魔剣は無価値2
取引所は、ハムリと言うじいさんが経営している。
入り口の大きさとは裏腹に、店内は小狭く古汚い。
ハムリ「う~ん。60万ベルといったところじゃな。」
「お!そんなにするのか、この魔獣!」
ハムリ「うむ。なかなかに質も良いのでな。」
魔獣をジロジロと見ながら、ハムリは言った。
そこへ、後ろから小さい声で俺を呼ぶ声がした。
男「おい。あんちゃんあんちゃん。』
振り返ると、ガタイのいい顔のゴツゴツしたおっさんが、手招きをしていた。
男「お前、取引は初めてか?」
「あぁ。そうだけど。」
男「はぁ。どおりで交渉もクソもないと思ったぜ。」
ズーンとわかりやすくがっかりしている様子。
少し腹がたつ。
男「いいかよく聞け。ここの店主は、ケチで有名なんだよ。俺の見立てだとあの素材は相当なもんだ。そこで、俺が交渉をしてやる。その代わりこのあと俺についてこい。」
グッと親指を立て、俺の返事なんか聞くそぶりもなく立ち上がり、ハムリと対面した。
男「よぉ。ハムリのじいさんよ。」
ハムリ「なんじゃ、ガンテツか。何の用じゃ。」
このおっさんはガンテツというらしい。
クスッ。顔に負けない、いい名前だ。
ガンテツ「この魔獣、かなりの上物だな。
うん、この白銀の毛皮は、切り傷や刺し傷もない綺麗な状態だ。
コートにすればこれだけで1着50万ベルは下らないだろう。
それが大体3、いや4着は作れるだろう。
それに、牙や爪を見ても、随分いいものを食べていたんだな。
硬くて、それでいて程よくしなやかだ。
加工がしやすい、いい素材だ。
俺から言わせればこの魔獣。250万はしてもおかしくない。」
250万!!?
そんなに高価な素材なのかこいつ!
さっきの60万ベルってなんだったんだよ!
このじいさん、俺の足元を見てたのか。
ハムリ「ば!バカを言うな!確かに質はいいが見ろ!
所々汚れとる!こんな状態じゃ出せても100万ベルがいいとこじゃ!」
ガンテツ「そんなのはただの泥汚れだ。洗えば住む話。それでどうすんだ?」
ハムリ「ぐぅ~。150じゃ…。」
ガンテツ「いーや。250だ」
ハムリ「ぬぅぐぐ、180じゃ…。」
ガンテツ「250だ!」
ハムリ「200でどうじゃ!もう勘弁しとくれい。」
ガンテツ「いいだろう!売った!」
ガンテツは満面の笑みを浮かべて俺の方へと寄ってきて
ガンテツ「これが交渉だ!わかったか!蛮勇!ガッハッハッハ!」
俺は苦笑いをして、ぎこちなく会釈をした。
こうして俺は、200万ベルを手に入れた。
討伐報酬の200万ベルは、早々に民家の修繕費として消えていたので、これが俺の全財産である。
ガンテツ「さてと、俺の取り分だが。」
なんだこのおっさん随分図々しいな、と思いながらも、確かにこの金はおっさんなしには手に入れられなかったので、素直に話を聞いた。
ガンテツ「ここで話すのもなんだ。ついてきな!」
取引所のある大通りを、数分歩き狭い路地を抜けると別の大通りに出た。
先ほどの通りに比べて、武装した人が多く歩いている。
ガラス張りの向こうには、武器や防具が飾ってある、取引所よりは少し大きめの店へ入って行った。
店内には、剣や槍、弓、あまりにも動きずらそうな鎧など、様々な装備が揃えられている。
出入り口で自然と足が止まり。目を輝かせて、素人丸出しのようにあちこちを見ていた。
装備を揃えないといけなかった俺は、偶然にもいいところへ連れてきてもらったようだ。
ガンテツ「ようこそ蛮勇!ここが俺の店だ!さっきの報酬だが、この俺の店で装備を揃えてもらう。
何安心しろ!できの悪いものは扱ってないからな!
