60.必要経費。
王国に、隣の帝国が宣戦布告してから早三日。
強国である帝国の侵攻は激しく、小さな王国では抵抗もむなしい。
このままではいずれ……という所に、空から見た事も無い、空を飛ぶ円盤が現れた。
砂ぼこりを立てて着陸した円盤から出て来たのは……見慣れぬおかしな服を着た、ツルツル頭で赤い肌の、タコのような顔をした人型の生き物だった。
「何だあれは!」
「神の使いか?それとも魔物の一種か?」
民衆は大声でわめき立てる。
騒ぎを聞きつけた騎士が、何事かと群衆をかき分けてやって来た。
人型の生き物は、驚く王国民を尻目に、やって来た騎士にこう言った。
「あーあー。これはこれは。驚かせたようで、申し訳ございません。実は私、宇宙をまたにかける商人でして……ここから遠く離れた、ピコ星からやって来ました。どうでしょう?何か、お望みの品物がおありでしたら、何でもご用意いたしますが?」
丁寧なこの星の公共語を流暢に話し出したピコ星人。
友好的な未知の生き物にどうしたものかと困り果てた騎士は、危険が無い事を確認した後、王の住まう王宮まで案内する事にした。
帝国との戦争が始まり、初めは負けムードの漂う王国だったが……空からやって来た商人が提供した、見た事も聞いた事も無い様々な武器を目にした事で、たちまち好転した。
この国で武器と言えば剣や槍。飛び道具には弓、あとは殺傷武器、クロスボウが関の山だったが……商人が提供した武器の数々は我々の常識を見事に打ち砕いたのだ。
複雑な機構で作られた、GUNという飛び道具は、訓練を殆ど必要とせずに投入出来、大いに戦果を挙げる結果となった。
それを皮切りに、グレネード、エムジー、火炎放射器、索敵判別地雷……ありとあらゆる未知の武器を取り揃えていた商人は、余す所なく王国の軍人に武器を提供していった。
その結果は……言うまでも無く、王国側の圧倒的な勝利。
何が起きたのか理解出来ない帝国兵の中には、「王国は悪魔を味方につけた」と騒ぎ立てる者もいたという。
────それから数週間後。
勲一等、という事で、空からやって来た商人は王宮に呼ばれ、王からお褒めの言葉を賜る事となった。
「いやはや、全てはそなたのお陰だ!何と礼を言って良いやら……感謝する。本当に感謝するぞ!」
国王は、ニコニコとほほ笑む商人に礼を尽くした。
その言葉に、恐れ多いといった様子の商人は頭を下げながら会釈を繰り返す。
「とんでもございません。この度の戦争の勝利、おめでとうございます。私のもたらした商品、満足していただけたようで、何よりにございます」
「うむ!そなたがいなければ、我が国は帝国との戦争に負け、悲惨な末路を辿ったであろう。さて、何を褒美として良いやら」
「いえいえ、褒美など、お褒めの言葉を頂くだけで十分です。それに、『約束』も守って頂けたようですし」
「あ、ああ……。だが……本当に良かったのか?あれだけの素晴らしい武器の数々、私は国庫が傾く程の莫大な報酬が対価だと考え、其方にどう交渉しようか悩んでいたのだが」
「はいはい。最初にお話しした通り、お代は結構です」
商人が王国に要求したのは、兵士に提供した武器を積極的に使用させ、派手に戦場を駆け回らせる事。
これだけだった。
戦争を始めたのは向こう側であったので、良心の呵責だ何だとは言う事は無かったものの……何分、おかしな話だと言うのは変わらない。
「なぜ、ここまで私達にご助力下さるのです?、無報酬と言うのは商人の一番嫌う言葉ではありませんか?」
恐る恐る軍務大臣が助力の理由を願った所、商人は変わらぬ笑顔で答えた。
「ははあ……無報酬である、というのは間違いです。今回の件で、私はきちんと報酬を得られる手はずとなっています。投資した以上の報酬を回収出来ますので心配無用です。今回の物資の提供は、言わば……『必要経費』というものでしょうか」
「ヒツヨーケイヒ?」
「ははは、これ以上は説明出来ませんのであしからず。この度は、お声がけ下さり、ありがとうございました」
数日後、商人は飛行船に乗り込み、自分の星に帰って行った。
勿論、引き留めようとする者は数多くいたが、王様が公の場でそれを自重させた。
当たり前だ。未知の空飛ぶ船、未知の武器……自分達の知らない知識を持った者ほど、怖い存在は無い。怒りを買って王国が滅びるなど、馬鹿らしい。
「それにしても……彼の者は一体、どんな目的でこの星にやって来たのでしょう。ヒツヨーケイヒ、とか言っていましたが、我々に味方する事で何が得られると言うのか……」
「さあな。彼の者が悪魔のような存在で、戦いで散った者の魂を食らう……とかであったなら得心もするのだが、考えても仕方があるまい。それに、考えた所で抵抗も出来ぬ。友好的に帰って行った彼の者の心変わりが起きぬように祈るしかないさ」
不安から胸を抑える大臣に、王様は労いの言葉をかけるばかりだった。
───宇宙船
惑星を飛び立った宇宙人は、モニターに映る宇宙の視聴者に軽快なトークを披露していた。
「やあ!皆、久しぶりだね。僕のU-Tubeチャンネル『PICOちゃんねる』どうだった?」
「今回の企画『古臭~い戦争をしている文化的発展途上国の異星人に、未知の兵器を与えたら戦場はどう変わるか?』お楽しみいただけたかい?」
「ライブ放送期間一年とか……ぶっ飛んだ企画だったけど、結構な反響があったようで。嬉しい限りだよ!苦労したかいがある。ああ、今更ですが、グロNGとか言う人、いたらごめんなさいね(笑)派手に戦ってる様子が映った方が、盛り上がるかなーと思って、そういう演出にしているんだ。だから炎上系とか言われるのかも……ハハハ、今回も無事、収益化黒字達成!ほんと、皆様に感謝感謝だね!」
「次の企画も期待して待ってて!では!」




