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───山奥の邸宅で起きた殺人事件。
殺されたのは家主のゴードン。この一帯の大商人であった。
違法スレスレの金利で金貸しを行っていたこの男を恨む者は数多く、ラナン市警による捜査は難航するかに思われたが……。
ロス刑事が呼び寄せた探偵の推理により、容疑者は二人に絞られた。
ゴードンの妻、モレーヌ。
そして二人の一人娘、シャルロット。
何と、二人とも死んだ被害者の家族だった。
このどちらかが、被害者を殺した犯人なのだ。
───雨降りの午後。
とあるBAR。
刑事と探偵が事件について話をしていた。
「なるほど……確かに探偵殿の言う通り、部屋に入れたのは被害者の妻と娘の二人だけだ。割られていた窓のガラス片からその事を推理するとは、さすがだな」
「いえ。それが私の仕事ですので」
ロス刑事は手放しに探偵を称賛する。
探偵は刑事がよこした資料を手に読み上げた。
「ふ~む。妻モレーヌは前の夫を事故で失っているが、実はゴードンの商会が裏で手を回していた可能性があった、と」
「いやはや、証拠は無いんだがな。当時を知る商会仲間は皆噂していたそうだ。その後、経済的な危機に陥ったモレーヌの実家にゴードンが手を回し、見返りに再婚を迫ったという話だ」
「そして娘のシャルロットは……親しくしていた恋人と引き離され、婚約相手を無理やり決められた。ははあ……」
この殺伐とした権力社会に珍しい話ではないが、当事者にとっては如何ともしがたい。
殺害動機としては充分あり得る話である。
「後はこのダイイングメッセージだが……犯人が分かったというのは本当かね?探偵殿」
「ええ。といっても、まだ確証はありませんが、予想は付きました」
探偵が指で指し示したのは、殺人現場の写真。
茶色いチョコレート色の紳士帽のつばを噛みしめ、死んでいるゴードンの奇妙な死体が映っている。
「刺殺だ。事切れる前に幾ばくか時間があったのだろう……全く、犯人の名前でも書いてくれればよかろうに」
「書く物を犯人に取り除かれていたのでしょう。ですが、殺されたゴードン氏は事切れる前に犯人が誰であるかを示すメッセージを残しています。幸運な事に、彼の手元にヒントとなる物があったのです」
写真を指差して探偵は刑事に説明する。
「ううむ、それが口にした帽子だと言うのか?」
「そうです。話の続きは───長くなるので事件現場でお話ししましょうか」
────
「では、私が先にゴードンさんの家へ向かい、連絡を付けておこう」
BARの軒先で傘を差すロス刑事に、探偵は微笑みながら呟いた。
「生憎の雨だ。刑事殿、私は馬車で向かうが、乗り合わせるかな?」
「そうさせてもらっても良いが……最近ヨメさんに中年太りを笑われてな。邸宅は峠を越えた先だ。運動がてら、歩いて向かうさ。君は後からゆっくり向かってくれ」
「ハハハ、なら仕方ない」
そう言って、ロス刑事は一人、ゴードン邸へと歩みを進める。
探偵はゆっくりとBARのお酒と音楽を楽しんだ後、しばらくして迎えに来た馬車に乗り、山奥の邸宅に向かった。
───それから数時間後
───ゴードン邸
「ちょっと刑事さん!いつまで待たせる気?とっとと事件の真相とやらを教えなさいよ!」
「私や娘が夫を殺すなんて、ありえません。こうしてる間にも、犯人がまだ近くをうろついているかも……ああ恐ろしい!」
ゴードン家のモレーヌとシャルロットはいつになっても始まらない捜査に苛立っていた。
それもこれも、定刻を過ぎてもなかなか現れない探偵の到着を待っている為である。
「遅い……一体どうしたのか」
時間にルーズな奴ではなかったはずだが。
何にしても、件の二人をこれ以上待たせるのはまずい。時間はかかるが……一言断って、部下に奴の様子を見にいかせる他あるまい。
そう思ったロス刑事が部屋を出ようとした所、廊下の奥からゴードン家の執事が慌てた様子で走り寄って来た。
「け、刑事さん。た、大変な事になりました……」
「どうしたんですか?」
「先程電報が入りまして……この先の峠道で落石が起こり、馬車が崩落に巻き込まれたそうです」
「何だと!?その馬車には───」
「御者は何とか救助されたのですが、巻き込まれた男性客が……そ、その……大岩に押しつぶされ、胴の下から真っ二つに……」
推理要素は、一応考えてますがおまけ程度です。