ガッハッハッハ!」
「おっさん!武器屋だったのか!」
ガンテツ「あぁ!好きなのを選びな!なんなら俺が一から鍛えてやってもいいぞ!なんたってお前は、俺のお気に入りだからな!蛮勇!」
このおっさんは、めちゃくちゃいいやつだった。
武器の善し悪しは、剣術の経験はないが、なんとなくの雰囲気でわかった。
家に飾られていた日本刀で、小さい頃はよく遊んでいた。
その日本刀が相当な業物だったことは、もう少し大きくなって知ったことであった。
しかし、日本刀以外の武器は、初めて見る。何と無くで、とりあえず色々見て回った。
「おっさん。」
ガンテツ「なんだ蛮勇!」
嬉しそうにニヤニヤしながらガンテツは返事をした。
きっとこのおっさん、見た目とは違い、すごくピュアなんだろう。
「さっきからその蛮勇ってのはなんなんだ?」
ガンテツ「なんだ。しらねぇのか? あのキングウルフを、収納魔法も使わねぇで無表情で引きずって門をくぐってきたその姿。 流石の俺も痺れたぜ!それでどっかのやつが蛮勇だとか広めてやがったんだよ!」
収納魔法?魔法がこの世界にはあるのか。俺も使って見たい。
あの冷たい目線は、キングウルフに向けられたというよりも、それを隠しもせず堂々と連れてきた俺へのものだったのか。
まぁ、そんなこと知らなかった俺は、流石に引きずってきたのはまずかったのかと、少し反省をした。
今度、収納魔法教えてもらおう…。
「なぁ、ガンテツ。あのケースの中の武器も見ていいか?」
俺は、立てかけている武器や、樽にぶち込まれてる武器は、一通り目を通した。
が、ケースの中に飾られている武器からは、何か不思議な魅力を感じていた。
ガンテツ「おぁ!そこそこ値は張るが強力な武器だぞ!見る目があるな!さっすが蛮勇!」
「その蛮勇ってのはやめてくれ...。俺は歩成だ。」
俺は、ケースの中にある武器を出してもらった。
ガンテツ「こいつには、強度上昇と炎の魔法がエンチャントされてんだ。しかも元の素材が、鋼とアダマンタイト功績ときた!かなりの上物だぜ!」
かなりいい剣であることは間違いない。
他のケースに飾られている武器は、きらびやかに装飾され、剣の刃の部分が少し太く扱いずらそうだ。
それに比べてこの剣、無駄な装飾がない。
程よく細長くて、扱いなれたに本当に近いフォルム。
しかも、魔剣。
炎の剣かぁ。
是非とも使ってみたい。
「これはいくらするんだ?」
ガンテツ「まぁ、150万ベルってとこだな!歩成なら余裕で買える額だろ!ガッハッハッハ!」
150万!?
ちょっと待て!さっきから200万だの1500万だの、法外な金額しか聞かないぞ!?
「他の武器もそんなにするのか?」
ガンテツ「そんなことねぇさ!あっちの壁に立てかけられているのが5万前後、タルの中にあるのは3万の商品だ。壁に飾ってある武器が、10万~30万ってとこだな。」
なるほど、なんとなくこの世界の物価がわかってきた。
ガンテツ「ちなみに、ケースの中で一番高いのは800万はするぞ?」
もう驚かない。
おそらくそれは、貴族や王様たちが買うような観賞用の装飾された武器のことだろう。
装飾が明らかに邪魔で、実戦なんかでは使えたもんじゃない。
ガンテツ「そんなくだらねぇお飾りよりも、この剣の方が上等だぜ? どうだ、持ってみるか?」
「おぉ!サンキュ!」
俺は、剣を受け取った。
その瞬間、なぜか剣に魅力を感じなくなった。
まるで、気の抜けた炭酸のように、シュッと何処かへ行ってしまった何かを俺は感じた。