はなんだか物静かでインテリ男子な榊原さん。そして、撃墜されたのは3番機の田代さん。弟みたいに可愛がっていたららしい。
「まあ、軍人なんで覚悟はしてましたけど...」
水咲さんは静かに言って空を見上げる。
重い空気が立ち込め、立ち話もなんなんでと俺は搭乗員待機室に案内することにした。
駐機場では俺達の機体の整備、燃料補給が始まっていた、まだ、しばらく時間がかかるだろう。
そして、待機室に着くとことの経緯を話した。
彼女達は端島の南西約150キロ公海上で模擬戦をしていた、機体の重さに慣れるために全弾装填し。すると、まもなく訓練を終えて帰投しようとしたころ緊急信を受信、防空識別圏に侵入する不明機対処を命じられ現場に急行したとの事。一方俺はと言うと、他の連中はほとんど本土の集合訓練参加のため数人のひよっこと留守番をしていた、のほほんと南国の風を感じつつ格納庫近くのベンチで空を眺めていたら、基地にサイレンが鳴り響き、ミサイルの搭載をまだかまだかと足踏みをしながら待ちスクランブルした。
「もう少し、早ければ...」
思わず口から漏れる。あと1分早ければ3番機は落ちなかったかもしれない。自分の腕に格別な自信がある訳では無いがそんじゃそこらのやつには負けないとは思っている。
「仕方ないです...」
水咲さんはそう言って他のふたりも頷く。軍人とはそうなのだと。
誰が死に、誰かが生きる。
少しの沈黙が流れると、けたたましく基地にサイレンが鳴り響く。
《国籍不明機2機が防空識別圏に侵入、ブルー1はスクランブル発進急げ!》
まじかぁ、と俺は椅子に1回もたれ天を仰いでから勢いよく立ち上がる。
「わ、私も!」
水咲さんもいそいそと支度を始める。
「いや、他の隊の人を命令なしに飛ばす訳には行かないよ、俺は大丈夫だから」
俺は彼女達を残して再び西の空へ飛んで行く。飛行場を離陸するまで彼女達は律儀に見送ってくれた。まだ、出会って数時間なのに、見送られながら飛ぶのはいつぶりだろうか、そんなことを思いつつ指定された空域に到着しても不明機の姿はなく、ただ、夕暮れに赤く染まる空だけがあった。
●
基地に戻ると彼女達の姿はなかった。整備、燃料補給は終了し早急に帰投せよと、部隊から連絡があったそうだ。まあ、そうだよなと内心ガッカリしつつ機体を整備員に預け部屋に戻ろうとすると1人の整備員に呼び止められた。
「あの、アルファ隊の隊長さんがこれを特務大尉へと」
彼が預かっていたのは黄色のミサンガだ、そういえば水咲さんはこんなのを付けていたかもしれない、なんか緊張してよく見れなかったんだよなと多少後悔しそれを受け取る。綺麗な黄色だがちょっと油のようなものもついていて使い込んだ感がある。もしかして、自分が付けてたやつを?俺はちょっと嬉しくなった。これはあれだな...、と多分ちょっとニヤついていたと思う。整備員は不思議そうな顔をして「では」と去っていった。
俺はそのミサンガをグルグルと左手に巻き付け部屋に帰った。
そしてまもなく、端島の西約800キロに位置する西の大陸の大国、ローレニア連合王国は、わが祖国エルゲート連邦に宣戦を布告した。
※
8月5日。
あれから3ヶ月が過ぎた。
航空隊再編だなんだかんだと基地の古参兵達は内地に引っ張られ俺はここに残った。平和な南国離れ小島が1日にして最前線に変わりほぼ毎日出撃している、2番機は相変わらず不在だ。ひよっこは後輩(と言っても年上)に一任している、教える暇もないし、なんせついてこれないだろうから。
水咲さん達とも連絡はとっていない、暇がないというか理由がないというか、そんな感じだ。
そしてまた、アラームがけたたましく島中に鳴り響き俺はスクランブルする。
今日の目標もなんてことは無いローレニアの無人偵察機だ、いつもと違うとすればレーダーに引っかからず領空侵犯しているということぐらい。さっさと終わらして帰ろう、いつもと同じことを考える。てか、こんな近海の目標なんざ海軍が片付けろよとちょっとイライラする。
