最初の冒険
「やってらんねぇよ!」
そう言って俺は道場を飛び出した。
親父は異常者だ。
特に武道をこよなく好む、人の形をした獣だ。
5歳の頃から、習い事の嵐。
柔道、空手、合気道、ボクシング、ムエタイにカンフーにetc…。
小学校から高校までは、ひたすら親父と修行の毎日。
当然のごとく、友達はいない。
卒業後も、勉学や就活は時間の無駄だと、親父が就職先を勝手に決め、俺は操り人形のように修行をさせられるところだった。
いや!ただの馬鹿だろ!脳筋だろ!!
そんなに戦いに備えてどうする!
一体親父は俺を何にしたいんだ!
自己流派を作りたいだと?
そんなの親父が勝手にやってろよ!
これ以上俺を巻き込むなよ!
もう十分だろ!俺もう今年で18だぞ!
もうたくさんだ。
「はぁ。」
自販機の缶コーヒは、もはや俺の冷え切った心のために熱めにしてくれているような気がした。
これからどうしよう。
あの馬鹿親父のことだ。
こんなことで変わるほど理解のある人間じゃない。
むしろあんなこと言って出て来たんだ。
帰りたくない。
「このままどこか遠くへ行ければなぁ。」
それは、突然目の前が光りだした。
「まぶしっ!なんだこれ!」
現れたのは… よくわからないが、穴? 空間に亀裂?
ぐにゃぐにゃと歪みながら、それはそこにある。
後ずさった体は、自然に一歩、二歩と前へ進んだ。
すると急に、その穴に体が吸い込まれて行ったーーー
気がつくと俺は、草原に寝転がっていた。
「なんだこれ。」
痛い…。草の上は気持ちのいいものだと思っていたが、うん、まぁ…
それからしばらくぼーっとして、すっと立ち上がると、
「ん?体が軽い。」
体の重みを感じない。というよりも、重力をほとんど感じない。
身体を触ったり、ひねってみたり、曲げたり伸ばしたりしてみたところ、特に変わったところはないのだが、
よし、おもいっきりジャンプをしてみよう…。
「うわぁっ!!!!」
うまく着地ができなかった。
だって、急に数十mも飛んだら、どうしていいか、わかんないよ!
でも、怪我はない…。
「すっげぇー。」
いてもたってもいられず、俺は走りだした。
超速で過ぎ去っていく景色。
よく見ると、見たことのないものばかりだ。
あの花なんて特に。びっくりするくらい茎が太っている。
根っこは飛び出し、その頼りない根が巨体を支え、全力で走っている。
…え!!? 走ってる!!!!!
そのなんとも滑稽な姿に、俺は笑いが止まらない。
「俺、異世界に来たんだ!!!!」