魔剣は無価値3
「ちょっと振って見てもいいか?」
ガンテツ「それはダメだ!この剣にエンチャントされてる炎は結構強力でな。
この通りちょっと振っただけでも炎が漏れちまうんだ。」
ガンテツは、ほんの軽く剣を振って見せた。
が、言っていたような炎は微塵も出ない。
ガンテツ「あれ?」
ガンテツは、少しずつ振る勢いを強めて何度も振ったが、炎は全く出ない。
顔が徐々にこわばってきている。
ガンテツは、すっと剣を降るのをやめ、店の裏にかけて言ったかと思うと、おかしなメガネをかけて戻ってきた。
そしてまた剣を手に持ち、何かを確認している。
ガンテツ「おかしいな。エンチャントされていた魔法が、綺麗さっぱり消えてる。」
「え、そんなことあるのか?」
ガンテツ「いや、こんなことは初めてだ。俺にもよくわからない…。
このメガネは、マナを見るための道具なんだが、この剣からは何も見えないんだ。」
ガンテツはもう一度剣を置き、不服そうな顔ではあったが、それもすぐに切り替えて別の剣を持った。
ガンテツ「とにかくその剣は売り物にならねぇ。この剣も魔剣なんだがどうだ?」
短剣か。
う~ん。観賞用っぽくはないが、さっきの剣を見てからだといまいちグッとこない。
しかし、確かに先ほどの剣ほどではないが、不思議な力、惹きつけられるような魅力を感じる。
俺は剣を受け取った。
ガンテツ「なっ!??どういうことだ!!」
ガンテツの図太い声が、俺を固まらせた。
「どうしたんだ?」
ガンテツ「マナが…。逃げていきやがった…。」
それって、何がどうなったんだ。
確かに感じていた魅力が全くない。
魔法の存在さえついさっき知ったばかりだった俺は、急にマナだの逃げ出すだの、理解できるはずもなく混乱していたが、しかし明らかにガンテツの顔の方がやばい。
ガンテツ「確かめたいことがある。」
ガンテツは、すぐそこの棚に置いてある拳大の綺麗に削られた石を持ってきた。
ガンテツ「これは、辺りを照らすライトの魔法がエンチャントされてるんだが、こいつを持ってみてくれ。」
スッと渡されたので、なんの抵抗もなく俺は受け取った。
少しの間をおいて、こわばっていたガンテツの表情がやっと形を変えた。
ガンテツ「歩成…。お前さん、どうしてかマナに嫌われてるぞ。」
「なっ、それってどういうことだ…?」
ガンテツ「その石には、もう魔力は残ってない。
お前の手に触れた瞬間にマナたちが逃げ出したんだ。
おそらく最初の剣もそうだろう。」
「ってことは、俺、売り物いくつか台無しにしちまったってこと?」
ガンテツ「きっちり払ってもらうからな?」
ガンテツは、薄ら笑いを浮かべた。
いや、あの目は笑ってない。
逃げてしまいたい。
けど、流石にそれはできない。
異世界に来て、捕まりそうになって、賠償金請求されて、王女様の護衛をすることになって。
あげく、武器をダメにして、マナに嫌われてて。
はぁ。お金、足りるかな。
俺は、2本の剣とただの石ころを買うはめになった。
しかし、魔剣ファルマ以外はそこまでの金額もしなかったのと、流石にエンチャントされていない剣を150万ベルで売るなんて、店の名に傷がつくとのことで、三つを合わせて100万ベルにしてもらえた。
残ったお金の中から、動きやすそうな防具を適当に揃えた。
全て合わせて120万ベル。
明らかに使いすぎてはいるのだが、本来ならもっと払うべきだったのに、これでいいと言ってくれたガンテツ。
その優しさに、俺は必要ないものまで買っているはずなのに、すごく得をした気分だった。
「ガンテツ。本当に世話になった。」
ガンテツ「いいってことよ!またうちの店を使ってくれりゃな!装備のメンテナンスもやってるから、またいつでも来いや!」
「あぁ!わかった。その時はおっさんに頼むとするよ!」
そして、俺は店を出た。
「マナっていうのは多分、魔力の元のことか。そのマナが俺から逃げていくってことは、やっぱり俺、魔法って使えないのかな…。
魔法の道具とかも使えないのかなぁ。はぁ。
元の世界でも、親父のせいで、好きなこともできないし、友達もいなかったし、どこにいっても俺は世界に嫌われるのか。
この剣ファルマって言ってたっけ。もう魔剣でもないし、炎なんか出ないし、そもそも俺、真剣握ったことはあるけど、剣術なんてやったことないし、親父、武器とか嫌いだったからなぁ...。」
歩成は、腐っていた。
小、中、高の同級生たちは、誰一人歩成に関わろうとするものはいなかった。
小さい頃、一度家に友達を連れて帰った時に、歩成は父にボコボコにされたことがある。
それ以来、みんなが歩成を避けた。
父の修行は、独自の流派の実験のようなものだった。
新庄流。
全く新しいそれは、完成や目標がないだけに、修行は常識はずれに苦しいものばかりだった。
他のことは何もやらしてもらえない。
嫌いになるのは当然、と言ってしまえばそうなのである。
歩成はひたすら自分の人生にため息をつきながら、ガンテツに、ついでに教えてもらった飯屋へ向かった。