そもそも、ローレニアの宣戦布告の理由もろくに聞かされていない。末端が知るような事じゃないと基地司令に一蹴りされ、不満は募る。それを無人機の対処にぶつけている感じだ。
《無人機発見、撃墜します》
目視で無人機を捉えた、相変わらずの暗灰色でなんだか不気味に感じる。
《了解、撃墜しろ》
管制から許可が降りた。無人機なんざにミサイルを使うまでもなく機銃を数連射しただけで脆くも無人機は空中分解しながら海に落ちていく。
《目標撃墜、帰投しま...?》
眼下海上ギリギリに高速で飛翔する物体がチラリとみえた。戦闘機か?本能でやばいと感じだ俺は。
《新たな目標視認!追撃します!》
そう言った頃には既にフルスロットルで追撃を開始していた。管制も、了解とだけ言って止めはしない。
上空約3000メートルから海上にダイブする如く急降下する、相手も早いが追いつけなくもない、不明機の若干上をとるように徐々に近づく。
目標がミサイルの射程に入った、機体は暗灰色のSu-27、ローレニアで間違いない。他のそれと違うところは両翼端が赤色に塗られている。管制にそのことを伝えると撃墜許可が降りた、敵は相変わらず高速で直進している。この先に何かあったかなと思うが今は目の前の敵に集中する。
刹那。
「え?」
目の前から敵が消えていた。
慌ててレーダーを見ると目を疑う、恐る恐る後ろを見ると暗灰色の機体が後ろにピッタリとくっついていた。
一気に血の気が引いていく、敵は勝ちを確信したのか撃ってこない、この隙に逃げようと機体を上下左右に回避行動をとるがまだピッタリとくっついている。
《逃げて!!》
叫びすぎて音割れした女性の声。はっと上を見ると青迷彩で垂直尾翼に黄色の線が描かれたF-16が間に割って入り敵の注意を逸らす。
《水咲さん!?》
《はやく!》
早くったって女性を1人こんな所に置いていく訳にも行かない、何とか射線に入らないようにジグザクと辺りを飛び回る。するとどういう訳か敵はフワッと反転して来た空を帰っていく。何かの罠かとも思ったがそのまま西の空に消えていった。
飛び出しそうにバクバクと暴れていた心臓はようやく落ち着きを取り戻す。
《行きましょう...》
《お、おう...》
九死に一生を得た俺達は言葉少なく端島に帰投した。
●
俺は航空隊司令室前にいた、それは。
彼女にお礼を言いたくてでもなかなか言えなくて、とぼとぼと遠く後ろをついていたらここに来ていた。中から声がする、そっと聞き耳をたてる。
「吉田水咲中尉、本日付で第14飛行隊勤務を命ぜられ同日着隊しました!よろしくお願いします!」
優しそうで、しかしハキハキとした声で司令に挨拶しているようだ。14飛行隊勤務ってマジか。何故か心臓が高鳴る。
「うむ、よろしく頼む」
司令の野太い声が聞こえる。
「早速だが君にはブルー隊の2番機に付いてもらう」
ほうほう、ブルー隊の2番...機...!?
みるみる顔が赤くなっていくのが自分でもわかる、え?な、え??と傍から見るとヤバい子と見られるぐらい頭をぐしゃぐしゃとしている。
ガチャ。
司令室のドアが開くと同時に水咲さんと目が合った。
「あ...」
「剣くん?」
俺は慌ててビシッと姿勢を正す。
「さっきは...ありがとうございました...」
突然の鉢合わせに言葉を詰まらせながらもお礼を言う。水咲さんはクスっと笑って「君ぃ、ぜんぜん大丈夫じゃないじゃない」と、俺のおでこをコツンと叩いた。
「いて」
全然痛くないけどつい言ってしまう。ああ、痛いっていいなとドM顔負けなことを考えてしまった、実際、パイロットになってやられそうになったのはアレが初めてだった。模擬戦では古参のエースに何回かやられたことはあったが実践では訳が違う。俺は叩かれたおでこを少しさする。
「じゃぁ、よろしくお願いします。隊長」
直視できないようなキラキラとした笑顔で俺に右手を差し出す。
俺は思わず目を背けて「あ、うん」と握手を交わす。
それが、俺と彼女の出会いだ。