71. 殺人鬼の目的
『……王都で誘拐殺人犯「食人鬼」出没。昨夜、30代の女性を誘拐、付近の雑木林にて殺害。遺体は肉片が……』
国営新聞【ラムダ・タイムズ】の一面は、連続殺人犯『食人鬼』。
老若男女問わず、標的を攫って殺し、その死肉を食べる。正体不明の犯罪者である。
最初の被害者は大柄な中年男。次は痩せぎすの若い女。
狙われた者達に共通点などなく、無差別殺人を繰り返す。
連日、王都ではあらゆるメディアで騒がれているものの……犯人の影すら追えていない。
──────恐ろしい世の中になったものだ。
──────犯人は頭のおかしい奴だろ?物取りじゃねえってのがやべえよ。
毎晩1人、また1人……誰かが必ず殺される。
その度に王都の人々は恐怖し、眠れぬ夜を過ごしていた。
『……「食人鬼」は元傭兵との噂。これまで15人の被害者が連れ去られている様子から、凄腕である事は明白……』
『……夜、灯を完全に落として眠るのは危険。咄嗟に助けを求める事が困難である。傍には護身用のナイフを置いて眠る事を心掛け……』
新聞には、元軍人やらのインタビュー記事が載り、誰もが熱心に一面記事を読む。
この狂気の殺人犯の目的は何なのか?
何の恨みがあって殺人を繰り返すのか?
──────女だけ狙うってんなら、臆病な糞野郎だ。それが大の男まで殺してるとなると分からん。
──────人の肉を喰らうってのが気味悪いよ。背教者か、悪魔信仰でもしてるんだろうさ。怖いねぇ。
民兵団が何も対抗する事が出来ず、被害者の数が30人を超える頃になると、いよいよ民衆の不安は爆発する。
武具を抱えて眠る者、家族を連れて王都外へ避難する者、家に鍵を掛けて出ない者。様々だ。
集団で固まり、自衛を兼ねて騎士団の駐屯所に詰めかける者達も出て来た。
──────民兵団って頼りにならねえのな。つっかえねえの。
──────王宮から騎士団が派遣されるそうだぞ……大丈夫かな。
──────いよいよって感じだな。どんなヤバい殺人鬼が相手でも、さすがに騎士には敵わないだろ。
皆が皆、この凶行が終わる事を一様に願っていた。
犯人が早く掴まるよう、騎士団の活躍に期待する。
夜、王都に住まう皆が厳重に戸締りし、朝が来るのを待つ中……ついにその時が来た。
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号外!!
国営新聞『ラムダ・タイムズ』
【連続殺人犯『食人鬼』ついに逮捕!】
昨夜、騎士団はスラムの裏路地に潜む不審人物を発見。極秘裏に調査を進めていた所、犯行の瞬間を抑える事に成功した。『食人鬼』は抵抗したものの、騎士団長の一刀を肩に受け、そのまま捕縛された。
詳細は、また明日の新聞で明らかになるだろう。
一面を賑わせているのは、殺人鬼逮捕のニュースだった。
その正体、犯行の目的、依然としてまだまだ分かっていない事が多く、多くの者が注目する。
人々は安堵した瞬間、誰もが口々に噂の殺人鬼の事を知りたがった。
犯人はどこの誰だ?
性別は?男?女?
何の恨みがあって?どうやって?
なぜ誰にも見つからなかったの?
様々な疑問の数々が残るものの、犯人は黙して何も語らず。
平和な王都に大混乱を招いた危険人物がどこの誰なのか……徐々に明らかになる新情報に、誰もがこぞって注目した。
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【シェーダ商会、テーゼ商会と合併か】
【新国立劇場、完成迫る!お披露目は半月後】
【数年振りの不作、野菜の値段昨年の2割高に】
──────数々並ぶ記事の端の端。
【異民・難民の入植開始。労働力の底上げは確実。国民は喜びの声多数】
【第一王子フィリップ様、本日付けで政務復帰「贈賄疑惑は事実無根」国民は喜びの声多数】
【神の怒りか?国民を守る会、副議長急死。無責任な幕引きに国民は怒りの声多数】
真実は多くの人々の目に触れられる事無く、闇へ葬られる。
大きな事件の前では、ささいな出来事などすぐに忘れ去られてしまうのだった。
政府による大掛かりなプロパガンダです。
次回も早めに投稿します。




