68. 時限爆弾。
とある屋敷の地下室。
完成した機械仕掛けの『時限爆弾』。痩せぎすな男が爆弾のスイッチを手に、卑屈に笑った。
「フハハハハハ、とうとう出来たぞ!積年の恨み、まとめて晴らす時がきた!」
私は、将来を期待された魔術師見習いであった。
平民の身でありながらも優秀な頭脳を評価され、貴族も通う高名な帝都魔導学院に入学を許される。
そのままエリート街道を進み、いずれは魔法省の長官になるはずだったのに……。
私の研究テーマである『精霊を用いた永久エネルギーの開発』を問題視されたのが始まりだった。
精霊の中でも特に力が強く汎用性のある火精霊。その火精霊を暴走させる事により、膨大なエネルギーをスムーズに集める事が出来る。
素晴らしい着想を得た私は早速この研究論文を携え、教授会へ持ち込んだ所──────返って来たのは『不許可』の判が押された一枚の用紙だった。
人道的な観点から、精霊に危害を加える事は認められない、との事。
???
意味が分からなかった。
精霊などいくらでも存在する。この世界にはいたる所に潜んでいるものだ。
人体実験をする訳でもない。それこそ霞のような存在に対して配慮など必要なものか。
聞いて呆れてしまった私は頭の固い教授達に隠れ、ひっそりと誰も使わなくなった研究室の一画で密かに実験を繰り返していた所……その事に気付いた学生の一人が教師に密告。私は学院を退学させられてしまったのだ。
こんな非道、許されるはずがない。
少しの労力で、膨大なエネルギーが得られるのは実験で分かっている。自分の研究が日の目を浴びずにただ闇に葬られるのは我慢ならない。それこそ私の研究が時を経て、認められる可能性もあったのだ。
恥辱を受けた私はそれから20年、恨みを晴らす為、自分の研究を正しさを証明する為──────独自に研究を続けてきた。
そして完成したのが、精霊の心臓である精霊核を用いた爆弾……核爆弾だ。
計算によると一発で学院、いや、帝都の一部をも丸ごと消滅させるだけの力が備わっている。
どれだけの被害が出るかは分からないが、少なくとも大勢の死者が出る事に違いはない。
自分を認めなかった学院に、今夜、正義の鉄槌を下す。因果応報とはこの事だろう。
──────もうすぐ夜明けだ。
爆弾の準備は完璧。
夜闇に紛れ学院に忍び込み、警備の薄い場所を狙って既にセットした。スイッチを押せばタイマーのカウントが始まるだろう。
俺の味わった苦しみを知るがいい。
フフフ、と手元の時限爆弾の起動スイッチを手に、私は机に置かれたコーヒーを一口、あおった。
────────────
……ヒソヒソ
帝都の外れ。
主婦達が、今日も噂話に花を咲かせていた。
「ねえ、聞きました?ドクトールさん所の一人息子、今朝方、心臓発作で亡くなったんですって!」
「驚きましたねぇ、学院から帰って来て、20年も引きこもってたんでしょう?ロクに働きもせず……。何か病気にでもなっていたんじゃありません?」
「さあ。でも、あそこの奥さん、いつもお顔が優れなかったというか……。旦那様も早くに亡くしておられたでしょう?相談出来る相手もおらず、この度息子さんまで……お可哀想に」
時限爆弾→母親の心。
出されたコーヒーってとこがミソです。
次は早めに更新します。
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